感染症診療の原則

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感染症と“お金”

2009-05-31 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
臨床では個人の健康を扱いますが、公衆衛生では集団・社会の健康を扱い、対策にかかるお金は当然のことながら税金でまかなわれます。

巨額の予算が投じられるため、臨床医学と同様にEvidenceが重視されます。Evidence Based Public Health(EBPH)です。対策の優先順位も重要です。

新型インフル対策で話題になっている空港検疫も予算やマンパワーのバランスを考えたときに、有効性をどこまで評価していたのかという責任や判断の時期が問われます。

今回の対策で国や自治体でお金がいくらかかったのか、はいずれ公表されるとおもいます。
検索でみつかった“金額情報”をみてみましょう。(本ブログでは検証はできませんが)
領収書などがあるのでそう難しくないはなしだとおもいます。

■新聞記者のブログ :サーモグラフィーが180万円→300万円
「そもそもサーモグラフィーは、医療現場から有効性に疑問の声が出ていました。SARS(重症急性呼吸器症候群)の時に使用されたデータは、3500万人のスクーリングで発見ゼロ。検疫所のデータでも症状が発見できた確率は0.02%だったからです。しかし、厚労省は今回、サーモグラフィーを151台も購入。しかも、新型インフルエンザ発生の報道後の4月下旬に突然、価格が1台180万円から300万円に跳ね上がっていた・・・」
http://octhan.blog62.fc2.com/blog-entry-711.html


サーモグラフィーは5月はじめに外務省がJICAを通じてメキシコに25台プレゼントしていました。メキシコの空港に設置してください、ということでした。

支援関係者は「メキシコの空港におけということだと“出るな”というように受け取られないか。失礼に思われないか心配」といい、専門家は「効果がないといわれているものを送るのはいかがなものか」と批判がありました。
「日本の発熱外来に置かないの?」と誤解している人もいました。

■熱検知器25台をメキシコへ 日本政府が緊急援助(5月7日産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/090507/dst0905071953013-n1.htm

国内でも。

■NHK杯でサーモグラフィー導入…体操(5月29日 毎日新聞) 
入場者にサーモグラフィー
http://mainichi.jp/select/science/news/20090530k0000m050086000c.html
■横浜の「開国博」は職員・ボランティアにサーモグラフィー(5月19日 産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/kanagawa/090519/kng0905191901003-n1.htm
集団で歩いている人を探知するのは難しいのではないかとおもいます。

調べてわかりましたが、2/19の時点で神戸市が購入というニュースがありました。今回の騒ぎではどのように活用されたのか。そのうち報告があるでしょう。

たとえば受診者を空港のようにあるポイントでチェックするならば、シフトを組んで「サーモフラフィー当番」をする人をおかないといけなくなります。「ピンポーン♪」とか音がなったら個人情報なども問題になります。
反応をしたらどのようなアルゴリズムでどの診療科が対応するのか。サーモフラフィー当番に加えて「対象者」をお世話する人手も必要です。

診察室で近寄らないで体温が測定できる、ならば台数が問題になります。

■新型インフル対策 県内医療機関にサーモグラフィー (2月19日神戸新聞)
2009年度当初予算案に1680万円を計上し、「感染症指定医療機関」など県内の二次医療圏域(十圏域)にサーモグラフィーを1台ずつ貸与。1012年度末までに、専用外来医療機関を含む感染症対応の全39施設に配備。
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0001710408.shtml

ユーロサベイランス2009年2月12日号では国際空港でサーモグラフィーをおくことについての有用性についてのレビュー記事があります。
「International travels and fever screening during epidemics: a literature review on the effectiveness and potential use of non-contact infrared thermometers」
The low PPV suggests limited efficacy of NCIT to detect symptomatic passengers at the early stages of a pandemic influenza, when fever prevalence among passengers would be =<1%. External factors can also impair the screening strategy: passengers can hide their symptoms or cross borders before symptoms occur. These limits should be considered when setting up border control measures to delay the pandemic progression. http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19115

遺伝子検査にかかるお金は、機械・試薬・人件費その他イロイロ含めて評価されますが、日本でも数万円の単位という情報が新型インフル専門ブログにありました。
http://newinfluenza.blog62.fc2.com/blog-entry-476.html

最後に、影響をもろかぶった人たちのご意見。

あるレストランでオーナーがいっていたこと。

「会社を休まなくてはいけない、店を閉めなくてはいけない、それは自分が病気なら仕方ありませんが、過剰にしばりをかけるなら営業できないことで生じる赤字の補償をしてほしい。そこまでしないといけない病気なら」

母子家庭でがんばっている友人がいっていたこと。

「公務員なら上が休めといっても収入も仕事も失わないでしょう。でも日給で働く立場の人を考えたことはないのでは?自分やこどもが病気だったら、クラスの子が病気になったら仕方ないけど、学校で誰も具合がわるくないのに巻き添えになるのは納得がいかない」

今週、都内ではもうマスクの安売りが始まっているそうです。
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