【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【ラーの村へ】

2007年06月23日 | アジア回帰
 明日から、カレン族のラーの村を訪ねることになった。

 チェンマイからバスで4時間半ほどかかるオムコイという南西の山中である。

      *

 絶交してから5日ほど一切の接触を絶っていたのだが、彼女が私の風邪の具合を本気で心配してくれていたことが分かって、改めてじっくり話し合ってみると、さまざまな誤解が氷解したのである。

 昨日、今日は、宿のすぐそばにあるワット・ジェットリングの奥の院に入り込み、蓮池の脇にある竹の小屋で涼しい風に当たりつつ昼寝をしながら、いろんなことを語り合った。

「キヨシは私のほんの一部しか知らない。チェンマイでお酒を飲んだり、ファランとふざけあっている私しか、ね。でもね、私の村に一緒に行ってくれれば、本当の私の姿を分かってくれると思う。私がいかに家族や村の人たちのために働き、たくさんの友だちを助けているか。それを、ぜひその目で確かめてほしいの」

 その落ち着いた語り口と真剣なまなざしをまのあたりにすると、確かにラーはまだ私の知らないさまざまな側面を持っているようにも思えてくる。

 酒好き、煙草好き、夜遊び好きといった部分を抜きにすれば、実に魅力的な人柄のこの女性とこのまま離れてしまうのは、いかにも惜しい気がしてきた。

 さよならするのは、いつでもできる。

 だから、もう一歩踏み込んでみようと思った。

 タイ北部の山岳民族との数奇な出会いを、もう少し掘り下げてみるのも悪くはないだろう。


 まさか、とって喰われるわけではあるまい。


 それに、ラーの友人の息子が犯したある事件について聞いているうちに、この村にはいまだにアヘンの影響が色濃く残っていることも分かった。

 町では得られないさまざまな情報も入手できるだろう。

「よし、分かった。せっかくラーと知り合えたのに、このままじゃいかにも中途半端だ。キミが村に帰るのなら、俺も一緒に行こう。そして、キミをもっと理解できるように努めてみるよ」

「本当?ああ、よかった。じゃあ、さっそく家族に電話するね。村のしきたりで私の家には泊まれないけど、近くにリゾートがあるから、そちらも予約しておく。どのくらい泊まれるの?」

「友だちを助けるために休止したマッサージ学校は、いつ再開するんだい?」

「来月の2日から」

「じゃあ、俺もそれに合わせる。つまり、キミの都合次第だ」

「分かった」

 その後、私たちは宿のとなりのなじみの食堂でビールを飲みつつ夕食をとった。

 同じカレン族の若いおかみが、「あれ?仲直りしたの?」と言いながらうれしそうに笑った。

 ここ数日、彼女はなにかとふたりのことを心配してくれていたのだ。

 食事のあとに、久々にバビロン(ライブバー)に出かけた。

 だが、ラーが疲れを訴えたので、すぐに宿に戻った。

 しばらくすると、ラーがタイガーバームを手にして私の部屋のドアを叩いた。

「キヨシ、疲れて眠れないの。マッサージ頼んでいい?」

「おいおい、マッサージを学んでいるのはお前さんの方だろう。練習のために、俺にマッサージしてくれよ」

「この2日間、友だちの息子の件でほとんで寝てないの。お願い!」

 やれやれ。

 わがままぶりは、相変わらずである。

     *

 話は変わるが、今日はベンから「最後の電話」がかかってきた。

 この1週間、ものを食べることができずにいるといい、息も絶え絶えという感じの話しぶりだった。

「キヨシ、わたし、いよいよあなたにさよならを言わなくちゃいけない。家族で話し合って、私を助けるためにバンコクの叔母が家を売ることになったの。そして、叔母の家族と私とで叔父の実家のある中国に行くことになったの」

「中国のどこ?」

「分からない。わたしはこの1週間叔母の家で寝たきりだったから。叔母が心配して、ランパーンまで運転して祖父母と父母をバンコクまでつれてきてくれたの。そして、中国に行けば私にいい治療が受けさせられるという結論に達したみたいなの」

 なぜ、中国なのか。

 相変わらず、この飛躍ぶりが分からないが、いまのベンにこれ以上の説明は求められない。

「とにかく、あなたにありがとうとさようならが言いたくて」

「・・・」

「ラーとは、いつ結婚するの?」

「結婚なんかしないよ。ラーは、まだ知り合ったばかりのただの友だちだ」

「・・・そう。でも、わたしはあなたに幸せになってほしい」

「ありがとう、ベン。俺はキミを助けてあげたいが、もう何もできない。でも、俺はキミが大好きだ。大丈夫、きっとよくなるよ。そして、いつかタイに戻れるさ。キミのことは絶対に忘れない」

「ありがとう。幸せにね。グッドラック」

「グッドラック」

 電話の切れたツー・・・という音だけが、今も耳に残っている。

 

 
 
 
 
 
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