明け方から、断続的に激しい雨が降り続いている。
午前7時の気温は、21℃。
日本の晩秋といったムードである。
なんだか、奥多摩あたりの低山を歩きたくなってきた。
*
最近、東隣りの太っちょ氏が顔を合わせてもすぐに目をそらすようになった。
以前は、「クンター、キンカオルーヤン(ご飯食べた)?キンアライ(何食べたの)?」などと毎日声をかけてくれていたのだが、この突然の変容はいったい何を意味するのだろうか。
「ラー、彼はなぜか俺を嫌っているみたいだな」
「たぶん、クンターに嫉妬しているんじゃない?」
「俺に?どうして?」
「若くてきれいな奥さんと結婚したから」
「はぁ?」
「冗談、冗談。あのね、彼は裏の土地をずっと買いたがっていたんだけど、あたしたち家族に遠慮して我慢してきたんだよ。ところが、クンターが実際に買い戻しちゃったから、悔しくなってきたんだと思うよ、きっと」
「ふーん、そりゃ悪いことをしたなあ。でも、彼は医療援助の仕事も持ってるし、牛も田んぼもクルマも持ってる。ウチよりずっと金持ちなんだから、問題ないだろう?」
「あのね、村の人たちは高い教育が受けられなかったから、小さなことにもすぐに嫉むんだよ。クンターはカレン語が分からないからいいけど、隣り近所の噂話を聞いていると、ホントに頭が痛くなるんだから」
「・・・」
*
その彼が、今朝突然「鶏を買わないか」とラーに声をかけてきた。
私が微笑みかけても、相変わらずプイと横を向く。
甘やかされ放題の肥満児が拗ねているようで、思わず吹き出しそうになる。
「このきれいな雄鶏が100バーツなら安いよ」
「そうだな、ヒナを増やすには雄鶏ももう一羽欲しいな」
「ううん、この鶏はすぐに食べたほうがいいって」
「どうして?老鶏か、病気なんじゃないか?」
彼の態度を見ていると、どうも怪しい。
・・・まさか、毒は食わせていないだろうな。
「とにかく、あたし、久しぶりに鶏鍋が食べたいんだ」
「なーんだ、早く言えよ。余計な気をまわしてしまったじゃないか。それなら、ウチのうずら模様を一羽つぶせばいいさ」
「ウチの鶏はかわいくて、とても食べられないよ」
「・・・」
*
薪割りをやってくれたウーポー(太っちょ氏の実姉である)が首を絞めて、大ざっぱに羽根をむしる。
熱湯に通して、残った羽毛を完全にむしり取り、丸裸になったそれを焚火であぶる。
こんがりと焼けたところで腹を開き、肝や砂ずり、腸など食べられる内臓をよりわける(腸には細い棒を差し込んできれいにする)。
太ももや手羽、首などを大ざっぱに切り分けて、背骨まわりを小さく砕くと、下準備は完了である。
「今日は、ゲーンケー味でいこう!」
ラーはそう宣言して、すでにウコン・薬草入りスープを火にかけている(7月31日付け【タイラーンナー料理】ご参照)。
あとは、一緒に煮込むだけである。
*
「このスープ、クンターにはちょっと辛いかもしれない」
そういって、ラーが香辛料を入れずに煮込んだ太ももと内臓を別の器に入れてくれた(ちなみに、写真右手は昨夜の残りの洋風スープ)。
肝は大ぶりでなかなかの味だが、太ももの肉がやたらに固くて、なかなか噛み切れない。
「ラー、やっぱりこれ、役立たずの老鶏だよ」
「・・・」
実姉のウーポーも一緒に食卓を囲んでいるから、まさか「太っちょ氏に一杯喰わされた」」などと冗談は言えない。
もっとも、この姉弟は土地相続をめぐって冷たい関係になっており、彼女自身からいつも弟の悪口を聞かされているから問題はないのだが、これをきっかけにまた盛大な悪口が始まっては朝飯がまずくなる。
ラーも珍しく、表情を変えないまま黙ってスープに舌鼓を打っている。
言うほどに辛くはなく、なかなかいい味だ。
これでスープの方までまずかったら、目も当てられないところだった。
*
それにしても、まいるよなあ。
この村では、今までニコニコ微笑みかけてくれた人が、突然挨拶もしなくなることは珍しくない。
そして、いつの間にかまたニコニコと微笑みかけてくるようになるから、何が起こったのかさっぱり分からないのである。
まあ、隣りの太っちょ氏のように、分かりやす過ぎるのもまた、困ったものではあるけれども・・・。
ところで、鶏の年齢を見極める方法というのはあるのだろうか?
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この隣のプンプイさん、自分からプイッとして撒いた種だけど結局気まずくなり元の関係に戻ろうとキッカケをつくったのかもしれないですよね。シャイなタイ人の事ですからね。
..って、ポジティブ過ぎかな(^.^;)
結果不味かったかもしれませんが奥様ラーさんをもってしても見抜けなかった程のモモ肉の不味さ..(T〇T)果たして隣のプンプイさんは見抜いていたのかなぁなんて思ってしまいました。(^^)
インコの年齢を見極める方法があるとは、知りませんでした。一度、鶏の目玉をじっくり観察してみることにします。
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なかちゃん
私の考え過ぎかもしれませんが、村の衆は「魚捕りに行く前に彼に会うと、魚が捕れなくなる」と噂しており、ちょっと手ごわい相手のようです(笑)。
あはは!(^^)なるほど、ちょっと変わった『名物オヤジ』的な存在なんですかね。最近の日本(特に都会)は隣の人がどんな人間なのかも知らない人が多い状況なのでクンターさんの住むオムコイが逆に羨ましくも思います。
僕が子供の頃は近くに寄っただけで意味も無く怒鳴り散らすオヤジとかも居たんですけどね..。