今週水曜日(2月28日)から今日までの4日間の日程で、「Cool Japan 2007」という非常に興味深いイベントがHarvard、MIT(マサチューセッツ工科大学)の共催で開かれていました。ポップミュージック、アニメ、映画、更にはアキバ系と言われる「オタク文化(Geek Culture)」まで、世界を席巻する日本のポップカルチャーがテーマのこのイベント。初日は筒井康隆氏の原作で細田守監督により映画化されたアニメ「時をかける少女」、二日目は日本のHip-Hopミュージシャンの演奏、三日目は今年1月よりアメリカでオンエアーが始ったAfro Samurai(アフロ侍)が放映され、最終日の今日は日本のポップカルチャーについてのパネルディスカッションが4時間にわたり行われました。
僕は今日のパネルディスカッションだけの参加となりましたが、開会直前に会場に入ると、既に開場は椅子が足りなくなる程の盛況ぶり。しかも日本人らしき人は数える程しか見当たらず、殆どが米国人あるいは米国で学ぶ外国人といった参加者の顔ぶれにまず驚かされます。
さらに驚きだったのは、パネラーのマニアックなプレゼンテーションの内容。
例えば、Loyola大学(シカゴ)のLaura Millar教授が「Extreme Makeover for a Heian-era Wizard(平安時代の魔術師の超イメージチェンジ)」とのタイトルで行ったプレゼンの主題は何と『陰陽師』の安部清明。夢枕獏(ゆめまくら ばく)の小説から始って、漫画、映画、さらには陰陽座というヘビメタ・バンドまで、様々な媒体を通じて“イメージチェンジ”を図りながら日本のティーンエイジャーの女の子達心をつかむ『陰陽師』の魅力をマニアックなまでに語りつくす内容。
続くChristina Yano ハワイ大学教授ハローキティーやルイ・ヴィドンのイメージキャラクターにもなった村上隆氏のSuperflatについて、そしてInan Condry MIT教授は『時をかける少女』について、それぞれのコンセプトや人気の背景について、持論を得々と展開。熱心にメモを取る参加者や、プレゼン終了後に途切れることなく続くマニアックな質問に、本家本元の日本人ながら思わず圧倒されてしまいました・・・
それにしても、何故アメリカ人がこんなにも日本のアニメに夢中になるんでしょう??会場で疑問をぶつけてみたところ、パネラーの三人を初め、3人の参加者から以下のような回答をもらうことが出来ました。
「多くのアメリカ人は異文化に接する機会が極めて少ない。多くのアメリカ人が、アメリカは世界の中心だと思っているが、実際は国外に出たことがない人が殆ど。そんなアメリカ人の心を日本のポップカルチャーがつかんでいる。」
・・・しかし、何でまた日本なんでしょう?
異文化だったらラテン・アメリカだってインドだって、世界のどの国だって魅力的な文化を持っているはず。なぜ日本の、しかもポップカルチャーなんでしょう?すると、
「日本は西欧以外で初めて民主主義の経済大国となった国。政治体制、経済レベルは似ているにも拘らず、その文化について見ると、企業文化から始って何もかもがあまりにも違う。トヨタやキャノンのような先進的な技術大国のイメージと、アニメなどのイメージのギャップが人気の背景にある一要素かもしれない。」
とのこと。ただ、日本のアニメは、例えば世界約70カ国で放映されているポケモンや、約40カ国で放映されているドラゴン・ボールがそうであるように、「無国籍性」という特徴を持っているという点もパネルディスカッションの中では指摘されていました。つまり、ぱっと見ただけではそれが日本製であるということを視聴者が気付きにくく、だからこそ万人受けするしているか部分もあるとのこと。だとすると、必ずしも「Japan Cool」として受け取られている訳ではないかもしれません。
第2部のパネル・ディスカッションは、こうした日本のポップカルチャーと政治との関係がテーマ。当然、Harvard 松下村塾での僕の研究テーマであるSoft Power論が議論の俎上に上ります。
興味深かったのがウィスコンシン大学のDavid Leheny教授が展開したSoft Power論とポップ・カルチャーの関係。Keheny教授は無類のアニメ好きの麻生太郎外務大臣のイニシアティブの下、最近日本の外務省や経済産業省が日本のポップ・カルチャーの国外での宣伝・普及に強力に取り組み始めている動きを紹介しつつ、こうした国の関与は、逆に「プロパガンダ」と受け取られ、政府の関与の外で育ってきたポップカルチャーの魅力を殺ぎかねないため、効果があるとは思えない。ポップカルチャーの普及の本来の姿は、興味のある人々が自然に発見して好きになっていくものであり、望ましい姿だと論を展開。
そして、むしろ政府は、例えば独占的なアニメ放映権によって圧倒的なバーゲニングパワーを与えられている全国放送局とアニメ製作会社との間の契約のあり方を見直す等を通じて、国内のアニメ制作会社をバックアップするような政策に取組むべきだ、と主張されていました。
パネルディスカッションではその他にも米国で大活躍するイチローや松井選手、そしてボストンのRed Soxに入団した松坂投手が取り上げられ、様々なジャンルでますます勢いを増す日本のカルチャーについて、熱い議論が交わされていました。
まさかボストンで『陰陽師』をテーマにしたディスカッションに参加するとは、半年前は予想だにしませんでしたが、日本の外に出て初めて実感する日本の様々な価値に触れた一日でした。
最後に、Harvard松下村塾でともに日本のSoft Powerを研究しているHarvard Education Schoolの本山勝寛さんのブログ『Road to Harvard』でも、Japan Coolのイベントが取り上げられているので、ここでご紹介します。彼の熱く燃えるような、しかし、謙虚でしなやか大志がビシビシ伝わってくる文章には、僕も日々鼓舞されています。
ポップカルチャーが即政治的ソフトパワーに繋がるとも言えないでしょう。ご指摘のように日本アニメは無国籍的で、海外ではタイトルや登場人物の名前も現地風に変更されて日本製と気付かれない例もありますし、また、ハリウッド映画を見てマクドナルドを食べても親米になるとは限らないのと同じことです。
とまあ批判的に書いてしまいましたが、実際にポップカルチャーから日本に関心を持つ外国人は少なくないので、効果はあるのだと思います。ただ、自国の文化・スポーツが国外でどう受け取られるかは好意的に過大評価しがちなので、身贔屓にならないよう冷静に見なければと思います。
Korea-Japan Trip、期待しています。
一方で、日本のポップカルチャーが海外でこうした人気を得ていると言う事を少なくとも僕はこちらに来るまで知りませんでした。そういう意味では、米国での生活は、自分の中で様々な日本の魅力を再発見し、また再考察する良い機会になっています。
僕が行く前は「陰陽師」についてだったんですね。それはまた興味深い。海外が日本のものに価値を見出し、日本に逆輸入されるというパターンが最近はちらほら見られる気がします。たとえば、漢方だとか。
物事を外から見ると、よく見えることがありますよね。
米国に来て早9ヶ月!留学の一つの目的でもあり、またよく指摘されることですが、日本を外から眺めなおすと、本当に色々なことを再発見、再認識させられますよね。ボーゲル塾も引き続き盛り上げていきましょう!