雨が、ぱたりと降らなくなった。
田んぼの水不足も、深刻になってきたようだ。
「田起こしが全然できません」
朝から店にやってきた甥っ子のジョーが、ニンニク搗きを手伝いながら、珍しく愚痴をこぼす。
彼はいま、“水争い”に巻き込まれている。
*
彼らの棚田は川に至る傾斜地にあるのだが、その上にある田んぼの持ち主が水を塞き止めてしまい、彼らの田んぼに水が流れてこないというのである。
次姉はおとなしい人で、ジョーも争いごとを好まない。
そこで、先日ラーが出張っていって、その相手にねじ込んだ。
かなり激しい言い争いになって、結局その持ち主はしぶしぶ堰を開けたのであるが、次の日からはまた塞き止めてしまったという。
まあ、自分の田んぼの水だけでも確保したいという気持ちは分からないではないが、お互いに助け合って田植えや稲刈りを行ってきたカレン族としては、風上にもおけない。
「ジョー、黙っていると舐められるだけだぞ。たまには、喧嘩もしなくちゃ」
「だけど、毎日言い争いをするなんて耐えられません」
「そりゃあ、そうだろうけど・・・」
しかし、私やラーが毎日代理戦争に駆けつけるというわけにもいかない。
以前は、こうした場合、村の長老たちが調停に立っていたらしいが、経済原理最優先の今ではそうした自治機能は働かなくなっている。
結局、村長に話を持って行くしかないのだが、若いタイ人の村長はいまひとつ当てにならない。
カレン族の心は本当のところ理解できないから、下手なやり方をすれば禍根を残し兼ねないのだ。
なにしろ私やラーとは違って、次姉やジョーは毎日その相手と顔を突き合わせなければならないのだから。
*
やれやれ。
こうなると、とにかく例年のように雨が降ってくれることを祈るしかない。
だが、今日の空も薄雲に覆われて蒸し暑いとはいえ、雨の降る気配はまったくない。
1週間ほど前には、村の衆が集まって黒豚をつぶし、モーピー(霊媒師)に頼んで雨乞いの祈願をしたのであるけれど、その効果は全然現れないようである。
そのモーピー、つい先日はすっかり酔っぱらってわが店に立ち寄り、くだらんエロ話ばかりして返って行ったものだが、ちっとは反省しているのだろうか。
村の衆に妙な期待を持たせて裏切るくらいなら、モーピーの称号などすぐさま返上してもらいたいものだ。
*写真は、川沿いで掘った筍。今年は、不作のようである。
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