ヒット商品応援団

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オタクの何に着眼するのか

2013-09-05 13:32:24 | 市場創造
ヒット商品応援団日記No561(毎週更新)   2013.9.5

どの時代、どの世代にも必ず消費をリードするオピニオン的存在はいる。10数年前までは主に雑誌メディアがオピニオンを産み出してきたが、ネットメディアの出現を含め、あらゆるものがメディア化する時代として、つまり多種多様な玉石混淆の如きオピニオンを産み出してきた。このブログにも何回かそのオピニオンを産み出している秋葉原という街メディアやオタクについて書いてきた。最近ではその最大のマスプロダクト化であるAKB48についても書いたが、オタクのイベントであるコミケに一見無縁と思われていたサントリーや明治メグミルクなどが出展しているという。今年の夏東京ビッグサイトで行なわれたコミケには過去最高の来場者数59万人を記録した。私に言わせればやっと分かってきたのかなという思いである。但し、問題なのは、来場者数という量ではなく、オタクの「何に」着眼するかである。

今から5年ほど前になるが、あきたこまちの包装に美少女イラストを起用してネット通販で売り出したことがあった。初めてということもあって、数ヶ月で2500件、30トンものあきたこまちが売れ、その萌え米誕生の地である、秋田県羽後町に若い男性が押し寄せ、マスメディアもその反響の大きさを報じていたことがあった。
その後、羽後町で生産される農作物に美少女イラストの包装がなされ販売されているが、その後の売れ行きはどうであろうか。実は売れたのは美少女アニメであって、あきたこまちではない。JAの全国ネットとして、一つのストーリーの元、各地のJAで美少女イラストの農産物の競演がなされたらどんな展開になっていたであろうか。間違いなく萌え米オタク達は美少女コレクターとして各地の萌え米を購入するであろう。

1980年代半ばであったと思うが、。チョコレートを食べずにおまけシールを集めることに熱中し、チョコをゴミ箱に捨てないようにと社会現象にまでなったメガヒット商品が、ビックリマンチョコである。特に10代目の「悪魔VS天使シール」は凄まじく月間販売数1300万個と記憶している。ビックリマンチョコの成功を例に挙げるならばそのストーリー性&ゲーム性にヒットの着眼がある。少し理屈っぽく言えば、物語という虚構世界(=情報)をチョコという現実世界に置き換えた開発ということになる。チョコというモノ価値から、物語を読み解く面白さ=情報価値への最初の転換商品であった。この転換世代が後に言うところの「新人類」である。

以降、マーケティング&マーチャンダイジングの主要なテーマは、市場がどんな「物語」に興味・関心をもっているかを探ることになる。ところで、今年の流行語大賞は予備校教師林先生の決め台詞「いつやるか?今でしょ!」にほぼ決まっていると思うが、「物語」という言い方をするならば、「今物語」となる。過去でもなく、明日でもない「今」という現実をどうするのかが最大テーマ、最大関心事になっているということである。
既にこの傾向は上半期のヒット商品として出てきている。その象徴例として、金利の安い今を逃さない「住宅ローンの借り換え」や「消費増税前の住宅取得」へと向かっている。「今」を充実させることが最大関心事であり、過去を遡り未来への芽を見出し、明日を見るといった、そんなロマンや夢といった考えを喪失してしまったと言っても過言ではない。

「今」を充実させるとは「安全」「安定」「平均」「一般」といった内向きな世界の中にある。消費という欲望の視点に立つと、「ほどほど」「そこそこ」、あたかも欲望を喪失してしまったかのように見える。いわゆる草食系男女のライフスタイル特徴であるが、車離れ、アルコール離れ、海外旅行離れ、結婚離れ、社会離れ、政治離れ、・・・・多くの「離れ現象」が見られる。
一方、オタク的世界から見ていくと、こうした内向きな「バランス」や「ゆるさ」の対極にある世界で、オタクの持つこだわりや思い入れの「過剰さ」や「過激さ」は、実は消費を外側へと向かわせる強さを持っている。そして、何よりも大きなことは価格競争とは異なる競争になりえるということである。

ところでネット上のSNSでは内向きで欲望を喪失した世代が、コンビニやスーパーのアイスケースや冷蔵庫に入る、ピザ生地を顔面に貼りつける、飲食店でソースの容器を鼻の穴に入れる様子を撮影した写真などを、Twitterに投稿し社会問題化した事件が続いている。Twitterでのつぶやきは返事がくることを前提とし、みんなが続けているのでやめられないという一種のムラ社会の出来事である。何故か、若い世代にあっても“みんなと一緒じゃなきゃダメ”というムラの掟があり、反するとその仲間内から外される。こうしたいじめを恐れて、相づちを打つ。この世代コミュニケーションを私は「だよね世代」と名づけたことがあった。「だよね」とは理解共感としてのそれではなく、単なる相づちだけである。相づちののりでふざけ合い、その画像をネット上に載せる。ネット世界もいわゆる市民社会と同様であり、ネット世界は「公」の世界でもある。悪ふざけ被害にあって休業に追い込まれた飲食店が損害賠償請求を考えていると聞くが、「公」のルールに即した責任を負わせるべきであろう。

ところで、話は少し外れるが、宮崎駿監督が「風立ちぬ」を最後に引退すると報じられた。「風立ちぬ」の発表記者会見で宮崎監督はその思いをコメントしていたが、その隣には声優をつとめた周知の庵野秀明がいた。二人は長い徒弟の関係にあるが、庵野秀明には「シン・エヴァ」の制作と共に、次なる作品、宮崎駿を継ぐ映画を是非創って欲しいと思う。
何故そう思うか、感としか言いようがないが、私以外にもそう考える多くのオタクがいることと思う。オタクそれ自体は極めて小さなマーケットである。そのまま小さなマーケットとして終わることが多いが、宮崎駿はその壁を越え、今また庵野にバトンタッチしたように見える。多くの消費者が「今」を充実させることに必死になっている時代にあって、ファンタジーを描くことは極めて困難かもしれない。しかし、オタクのリーダー庵野秀明には次なる世界を創って欲しい。

冒頭の「あきたこまち」ではないが、着眼は良くても、継続発展させるためのマーケティングが必要であるということだ。ましてや、消費増税という大きな困難を前にし、顧客創造というマーケティングが問われている。こうした課題にこそオタク的発想が必要となる。どこまでこだわるか、とことん、あらゆる細部にわたって、そこまでやるか・・・・・・・・こうした過剰さが消費増税の壁、価格の壁を越える着眼の一つとなる。そして、そうした過剰さから、新しい物語、消費へとつながる着眼が生まれてくる。(続く) 

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Unknown (宮崎吾朗さん)
2014-02-12 00:59:13
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