赤羽公設秘書「違法ではない」と反論
「600万円はまだ返してもらっていない」
別件の取材で間延びしたが、9月6日付の「取材メモ」で報じた民進党の小熊慎司衆議院議員が公設秘書からの借入金600万円(政治団体「慎友会」の平成27年度分政治資金収支報告書)について、9月27日早朝、当事者の公設第2秘書赤羽勝範氏の自宅を訪れ、本人を直撃した。
玄関先で応対した赤羽氏の言い分はこうであった。
「秘書が自分の代議士にカネを貸しても違反ではない。だから(カネを貸した)自分の名前を政治資金収支報告書にそのまま記載した」
「それなのに(「取材メモ」で)私が何か悪いことをしたように書かれた。何も私の名前を出すことはないでしょう」と、まずは抗議を含めて反論。
さらに「渡部恒三先生のときも同じように自分の貸付け金を収支報告書に記載してきた。事務所を預かる者として、自分のカネを出して処理せざるを得ないときもある。恒三先生のときは、先生が引退したあと全額返済してもらった」と強調する。
取材記者が「小熊先生に貸したという600万円はすでに2年も経っているのだから、返してもらっているんでしょうね」と尋ねると、「まだ返してもらっていない」と赤羽氏。
「600万円ものカネを貸付けているんだから、当然、先生から借用証をとっているのでしょうね。返済期限とか、担保はどうなっているんですか」
この問いに赤羽氏は何ら反応せず、沈黙したままであった。
赤羽氏が「もう出掛けなければならない」というので、やりとりは以上であった。
「小熊先生に貸したカネはすでに全額返してもらった。短期間のことなので、借用証もとっていない」といえば済む話なのに、「まだ返してもらっていない」とは、赤羽氏は「以外と正直な人なんだ」というのが、取材記者の率直な感想である。
公設秘書の任免は国会議員の判断
「政治資金規正法」では、その借入金については、その借入先が個人であろうと、金融機関であろうと問わないことになっている。小熊代議士の赤羽秘書からの借入金は、このことにもとづく収支報告書の記載とみられる。
ただ、公設秘書という身分の赤羽氏が自分の先生に600万円ものカネ貸付けているということが、果たして額面通りなのかという疑問を、先の「取材メモ」で提起しただけである。
赤羽氏は、4年前の平成25年8月には小熊代議士(比例東北、維新)の公設第2秘書に登録されている。国会議員の公設秘書は特別職の国家公務員であり、「国会議員の秘書の給与等に関する法律」にもとづき、給料(秘書の区分、在職期間、年齢に応じてその額が定まり、昇給もある)のほか、住居手当、通勤手当、期末手当、勤勉手当が国費から支給される。また、災害補償や退職金が定められ、健康保険と厚生年金が適用される。
公設第2秘書の場合、給料月額が26万8,000円~39万3,400円。等級、号級の区分によって給料月額が異なってくるが、単純計算でも給料月額35万円とすれば年間420万円、期末手当や諸手当を含めると、最低でも年間5~600万円の支給になるのではなかろうか。
公設秘書は、各国会議員が補佐役として採用し、その議員の所属する院の議長の同意を得て届け出ることになっている。つまり公設秘書としての身分は、その国会議員にゆだねられている。公設秘書の任免は国会議員の判断ということである。
もちろん、渡部恒三代議士の地元秘書を長年務め、選挙区の事情にも詳しい有能な赤羽氏を小熊代議士がそう簡単に手離すはずもない。
「代議士にくれてやったのでは」との見方も
ところで、政治とカネ、不透明な政治資金をめぐる問題として、衆議院または参議院から支給される秘書給与を騙し取って、事務所経営費などにあてた秘書給与詐取事件が相次いだが、これらの事件に関連して問題となるのが、議員が公設秘書に献金を強制する事例である。
政治資金規正法上は、①年間5万円以上の寄付は、寄付した者の氏名を記載する。②1個人が1つの政治団体に年間150万円までなら寄付できる―などの条件をクリアできれば違法ではない。
しかし、国会議員秘書給与法第21条の3の規定では、公設秘書に対する政治団体への寄付の強制や勧誘は違法である。
また、公設秘書の任免という議員の職務に関して公設秘書から献金が行われた場合には、贈収賄が成立するという専門家の指摘もある。
政治団体「慎友会」の収支報告書(平成27年分)では、小熊代議士の赤羽秘書からの借入金は同年1月30日、3月10日、9月30日付で各200万円ずつ計600万円である。
この600万円という金額は、立候補者の供託金が小選挙区300万円、比例代表東北選挙区300万円の計600万円に符合する。前回衆議院選挙は平成26年12月14日投票で行われ、小熊氏は小選挙区で2期目の当選を果たした。
供託金の計600万円は小熊氏に戻っているわけだが、この供託金を用意したのが赤羽秘書だった可能性がある。赤羽氏本人が貸付けという形で提供したか、あるいは第三者から借りたが、その人の名前を出さないように、赤羽氏の名前で収支報告書に記載した、とも推測できる。
ところが供託金の600万円は別の返済や支払いにあてられてしまい、赤羽氏が語るように「まだ返してもらっていない」ということなのかもしれない。
「仮にそうだとしたら、代議士に600万円をくれてやったことになりはしないか。公設秘書の身分と引きかえに給与の1年分ぐらい先生にバックしても安いものだ」。会津の政界情勢に詳しい事情通はこうしたうがった見方をする。
いずれにしても「取材メモ」で提起したのは、政治資金収支報告書に記載された内容に対する率直な疑問である。政治とカネ、政治資金の透明性の確保にかかわる事柄であり、小熊代議士と赤羽秘書はさまざまな疑念をもたれることのないよう十分な説明責任を果たすことが必要なのではないか。