一昨日のことだが、宿のふとん干しをしようかと空を見上げると、どうも太陽の様子がおかしい。
快晴で眩しいので、日陰に入って手をかざしながら見直してみると。
太陽のまわりを大きな輪がぐるりと取り囲んでいるのだった。
さらに目を凝らせば、その輪っかには確かにかすかな色がついている。
虹?
雨上がりの夕刻、ダブルの虹は何度か見たことがあるけれど、快晴の真っ昼間に太陽を囲む虹を見るのは初めてのことである。
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きっと、これは何かの吉兆に違いない。
少なくとも、村の信仰や迷信に何らかの関わりがあるはずだ。
そう期待して嫁のラーに声をかけると、とりたてて反応はない。
おまけに、「色なんかついていないよ。これは虹じゃない」と素っ気なく言い返す始末。
もっとも、彼女の目はファラン(欧米人)並みに紫外線に弱く、サングラスがないと外出できないほどなのだから、それも仕方がないだろう。
それにしても、なあ。
ダブルの虹が出た時には「これはいいことがあるよ」と大喜びだったし。
数年前の皆既月食のときには、「月がなくなる! 月が消えてしまうぞう」と大騒ぎして、彼女を始めとする村の衆はバケツや鍋などをガンガン叩いて“月を食おうとしている魔物”を必死で追っ払おうとしたものだったのだが。
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なんだか肩すかしを喰らった感じで、それでも暇な番頭さんはこの珍しい現象を飽くことなく眺めていたのだったが。
そのうちに、その虹の輪がキラキラと輝き始めたかと思いきや、太陽の中から無数の黒点が湧き出し急降下してきた。
あっという間に頭上に迫ってきたのは、銀色に輝く円盤状の謎の飛行物体。
UFO!?
なあんだ、毎年恒例の「ETオムコイ訪問交流団」の来襲じゃないかよお。
この時期になると、カレン族の美少女が数百人も宇宙に連れ去られるのである。
村にとっては当たり前のことだから、ラーも全然騒がなかったんだよなあ。
*
むろん、上記6行は真っ赤な嘘なのだが、こうでも書かなきゃ肩すかしを喰らった鬱憤に収まりがつかないというものだ。
「ラー、本当にこれは吉兆じゃないのか? たとえば、わがバンブーハウスが一夜にして豪華リゾートに変身するとか、一年中金のなる蘭の花が咲き狂うとか」
「そうだねえ。なんでもないと思うけど、そんなに気になるんなら、試しに100バーツ分だけ宝くじでも買ってみる?」
「そうか、そうか、その手があったな」
その翌日。
太陽と虹に関わりのある宝くじ番号をあれこれ模索して、ふと空を見上げると。
あれれえ、またまた太陽のまわりにぐるりと大きな虹が。
・・・なんだよお、またかよお。
これじゃあ、ちっとも珍しくなんかないじゃんかよお。
なにが、ラッキー・レインボウだい!
暇な番頭さん、子供みたいに口をとんがらしながら、一等賞の200万バーツに変身する筈だった苦心の組み合わせ番号を乱暴に足で踏み消しましたとさ。
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