感染症診療の原則

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「一番怖い感染症はなんですか?」

2012-01-28 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
「一番怖い感染症はなんですか?」という質問がときどきあります(医療者以外から、です)

一般に考えると、「治らない」とか「放っておいたら死んでしまう」かもしれませんし。人によっては「痛い」「苦しい」をあげるかもしれません。

「結核?」    超多剤耐性だったら怖いですが、治療薬が効く菌ならばそこまで怖がりません。
「エイズ?」   今はとてもよい治療があります。(検査しないで気づかないと重症化したり死亡するので怖い)
「多剤耐性菌?」 健康な人に問題はおこしません。 


専門家からは、「素早い判断」をしないと命に係わるような感染症の名前があがります。

つまり、病気の進行がdays(日単位)ではなくhours(時間単位)で病気が進行するとか、「次の瞬間」に窒息したり心配が停止するというような場合。

専門家に相談をしたり、大きな病院に転送する時間さえギリギリ、という状況があります。
その人の持っている因子(年齢や基礎疾患)、受診のタイミングも関連しますので、その病院の可能な限りの手を尽くしても救命できないことがあります

その意味で怖い病気のひとつ、「人食いバクテリア」←マスコミが好きそうな、おどろおどろしい名前ですが、もちろん俗称です。

50代女性。片腕を切断 (青森県ドクターヘリ スタッフブログ)

受診時の写真と改善後の写真。勉強になります。(Team Diabet Amakusa)
横浜市衛生研究所による解説;ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、A群β溶血性連鎖球菌による壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis : NF)とA群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群(Streptococcal toxic shock syndrome : STSS)




また、急激に進行する感染症のひとつ「急性喉頭蓋炎」。

これもとても怖い。「ノドが痛い」という症状はほかの病気でも経験しますが、それが放っておくと気道がふさがってしまうような状態になることがあります。

レントゲンを撮るとこのような特徴が→“Thumb Sign” of Epiglottitis NEJM 2001年4月

カメラの映像はこちら

インフルエンザでも痛いですし、HIVの急性期症状でも痛い人がいます。

ノドの痛み以外に、「声がこもった感じがする」、「嚥下痛がある」、というような症状が患者さんか聞かれることも。


あっというまに心肺停止という症例が2010年の朝日新聞に紹介されていました。
Hibによる急性喉頭蓋炎で1歳児が死亡という悲しい事例です。
保護者は他の予防接種をしていたのですが、当時Hibワクチンは「半年待ち」状態で、接種予定日は体調不良で延期された、、、というところでおきた出来事でした。

細菌性髄膜炎の予防として知られているこのワクチン。Hibはこのような別の怖い病気の原因菌でもあります。

同じく子どもの事例がUS JAPAN MEDでも紹介されています。「G君は最近日本から来たばかりで、アメリカの予防接種はまだ何も受けていませんでした。

“喉頭蓋炎の最も大切な治療は、呼吸不全の為の気道の確保(気管支に管を入れたりする)です。それから抗菌剤の注射です。b型インフルエンザ菌による喉頭蓋炎に罹患した子供の家族、デイケアーで一緒の子供、あるいは他に身近な接触のあった人でb型インフルエンザ菌の予防接種を受けてない人は抗菌剤の服用が必要です。”
(肺炎球菌では周囲に抗菌薬の服用は推奨されません)

土畠先生の解説:
“急性喉頭蓋炎(Acute epiglottitis)は,インフルエンザ桿菌によって起こります。上気道の玄関である喉頭蓋が腫脹し,気道がほぼ完全閉塞します。頸部側面X線で喉頭蓋の腫脹(Thumb sign)をみとめます。泣くことによって悪化することがあるため,この疾患を疑った場合は診察・処置は最低限にとどめ,耳鼻科・麻酔科に連絡して手術室へ移送し,全身麻酔下に気管内挿管あるいは気管切開を行います。気道確保さえできれば,抗生剤の使用により数日間で軽快します”
医学界新聞 小児科診療のフレームワーク 「上気道閉塞その2:重症度判定の特例」


しかし。Hibワクチンが普及している先進国では子どものHibでの急性喉頭蓋炎は激減しました。
かわって、成人症例が問題になっています。


自分が急性喉頭蓋炎になった方の記事
医療者の慌てぶりと、患者さんの感覚のズレが印象的であります。
海外でご主人が発症された方の記事

ERの先生たちも警戒する疾患。 「もっとも当たりたくない地雷」 日々是よろずER診療
勉強になります。

ネットにあった症例の紹介。
急性喉頭蓋炎による窒息の1事例
[症例提示]急性喉頭蓋炎の症例

難しい感染症ということで、判例も複数みつかります。

「急性喉頭蓋炎の患者が低酸素脳症から重度後遺症。最初に診療した個人経営の病院及び転送先の県立病院に対して、定期金賠償を含む損害賠償の支払いを命じた判決」
平成16年1月21日大阪地裁判決(判例時報1907号85頁)

「医療訴訟事件の和解について」 日野市HP 平成19年5月


青木編集長は、脾臓の機能が正常ではない(うまれつきない、機能が低い)人での肺炎球菌や髄膜炎菌の髄膜炎がとても怖い・・・を追加。

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3 コメント

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急性喉頭蓋炎 (伴 浩和)
2012-01-28 08:38:45
いつも先生のサイトで勉強させていただいております。私は主に外来診療をさせていただいているのですが、強い咽頭痛を訴えて来られる患者さんにはいつも頭を悩ませてしまいます。レントゲンの感度がそれ程高くないため、正確に除外するためにはファイバーで覗くしかないとは思うのですが、敷居が高い場合には躊躇してしまいます。特に発熱がない場合や発症から数日軽快しているような時にはmost likelyではないけれど…という時に困ってしまいます。ムンテラを入念にして経過観察して頂くこともあるのですが、そういう時は気持ちが休まりません。臨床的に除外することはやはり難しいのでしょうか?
お詫び (青木)
2012-02-08 21:59:01
伴浩和先生:コメントに対するレスポンスが激しく遅れて失礼しました。強い咽頭痛を生じる微生物の固有名詞を考えると溶連菌、HIV、EBVなどが早期されます。この場合、咽頭痛の強さにある程度比例した咽頭の炎症所見が見られると思います。特に扁桃の分泌物など。喉頭蓋炎の場合、「咽頭痛」の強さに対して炎症の程度が弱い・・といった事が参考になるのではないか・・と想像していますが、相談できる耳鼻科の先生など居られますか?
「ムンテラを入念にして経過観察して頂く」というStrategyは適切なものだと感じますが・・。
お返事ありがとうございます。 (伴 浩和)
2012-03-28 23:49:42
お忙しい中お返事頂きます。ありがとうございます。たまたま先生のサイトを見返していてお返事に、気付きました。やはり迷うのは、激しい咽頭痛の割に、咽頭の所見が乏しいという場合です。私が現在働いている外来では咽頭ファイバーの敷居が少し高いと感じているため、このようなless likelyだとは思うけど気になるというケースの場合が一番困ってしまいます。入念なムンテラの上で経過観察ということに対してもコメントを頂き、少し気持ちが軽くなりました。ありがとうございました。

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