感染症診療の原則

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2018年10月19日 第6回若手医師セミナー Q&A

2018-10-25 | Aoki Office
四半世紀、変わらない「原則」のLectureをお聞き下さり、ありがとうございました。Q&Aを御紹介致します。

質問者 : 内科医師 60 歳台
お名前 : HM
質問内容 : 薬剤耐性菌について。
一般に、耐性菌と非耐性菌(Wild type)では、菌同士の強弱(優勢)や増殖能力は同じか、またはいずれが高いか?
さらに、ヒトに対する病原性は抗菌薬が投与ない時、いずれが強毒性か?
これは、各種菌腫により、一律でなく個別に覚えるべきものでしょうか? お伺いいたします


【ご回答】:
このご質問につきましては、藤田医科大学医学部 感染症科 原田壮平先生に御協力頂きました。深謝申し上げます。以下、原田先生の御回答。

獲得耐性を有する細菌は感性菌と比較して環境内での増殖能力の低下(これをfitness costと呼びます)やヒトに対する病原性が低下していることがしばしばありますが、耐性菌がfitness costに打ち勝つような新たな遺伝子を獲得する場合もあります(Nat Rev Microbiol 2010; 8: 260)。また、病原性に関しても耐性菌が新たな遺伝子を獲得することで強化される場合があります。一例として、元々カルバペネム分解酵素を産生する多剤耐性肺炎桿菌の菌株が後天的に高病原性(播種性感染症発症リスクの上昇)を付与する遺伝子を持つプラスミドを獲得し、高病原性と多剤耐性を併せ持つ状態に進化し、これが院内拡散して致死性感染症をきたした事例が中国から報告され、注目されています(Lancet Infect Dis 2018; 18: 37)。
このように近年は耐性菌を「弱い」と一概に決めつけるのは難しいことを示唆する知見が蓄積されています。菌種ごとのみならず菌種内のクローンによる差異、クローン内でもプラスミド保有による差異も存在しうること、現時点では病原性や増殖能により同一菌種の感染症や感染対策の内容は変わらない(将来はわかりませんが)ことから、臨床医が各論的に耐性菌の増殖能や病原性に関する知識を身に着ける必要は無いのではないかと考えます。
(藤田医科大学医学部 感染症科 原田 壮平)


質問者 : 薬剤師
お名前 : 匿名希望
質問内容 : ご質問ありがとうございます。当院は300~400床ほどの規模ですが、ローカルファクタ報告例を作っていません。検査科に伺ったら今はつくれないとのことでした。検査データは外注です。外注先に依頼すればよいのでしょうか。どのように作っていけばよいのでしょうか?基本的な質問ですみません。


【ご回答】:
ご質問、ありがとうございます。300-400床の規模であればLocal factorが欲しいですね。
外注先の検査会社に依頼するのも、1つの方法かも知れません。
基本的に腸内細菌科Enterobacteriaceaや非発酵菌の頻度や感受性を表にされると良いと思います。良くLocal factorの基本は「各病院に多く見られる好気性グラム陰性桿菌の感受性」
とお話しています。私が講義で使ったものも同様です。御参考になれば幸いです。


質問者 : 薬剤師 30代
お名前 : S.T
質問内容 : 高齢者施設の感染症の診断がきちんとつかないまま抗菌薬が処方されることがよくあります。検査機器がない状況でどのように診断をされるのが理想か教えて頂きたいです。認知症などで本人の自覚症状があまりはっきりしない場合の尿路感染症の診断などどのようにされておりますでしょうか。


【ご回答】:
ご質問ありがとうございます。それは私自身が91歳で父を老健施設で看取った時に感じたジレンマで妙案が浮かびません。「発熱≒抗菌薬投与」というのが実態であると思いますし、それが老健施設に限らず地域の耐性菌の温床になりうると考えております。出来れば外注先の検査会社から各施設のLocal factorが得られれば、多少はエンピリカルな治療の助けにはなると思いますが・・。


質問者 : 医師 内科 50代
お名前 : M.H
質問内容 : 市中感染、院内感染の狭間のカテゴリーに最近は、高齢者施設の利用者があります。施設によっては、起因菌の検索なく抗菌薬を使用しているところもあります。だからといって施設利用者の感染起因菌がすべて耐性菌とは考えにくく、それを理由に広域を使用すれば、ますます細菌叢が乱れるように思います。原則に従って診療するのがベストと思いますが、現況では施設利用、あるいは入居者ではどう考えたらよいでしょうか。


【ご回答】:
ご質問、ありがとうございます。前の回答と同様、外注先の検査会社から各施設のLocal factorが得られればエンピリカルな治療の助けにはなると思いますが・・。


質問者 : 医師 内科 40代
お名前 :
質問内容 : 人工血管や人工弁など、「抜けない」デバイスに感染を起こした場合、特に高齢者など死ぬまで少量の抗菌薬を投与し続けざるを得ないような症例があるかと思いますがこういったケースに対しての最新の知見や青木先生のお考えがあれば教えてください。


【ご回答】:
ご質問ありがとうございます。高齢で再手術に耐えられない人工血管、人工弁の感染症は増える一方だと思います。「可能な限り狭域で、耐性を取られず、副作用の少ない抗菌薬の選択を・・」と心がけておりますが、黄色ブドウ球菌などに対してはST合剤などをLife longに使用する事が多く、それは昔とあまり変化がありません。


質問者 : 医師 内科 50代
お名前 : M.H
質問内容 : インフルエンザ感染後に肺炎球菌や黄色ブドウ球菌を起因とする肺炎を起こすことがあると言われていますが、普通感冒のウイルスでは、多くないように思います。インフルエンザウイルスの気道侵襲性が問題なのでしょうか。ほかにウイルス感染後に注意すべき細菌感染症はありますでしょうか。


【ご回答】:
ご質問ありがとうございます。インフルエンザ後の細菌感染症では黄色ブドウ球菌や肺炎球菌が「教科書的」な起炎菌だと思います。しかし基本的にはグラム染色を行い、培養したいところです。


質問者 : 薬剤師 50代
お名前 :
質問内容 : 整形外科Drにより猫にかまれた指先の怪我に対し7日分のセフェム系薬剤が処方されたと思います 気になったのは患者さんはDrより”もう大丈夫と思った時には途中でも抗生剤の服用をやめてもよい”との指示があったとのことでした かたくなに処方日数飲み切りをお伝えしないほうがよいでしょうか そのときは今後に備え患者さんにはどのようなことをお伝えしたほうがよいでしょうか


【ご回答】:
ご質問ありがとうございます。「以前よりも抗菌薬の投与期間が短い方向にシフトしている」と講義で申し上げました。他方、「猫」に噛まれた、咬症が骨や腱、顔面や手などに及ぶなど、注意を要する症例には安易に抗菌薬投与を短くする事も危険だと思います。やはり臨床状況に応じてCase by caseで考える事が大切であると思います。特にセフェム系は咬症で問題になりうる嫌気性菌活性が十分でないものもあります。患者さんには「これこれの症状があれば、少しでも気になれば来院して・・」とお話します。


質問者 : 内科 アラフォー
お名前 :
質問内容 : 原因微生物、感染臓器が特定できて、治療期間十分量抗菌薬を投与しても、症状や検査所見が残存していても抗菌薬は中止で良いか?


【ご回答】:
ご質問ありがとうございます。微生物、臓器の種類により一概に言えないのですが、単純な市中肺炎のように臨床経過を追いやすい臓器で、かつ連鎖球菌など抗菌薬が効きやすいが炎症反応が残りそうな症例では比較的安心して抗菌薬を中止できます。逆に、原因微生物の特定が不十分な深部臓器(例:膵臓炎)などの場合には中止に際して注意が必要ではないかと思います。
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