NHKでドラマ化された『珈琲屋の人々』シリーズが好きで、家族を題材にした池永陽さんの8つの短編集を手に取りました。
毎日、同じ屋根の下に暮らす家族のことは良く知っているはずだ。それが娘のことになると熟知しているからこそという設定で書かれたのが「父の遺言」。嫁いで行った娘の将来を見通して、遺言をしたためていた父。結婚の挨拶に来た彼とはキャッチボールをして、その性格を見抜く父。すべては娘への思いやりの上でのストーリーを自ら描くお父さんに感服しました。私もこうなりたい。
毎日、同じ屋根の下に暮らす家族のことにも秘密がある。宝くじが当たった両親。そのことを近所の人から聞いた子どもたち。その宝くじを子どもたちは当てにしようとしていたが、両親が秘密を明らかにすると…。宝くじに当たらなければ、秘密は墓場まで持って行く予定だったんだろうという「いやな鏡」。
最後にもう一つ紹介するのが「十年愛」。17歳の少年が、アルバイト先のコンビニで好きになってしまった20歳上の女性。恋に発展するも、彼の母親と同年配の女性としては、このままの関係を続ける勇気もないし、彼の将来に自分の存在は不要だと考え、10年後に待ち合わせ場所に、お互いが同じ気持ちで居合わせたら、結婚しようと約束して別れる。そして、10年後、上野公園の西郷さんの銅像の前で…。こんな純愛ドラマが現実にあれば、世の中も変わるだろうなぁ。
現代の家族が抱える問題にフォーカスして書かれた短篇はどれも心揺さぶられます。電車でスマホをいじるのなら、こんな文庫を読んで、心の洗濯をしてもらいたいなぁ。
『漂流家族』(池永陽著、双葉文庫、本体価格602円)