一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第3期女流王座戦・挑戦者決定戦の一局を振り返る

2013-09-16 02:34:00 | 女流棋戦
6日(金)は、女流王座戦挑戦者決定戦・里見香奈女流四冠と本田小百合女流三段の一戦が行われた。
実力者の本田ではあるが、相手は奨励会二段の里見。さすがに相手が悪いと思われた。
将棋は後手番里見のゴキゲン中飛車。本田は穴熊に組む。玉を固める得意の戦型になり、とりあえずは本田が力を出し切れる展開になった。
里見も穴熊に潜り、中央から戦いが始まった。ただ、里見の穴熊は棋風に合ってないと思う。美濃囲いからの捌きが里見らしいと思う。
里見は5八に歩を垂らし、と金を作る。本田も相手の手に乗って駒を捌き、よく戦う。気がつけば、優勢になっていた。
第一のハイライトは82手目、里見が△7九とと銀を取った局面。本田は少考で▲同金と払ったが、これが重大な逸機だった。
常識で考えれば「△7九と▲同金」はワンセットで、次に後手からどんな手が来ようが、▲7八金をと金で狙われるより、厳しさは緩和されているように思える。実戦は△7八銀打だが、これなら確かに、△7九とより凌ぎやすそうではないか。
だが実際はそんな猶予はなく、先手は△7九との瞬間に、相手玉を寄せに行かなければならなかったのだ。
となると、不可解なのは里見の指し手だ。「△7九と▲同金はワンセット」の先入観があったにせよ、ちょっと注意深い女流棋士なら、銀を取る前に念を入れて考えそうなところだ。
何しろこの時点で里見は、持ち時間を1時間以上も残していたのである。もしこれで負けていたら、里見はこれといった見せ場を作らないまま、ふつうに負けたことになる。これをどう解釈したらいいのだろう。
話を戻すが、将棋には、自分が悪手に気が付かなければ、相手も気が付かない、という「共感の法則」がある。里見も▲6一飛に気付いていれば別の手を指したはずで、そこを何のためらいもなく?銀を取ったため、本田も相手を信用して、▲同金と取ってしまったのだ。
もっとも本田は、▲7九同金で▲6一飛も見えていたが、その次△7三銀を読み、踏み切れなかったという。結局、運が里見に味方したのだ。
ただ、その後本田もよく戦い、再び勝利を手元まで引き寄せる。
110手目△5四同金の次が、第二のハイライト。本田の▲7五金打が、棋史に残る偉大な悪手。△6八竜で、一遍に受けなしになってしまった。
以下の指し手は、見るに忍びない。私ならグワーッと叫んで投げるところだが、朝から一日かけて作り上げた必勝の局面を、たった一手の悪手で棒に振ってしまったのだ。本田が投げきれない気持ちは痛いほど分かる。
が、里見は的確に寄せの網を絞る。本田は投了を告げるしかなかった。
本局、もし本田が83手目に▲6一飛と下ろしていたら、本田の快勝局として、自選次の一手に収録されただろう。しかしそれを逸し、111手目▲7五金打としたことが、皮肉なことに好局を名局に昇華させてしまった。繰り返すが、幻の▲6一飛と▲7五金打で、女流棋史に永遠に語り継がれる名局になったのである。
返す返すも本田は残念だったが、本田はまだ若い。これからいくらでも雪辱のチャンスはある。初タイトル目指して、頑張ってほしい。

というわけで、7月1日にアップした本戦トーナメントの勝敗予想は、計15局で6勝9敗に終わった。
1回戦の8局は5勝3敗だったが、以下の予想がガタガタ。例によって、組み合わせ自体が違うケースも多々あった。中でも渡辺弥生女流初段の活躍には、頭が混乱した。だが皮肉でもなんでもなく、遅れてきた実力者の登場は、喜ばしかった。
そして挑戦者は予想どおり、里見女流四冠。一度は負けを覚悟しただろうから、これは1期ぶん儲けた感じではあるまいか。五番勝負も、肩の力が抜けていい将棋が指せると思う。
一方の加藤桃子女流王座は、相性のいい本田女流三段が出てくると思いきや、最強の女流棋士が勝ち上がり、複雑な気持ちだったろう。ただ、女流棋界最高のタイトルは、里見女流四冠から防衛してこそ価値がある。
ふたりの対局を楽しみにしたい。
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4 コメント

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もし語られるなら・・・ (瀬戸のひしお。)
2013-09-16 05:27:30
この一局が女流棋史に残るならそれは里見伝説のなかで女流棋界統一のターニングポイントとしてでしょうね。
その時には本田先生も過去の人で、女流棋界は甲斐先生以外は里見先生より下の年代が闊歩しているのでしょうか。
そうそう、甲斐先生といえば是非倉敷藤花のチャレンジャーになっていただきたいものです!。。。
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来季こそ (不利飛車迷人)
2013-09-16 06:39:16
残念でした。

大野教室でFji氏にあった時この女流王座戦挑戦者決定戦の話をされていました。

投了を告げて感想戦に入る際本田はトイレに駆け込みしばらく出てこなかったらしいとのこと。
おそらくあまりの悔しさにトイレで大泣きしていたのだろうと語っていました。

今年度の女流王座戦の行方はどうなるかわかりませんが、本田には来季にもう一度勝ち上がり挑戦者になってもらいたいです。

その時の番勝負の相手が里見であるなら最高の舞台なのだがはたしてどうなりますか。
返信する
スリリングな終盤戦 (T)
2013-09-16 16:19:13
本田さんは一つ前の伊奈川さんとの対局でも
終盤の寄せで考えられない"と金捨て"があって、
終盤力が少し甘い印象を持ちました。

本局でも甘さを見せてしまいました。

しかし、△7九との局面で△7九とが詰めろにならず、
▲6一飛が4六の飛車が働く突き歩詰めの詰めろになるとは
実にスリリングな展開でした。
ごく普通の▲7九同金が正解にならず、将棋の先入観を覆した不思議な局面でした。

ただ▲7九同金は致命傷にならず、むしろ問題はその後の指し手でしょう。
▲8一飛成あたりから少し違和感を感じていました。
▲7五金より前の▲7八銀や▲5四歩あたりでは
かなり混乱していたのでは?と思えました。

結局、負けた原因は終盤力不足ということに
なるのでしょうか?

偉そうに言える立場ではありませんが
終盤戦を里見さんと互角以上に戦えないのであれば
結局里見さん勝つのは難しいのかもしれません。

但し、里見さんもご指摘の通り、
時間があるのに負けても仕方がない変化に飛び込むところがあり
その辺が弱点なのかもしれません。
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小百合に期待 (一公)
2013-09-17 12:32:42
>瀬戸のひしお。さん
今後の女流棋界に関係なく、この将棋は永遠に語り継がれると思います。

>不利飛車迷人さん
本田先生は残念でした。本局では敗れたものの、本田先生の実力は、広く将棋ファンに認知されたといっていいでしょう。
これからの活躍を楽しみにしています。

>Tさん
本田先生の終盤はヨレヨレでした。秒読みということもありますが、一手1分あったのだから、もう少し何とかしてほしかったです。あれだけいい将棋を作ったのに、残念でなりません。
自身の弱点は本人も把握しているでしょうから、それを克服して、再登場してくれるでしょう。
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