「豚を買いたいっていう人が来ているぞ!」
豚舎の近くに自力で作業小屋を建てている義兄(長姉の夫)から、電話がかかってきた。
さっそく駆けつけてみると、カレン族の夫婦が待っている。
なにやら、祝い事のために豚をつぶすらしい。
長姉が近寄ってきて、「2頭を5,000バーツでどうかって言ってるよ」と耳打ちする。
あちゃーっ。
ということは、1頭2,500バーツ?
我々は生後1ヶ月あまりの仔豚を1頭1,700バーツで購入したのだが、その時点では「3ヶ月後には5,000~6,000バーツで売れる」という話だった。
昨日も書いたように、豚の飼料は毎月値上がりしており、彼らはすでに1頭あたり約1,000バーツの餌を胃袋に収めている。
つまり、労賃を含む1頭あたりの投資費用は、すでに2,700バーツを超えているのである。
これまでの苦労を考えると、とても2,500バーツで売る気にはなれない。
*
買い手が欲しがっているのは雄2頭で、体重はそれぞれ80キロくらいだろうか。
オムコイでの市場価格は、現時点で1キロ50バーツだという。
「とにかく、重さを計ってみよう。秤はあるんだろう?」
ラーが長姉に尋ねると、「そんなものはない」という返事。
「え?前にここで秤を見たことがあるぞ」
「ああ、それは他の人のもので姉は持っていないの」
なってこったい。
「じゃあ、どうやって値段を決めるんだ?」
「値段はクンター次第よ」
うーん、参った。
*
「・・・1頭4,000バーツ、最低でも3,500バーツは欲しいな。なにしろ、餌代が高いからなあ」
ラーに耳打ちすると、買い手の夫婦が話し合って「それじゃあ、高すぎるから1頭3,000バーツでどうだろう」という。
それでも、労賃を含めば完全な赤字である。
このあと、3,000バーツと3,500バーツの間でのせめぎ合いが続いたが、なかなか決着が着かない。
とうとうラーが、折れそうになった。
「クンター、このまま買い手がつかないと餌代がかかるだけだよ。3,000バーツで手を打って、仔豚をまた買ったほうがいいいんじゃない?」
「あのなあ、仔豚を買うときに絶対儲かると言ったのはお前さんだぞ。労賃を考えれば、完全な赤字だ。いったい、何を・・・・」
しかし、いまは“豚も食わない”夫婦喧嘩などしている場合ではない。
「考えているんだ!」という言葉を呑み込んで、頭の中でもう一度計算してみるが、結果は同じである。
3,000バーツでは、どうしても売る気になれない。
こうなったら、意地である。
“先々言い値で売れなければ、ペットとして可愛がっていけばいいじゃないか・・・”
かつてはビジネス本も書いたことのある人間にあるまじき非経済的なことを考えながら、ラーにもう一度駄目出しをする。
相手は、「高すぎて買えない」と繰り返して商談は決裂した。
*
屋根葺きが終わったばかりの作業小屋で、ラーが義兄と何やら話し込んでいる。
どうやら、それぞれの豚の売り値を決めて、これから買いたいという人が来たら、まずは売り値を告げてから交渉に入る、という手順を定めているらしい。
ラーがなかなか通訳をしないので、私はバナナ園の中腹に建てられた作業小屋から見える山並みや青い空、白い雲をぼんやりと眺めるばかりだ。
そうしているうちに、500バーツをめぐっての攻防がなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「こんなタイの山奥で、俺はいったい何をやっているんだろう・・・」
苦笑しながら呟く言葉は、“マイペンライ(問題ないよ、気にしない、気にしない)”
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豚舎の近くに自力で作業小屋を建てている義兄(長姉の夫)から、電話がかかってきた。
さっそく駆けつけてみると、カレン族の夫婦が待っている。
なにやら、祝い事のために豚をつぶすらしい。
長姉が近寄ってきて、「2頭を5,000バーツでどうかって言ってるよ」と耳打ちする。
あちゃーっ。
ということは、1頭2,500バーツ?
我々は生後1ヶ月あまりの仔豚を1頭1,700バーツで購入したのだが、その時点では「3ヶ月後には5,000~6,000バーツで売れる」という話だった。
昨日も書いたように、豚の飼料は毎月値上がりしており、彼らはすでに1頭あたり約1,000バーツの餌を胃袋に収めている。
つまり、労賃を含む1頭あたりの投資費用は、すでに2,700バーツを超えているのである。
これまでの苦労を考えると、とても2,500バーツで売る気にはなれない。
*
買い手が欲しがっているのは雄2頭で、体重はそれぞれ80キロくらいだろうか。
オムコイでの市場価格は、現時点で1キロ50バーツだという。
「とにかく、重さを計ってみよう。秤はあるんだろう?」
ラーが長姉に尋ねると、「そんなものはない」という返事。
「え?前にここで秤を見たことがあるぞ」
「ああ、それは他の人のもので姉は持っていないの」
なってこったい。
「じゃあ、どうやって値段を決めるんだ?」
「値段はクンター次第よ」
うーん、参った。
*
「・・・1頭4,000バーツ、最低でも3,500バーツは欲しいな。なにしろ、餌代が高いからなあ」
ラーに耳打ちすると、買い手の夫婦が話し合って「それじゃあ、高すぎるから1頭3,000バーツでどうだろう」という。
それでも、労賃を含めば完全な赤字である。
このあと、3,000バーツと3,500バーツの間でのせめぎ合いが続いたが、なかなか決着が着かない。
とうとうラーが、折れそうになった。
「クンター、このまま買い手がつかないと餌代がかかるだけだよ。3,000バーツで手を打って、仔豚をまた買ったほうがいいいんじゃない?」
「あのなあ、仔豚を買うときに絶対儲かると言ったのはお前さんだぞ。労賃を考えれば、完全な赤字だ。いったい、何を・・・・」
しかし、いまは“豚も食わない”夫婦喧嘩などしている場合ではない。
「考えているんだ!」という言葉を呑み込んで、頭の中でもう一度計算してみるが、結果は同じである。
3,000バーツでは、どうしても売る気になれない。
こうなったら、意地である。
“先々言い値で売れなければ、ペットとして可愛がっていけばいいじゃないか・・・”
かつてはビジネス本も書いたことのある人間にあるまじき非経済的なことを考えながら、ラーにもう一度駄目出しをする。
相手は、「高すぎて買えない」と繰り返して商談は決裂した。
*
屋根葺きが終わったばかりの作業小屋で、ラーが義兄と何やら話し込んでいる。
どうやら、それぞれの豚の売り値を決めて、これから買いたいという人が来たら、まずは売り値を告げてから交渉に入る、という手順を定めているらしい。
ラーがなかなか通訳をしないので、私はバナナ園の中腹に建てられた作業小屋から見える山並みや青い空、白い雲をぼんやりと眺めるばかりだ。
そうしているうちに、500バーツをめぐっての攻防がなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「こんなタイの山奥で、俺はいったい何をやっているんだろう・・・」
苦笑しながら呟く言葉は、“マイペンライ(問題ないよ、気にしない、気にしない)”
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