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HPVワクチンと静脈血栓塞栓症(VTE)

2016-03-18 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
日本では塩漬け状態のHPVワクチンですが、他の国はどうしているか?の例としてカナダを紹介します。

カナダでは2006年に4価HPVワクチンが承認されてから、公費は無駄だ、費用対効果が悪いとかなりの論争がありましたが、その後、女子は公費接種になりました。

州毎に予防接種の施策が異なるので「カナダでは」といっしょくたにはできません。

その後、男子にも接種するほうがいいのでは?という検討のもとに、プリンスエドワード島アルバータ州マニトバ州が男子への公費接種を決めています。

ブリティッシュコロンビアは、男子に、とはせず高リスクの男性に無料で提供としています。


2016年2月のVaccineにアルバータ州の有害事象データが報告されていました。

"Person Health Number that serves as a unique personal identifier (ULI) that permits data linkage at the level of the individual across other administrative databases."

ビックデータをつかえる国のひとつ。

質問紙調査で医師や保護者の記憶を辿るバイアスの大きな調査をしなくてはいけない日本と情報の精度に大きな違いがあります。

ワクチンを接種した「後の」イベントとしての有害事象(AE)には、階段から落ちた、交通事故、頭が痛い、下痢した等様々なものを含みます。このうち直接因果関係がある(ありそうな)「副反応」と、時系列的に後にはおきているけど他の要因が関与してたり、関係ないものもあるので、報告システムをよく知らない人がこの数字を扱う時は注意が必要です。

今回の論文で扱っているのは静脈血栓塞栓症(VTE)。
今後別の評価の論文が続いて出てくるのだと思います。

ちなみに、日本ではHPVワクチンでVTEが〜という話は報道では扱われていません。
海外ではそれなりに疑義があったので調査が行われていますが。

日本でVTEが話題になったのは低用量ピル"で"死亡 のニュースでした。"で"なのか、でありますが。
平成25年12月 「低用量ピルの副作用について心配しておられる女性へ

"発症頻度の疫学は、年間10,000人あたり1-5人 低用量ピル服用女性では3-9人
妊娠中および分娩後12週間の発症頻度は、それぞれ年間10,000 人あたり5-20 人および40-65人"

この話題は昔からあるのですが、望まない妊娠のほうがリスクが高いでしょということで「だからピルはやめようぜ」とはなっていません。もちろん処方前に医師が家族歴やタバコなどのリスク因子を評価します。


米国の調査結果は

2014年 JAMA Quadrivalent Human Papillomavirus Vaccine and the Risk of Venous Thromboembolism
2015年4月 米国FDA FDA Sentinel study finds no association between venous thromboembolism and Gardasil vaccination

9-26歳の女性65万人、ガーダシル140万接種でのVTEのリスクを評価。
接種後8-9週でのVTEの医療記録は30例。2006-20013年の8年間で5つの調査サイトで報告があった。
ガーダシル接種でVTEが増えてはおらず、リスクは低い。
でした。


本題のアルバータ州の報告にもどります。

Adverse events following HPV vaccination, Alberta 2006–2014
Vaccine Available online 26 February 2016

カナダではHPVワクチンの承認は2006年、アルバータ州で公費で女子対象に接種が始まったのは2008/2009年。ワクチン接種に関連してvenous thromboembolism (VTE)を含む有害事象が懸念されていた。
主にVTEに注目して、9歳以上女子での接種後有害事象を評価。

Alberta Immunization and Adverse Reaction to Immunization (Imm/ARI) 登録システムや既存のデータベースを活用し、特定の状況で受診した人を把握した。
対象としたのは接種後42日以内の救急受診。10万人あたりの発生率をICD-10-CAコードを元に検討。


2006年から2014年の9年間の間に、195,270の女子がのべ528,913回の接種。
99.2%が4価のワクチンで、3回接種をした人が82.4%、2回接種が9.9%、1回のみが6.4%。
9–14 歳 (79.5%)、15–19歳 (10.0%), 20–24歳 (5.9%), 25–29 歳 (2.7%)。

調査は1回でも接種をした人を対象とし、192人で1つ以上の有害事象報告あり。
10万接種あたり37.4(95% CI 32.5–43.0)。
オンタリオ州の女子学生 2007–2011 (19.2/10万接種)と比べると高いが、有害事象の定義が異なるためと考えられた。

<9年間で 192人から報告された198の有害事象> うち転帰がわかっているのは177例で全員回復。
アレルギー反応    90
いつもと違う変化  34
発疹   32
痛み     23
発熱    4
ひどい下痢  4
アナフィラキシー   3
リンパ節肥大  2
けいれん  2
感覚異常 1
関節痛 1
多形性紅斑 1
膿瘍  1

入院が必要となった"シリアス(重篤)な有害事象"は5例あり、うち4例が接種後42日以内であった。
1例は接種後110日目の入院であった。

有害事象の報告は2010-2011年が多く、その後減少傾向。


9年間の195,270人の女性のうち、接種後42日以内になんらかの理由で入院をしたのは958人で、このうち4例のみがワクチンに関連する有害事象として報告されていた。


別のデータセット
<9年間で 接種後42日以内に入院をした女性での診断>★紫は日本でも話題になっている件

ICD 10 コード           数 (%)
Certain infectious and parasitic diseases (A00-B99)     29 (2.8)
Neoplasms (C00-D49)                 22 (2.1)
Diseases of the blood and blood-forming organs and certain disorders involving the immune mechanism (D50-D89) 12 (1.1)
Endocrine, nutritional and metabolic diseases (E00-E89) 35 (3.3)
Mental, Behavioral and Neurodevelopmental disorders (F01-F99) 204 (19.4)
Diseases of the nervous system (G00-G99) 35 (3.3)
Diseases of the eye and adnexa (H00-H59) 4 (0.4)
Diseases of the ear and mastoid process (H60-H95) 8 (0.8)
Diseases of the circulatory system (I00-I99) 15 (1.4)
Diseases of the respiratory system (J00-J99) 104 (9.9)
Diseases of the digestive system (K00-K95) 165 (15.8)
Diseases of the skin and subcutaneous tissue (L00-L99) 8 (0.8)
Diseases of the musculoskeletal system and connective tissue (M00-M99) 73 (7.0)
Diseases of the genitourinary system (N00-N99) 54 (5.2)
Pregnancy, childbirth and the puerperium (O00-O9A) 8 (0.8)
以下省略
                               Total 1047 (100)

もともとの病気や入院/通院歴がある人もいるので、ワクチンと直接関係があるかどうか、ですが、

結論としては、
持続するVTEは報告されていなかった。
救急受診をした人のうちVTEと診断された女性は4人いた。
4人のうち3人はVTEに関連する他の疾患が先に診断されていた。
救急受診時にVTEと診断されたのは1名であった。この4名とも入院はせず外来のみであった。

米国同様、VTEのリスクは問題になっていないということです。


ちなみに、オンタリオ州の2007-2011年の5年間の調査では1例死亡が報告されていますが、もともと循環器疾患があった事例とのことです。
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