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ブックレビュー:強い工場

2004-07-19 22:56:06 | ブックレビュー
書名:強い工場
著者:後藤 康浩
発行所:日本経済新聞社
ISBN:4-532-31052-0

日経の夕刊に掲載されていた連載記事をまとめた本で、日本の製造業をリードする企業の工場での、生産の現場でのさまざまな工夫を取り上げた本です。
伝統的なソフトウェアの開発プロセスは「工学的であること」を目標として来ました。それは特に建築との比喩で次のように語られるものです。

「日曜大工で犬小屋をつくるのであれば設計図もいらないし適当に部品をあつめていきなり作り始めてもいいだろう。失敗してもせいぜい犬が困るだけだ。しかし、高層ビルを作るとなると話は別だ。きちんと設計図を書き、計画的に作業を進めなければまともなビルを完成させることは難しい。ソフトウェアも同じだ。日曜プログラミングならいざ知らず、商用レベルのソフトウェアを作り上げるにはきちんと工程をふんで計画通り作業をすすめる必要がある。」

一見ものすごく説得力がある比喩なのですが、最近アジャイル開発手法の勉強をすすめるにつれて、いろいろと疑問が湧いてきました。まず、ソフトウェア開発はそこまで建築に似ていないだろう、ということがあります。建築よりもずっと設計にかかる比重が大きいし、仕様変更もあります。
おなじものづくりでも業種が違えば製造へのアプローチも違うはずです。

という問題意識から本屋さんで手に取ったのがこの本です。

日本の製造業の世界ではウォーターフォール型の開発プロセスが手本にしてきたような流れ作業での生産が全てでは無くなってきています。キャノン、松下電器、NECなどの日本を代表するメーカーではかわって「セル生産方式」という方式が採用されています。
セル生産方式では、1人から数人のチーム(これをセルと呼ぶ)を組んで1つの製品の全工程を担当します。流れ作業ではベルトコンベアーのスピード以上では生産出来ないのに対し、セル生産方式ではセルのメンバーが自律的に生産性工場への創意工夫を重ね、より高い生産性を実現しているとのことです。考え方的には完全にアジャイルですね。
この他にも「アジャイルな」(としか僕には思えない)方法論によって高い効果を上げたエピソードが多く紹介されていて、思わずニヤリとしてしまいます。大切なのはプロセス自体よりも、よりよいものをつくろうとする創意工夫と、そのような創意工夫の生まれやすい土壌を育てる努力なのだと、あらためて思いました。
日本のSIerの中にもそのような土壌がそだって「強いSIer」になっていかないと、アメリカはもとより中国やインドにはとても勝てないのではないかという強い危機感が僕の中にあります。いま僕がおかれてる状況をみるといろんな意味で正直厳しいかなぁ、と思ってしまいますが。。。
最後に本書のなかで気に入った部分はいくつかあるのですが、一つだけ引用したいと思います。

(p116 NEC埼玉の例)
需要が急増し始めた携帯電話端末を増産するため、ベルトコンベヤーの流れ作業にソニー製の最新鋭の組み立てロボットを導入した。一台約二千万円。ソニーがウォークマン生産のため開発したといわれるだけに三次元加工など複雑な作業に対応できる「期待通りの優秀な装置だった」。
だが、生産現場にとっては操作が複雑すぎた。生産機種変更のたびにプログラムを書き換え、設定して動かし始めるのに二ヵ月もかかった。動き始めれば効率はそれなりによかったが、止まっている期間が長く、その間は生産は落ち込んだ。
当時、携帯端末の大口の注文を受けていたが、ロボットの停止で生産は遅れ気味だった。納期が迫ってやむにやまれず、部品装填などロボットの補助業務に雇っていた女性のパート作業者七人に携帯端末を手作業で組み立ててもらった。
驚くべき現象が起きた。七人の手作業がロボットの生産台数を上回った。ロボットを使わず、ロボットの補助をしていた作業者が組み立てた方が効率が上がったのだ。

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