冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

鬼怒沼 - 静かなる雲上の楽園

2015-07-28 22:58:49 | 旅行
7月11日・12日の土日で、尾瀬に至近で奥鬼怒温泉郷のさらに奥でもある鬼怒沼に行ってきました。
2,0000メートルを越える高地にある湿原で、大小20以上の池塘が広がります。高層湿原としては、苗場山や平ヶ岳のものより大規模で状態もよいようです。尾瀬ほどの規模はないですが、標高が尾瀬沼より500メートルくらい高くて訪れる人も少ないので、秘境的な美しさがあります。
台風が接近していて週の前半は「今週末は天気悪いかな」と思っていたら意外と晴れそうだったので、急きょ行先を決めてテント泊したのですが、2つの意味で自分の登山史的に大きなイベントになりました。

鬼怒沼へのアプローチは、大きく分けて3つあります。一番メジャーなのが奥鬼怒温泉郷から登るもので、昨年の12月に行った手代澤温泉へのアプローチの延長です。実際には、手白澤温泉は鬼怒沼へのルートとちょっと外れており、日光澤温泉という山小屋を経て行くことになりますが。もう一つは尾瀬からルートタイム8時間程度の長い道を経るもの。そして最後のルートは大清水の登山口から物見山を経て行く4時間半くらいのルートです。
私は、下山時に奥鬼怒温泉郷の温泉で汗を流したかったので、登りは大清水からのルートにしました。このルートにした理由は他にもあって、公共交通機関を使う場合は東京からだといずれのアプローチも登山開始までに4,5時間かかるので、日が長い今の季節でもコースタイムの長いルートを取る余裕がないからです。
ただし、地図で見る限りこのルートは相当な急登。しかも樹林帯の一本道で、ヤマレコなどを見ると大きな岩や木を乗り越えて行くので皆さん相当疲弊しているレポートが載っています。さらに、夏で汗をかくので水分の消費が激しいにも関わらず、ルート上に水場がないのでテント泊用の水とスポーツ飲料で3リットルを担ぎ上げるという事実があります。いつものテント泊装備より少なくとも1.5キロくらい思いイメージ。

まあ、多少の不安はあるものの、海の日の連休の辺りで針ノ木岳に登りたいと思っているので、その事前トレーニングにもなるだろうということで決行しました。JRもこの時期、臨時の列車を出していて尾瀬方面にハイキングに出かける人は相当多かったようです。


上野を7時過ぎに出発する臨時列車で上越線の沼田駅に9時10分頃に到着。ここからバスで大清水を目指します。満員でザックを膝の上に載せて1時間半以上という苦行ですが、ほとんどの人は尾瀬の鳩待峠へ連絡する駅で降りました。大清水まで行ったのは5,6人でしたね。


大清水はその昔JR東日本のソフトドリンクのブランドにも使われていた名水で、確かに透明感にあふれる沢が流れていました。11時頃に着きましたが、トイレを済ませたりおにぎりで燃料補給して15分くらい準備に費やしました。予定では3時半くらいまでには鬼怒沼に着くはずです。

最初の30分程度は林道歩き。まあ、沢の水音や鳥の声が聞こえるし、植林ではなくてブナやカエデの原生林なので、香りもよくて明るいので気持ちがいいです。


そして、山道に入って10分くらいすると渡河地点が現れます。水量が多くて結構大変でしたが、ゴアテックス性能の靴のおかげで事なきを得ました。


そのすぐ先に、ヤマレコでよく出てくる橋があります。


これを渡ると本格的な登りの始まりです。足元にはムラサキケマンを青くしたような花が咲いていました。ヤマエンゴサクでしょうか。


それにしても、序盤からえげつない角度の傾斜でガッツリ登らせてくれます。テント泊装備+3リットルの水分を担ぎ上げるのは正直しんどい。


そして、この序盤のえげつない傾斜は、この後延々と物見山の山頂まで休みなく続きます。休憩に適した場所など皆無といってよく、ある意味気持ちいいくらい一本調子の急登。そして樹林帯の中で視界はほぼ開けず。
時々、これまたえげつない木の根や岩をよじ登る必要があり、ストックが邪魔になるほどです。


そして、いつもなら現実逃避に花を愛でるのに。この日はゴゼンタチバナがちらほら咲いていたほかは何故かギンリョウソウが大量にあるばかり。


時間的には3時間程度のコースなのですが、この急登+荷物の重さにやられました。行動時間が10時間近くに及んだ穂高連峰の縦走と比べるのは無理がありますが、自分史的にもっとも厳しい登山だったと言っても過言ではないでしょう。その証拠に両足のふくらはぎが何度もつりました。腿の筋肉痛も水曜になるまで残っていました。
汗もかなりかいてしまい、1リットル分のスポーツ飲料は登りでほぼ消えました。


時々視界が開けるところがあって、その時に風が吹くととても心地よい。


燧ケ岳も見えるようになってきました。ここまで来れば後は何とかなる、と思ってからが長かったですが。


日光白根山も見えるようになります。そうすると本当に最後が近いです。


そして、突然のように山頂。樹林帯の中なので眺望はなく、もうこれ以上登らないでよいという安堵感があるだけ。とにかく辛い3時間半でした。途中で高齢の団体さん10名弱とすれ違ったのが唯一の遭遇者ですが、彼らはこの急な坂を下ったのか。まあ、テント泊装備じゃないから大丈夫なんですかね。
それにしても、物見山の急登恐るべし。自分の登山史的に1つ目の大きな意味はこの急登の苦しみ。たった4時間程度の行程ですから、10時間近く歩いた北アルプスの縦走などと比較するのは難しいものの、恐らく密度で言えば最大の苦しみ。筋肉痛が水曜まで消えませんでした。まあ、自分の体力の限界が分かった。

閑話休題、物見山山頂から20分ほどでついに目的地の鬼怒沼に到着です。木道が整備されており、とても歩きやすいです。今までの地獄から天国へ急上昇と言ってよいでしょう。なにせこの景色。


ワタスゲのメルヘン感はさすが。


コバイケイソウがワタスゲのパートナー。


最初は気づきませんでしたが、湿地には多くの種類の花が咲いていました。いずれも背が低いので、注意しないと見落としますが。それはともかく、まずは思いザックを下すために監視小屋へ。


この監視小屋、もともとが宿泊を想定していないので陰気で居心地が悪く、結局はその周辺にテントを張りました。


この時点でテントを張っていたのは私のほかにソロの若いハイカーが2名のみ。暫くするとフランス人の二人組が現れて5人になりました。いずれにしても、13ヘクタールの天国のような湿原に対してとても少ない訪問者。尾瀬との最大の違いはこの人数でしょう。

それでは、ここからは天国のような鬼怒沼のシーンをお楽しみください。

燧ケ岳を望む。


鬼怒沼山を望む。


日光白根山と根名草山を望む。


木道とワタスゲ、コバイケイソウ、その先に日光白根山と根名草山。


夕日に照らさられるワタスゲ。


夕日に照らされる日光白根山とワタスゲ。


夕暮れ前の無風の時間。池塘に映る日光白根山と根名草山。


さらに夕暮れ時の日光白根山と根名草山。


同じ時間の鬼怒沼山。


夕日の沈む方向の燧ケ岳。左奥は平ヶ岳か?

こうして日が暮れていきましたが、実は日暮れ前にもう一人奥鬼怒温泉郷方面から登ってきた方がいらっしゃいました。アマチュアカメラマンで、奥日光と鬼怒沼を撮り続けているという荒武宏司さんでした。写真展も定期的に開催されていて、ウェブにも情報があります。鬼怒沼のことをいろいろと教えていただきました。ありがとうございます。荒武さんは夜中も星空の撮影をされていたようです。また、年に何度も鬼怒沼に来られる荒武さんから見てもこの日のような良好なコンディションは珍しいとのことで、とてもラッキーでした。

なお、夕暮れ時からは気温が急に下がり、フリースを着ないと寒かったです。恐らく10度近くまで気温が下がったのでしょう。また、日が落ちると鹿の鳴き声と森の中を動く音が聞こえてきました。夜中にはテントのすぐそばまで来て、「キョン!」と大声で鳴くので起こされました。まあ、そのついでにテントから出て、降るような星空を見ることができましたけど。本当は、あまり鹿が増えるのは困りますね。貴重な高山植物を食べないで欲しいです。

さて、ここからは翌朝の写真です。


テントを出てすぐに見える燧ケ岳。ピンク色に。


そして日光白根山。ワタスゲの湿原とシラビソの森と一緒に。


鬼怒沼山の方角から太陽が昇ります。


天国の池塘。


コバイケイソウも鮮やかに。


ワタスゲも朝日を浴びます。


小さい植物も照らし出されます。鬼怒沼名物のモウセンゴケ。


イワカガミ。いつ見ても俯きかげんで可愛い。


コツマトリソウ。


タテヤマリンドウ。夜の間は花を閉じますが、朝になるとまた開きます。


可愛いツルコケモモ。


そして、風景としてはやはりこの池塘と日光白根山、根名草山が一番だと思う。

木道を2周以上しましたね。とにかく可愛い花と澄んだ空気、そして池塘と山の緑に癒されます。荒武さんによると、この時期の日光白根山が一番綺麗だそうです。7月上旬が新緑の季節なんですね。真夏だと緑の色が濃くなりすぎて、鬼怒沼とのコラボとしてはちょっと劣るらしいです。そういう面でも今回は最高の日光白根山が見られてラッキーでした。急に決めた山行なのに。

夕暮れと早朝という最高の時間を堪能するなら、テントを担いで行くしかありません。本当に静かな天国のような場所で、癒しの時間を過ごすことができます。
自分の登山史的にもう一つの大きな意味は、やはりこの鬼怒沼湿原の絶景ですね。高山とは違う、湿原という日本の自然の美しさに目覚めました。

7時を過ぎるころになると、奥鬼怒温泉郷に泊まったお客さんがだんだんと鬼怒沼まで登って来ます。この日は最高の晴天だったのでツアー客も多いことが予想され、その方々と鬼怒沼で一緒になる前にテントを撤収して下山します。

下山は奥鬼怒温泉郷方面に向かうのですが、最初のうちはとてもゆるやかな道です。そして、この辺りの山々はブナやカバ、あるいはアスナロの原生林なので、植林帯と違ってとても気持ちがいい樹林帯の道です。明るいし、香りもいいです。ウグイスやシジュウカラの声がずっと聞こえています。


下山を半分くらい終えたとことに大きな滝があります。


間近には見られないのですが、音が凄い。


そして、1時間半程度で沢の方まで下りてきました。


カラマツソウなど、花もちらほら。


最後の数十分の急な下りを終えると、奥鬼怒温泉郷の山小屋、日光澤温泉に到着です。

天気がいいのでお布団を干していました。湧水が入口にあって、自由に飲ませていただきましたありがとうございます。水場がここまでなかったので、持ってきた3リットル以上の水分もほとんどなくなっていました。

日光澤温泉は500円で日帰り入浴できます。環境に配慮しているので石鹸やシャンプーはありませんが、絶景の露天風呂で汗にまみれた体を洗うことができます。
浴槽は2つあり、上の湯は澄んでいますが下の湯は白濁しています。どちらもとても優しい感じのお湯でした。




温泉いゆっくり浸かって、10時近くにバス停に向けて出発する時には、気温は25度近くまで上がっていました。
いいお天気で鬼怒沼を堪能できましたが、流石に暑いですね。

女夫淵温泉のバス停までは、1時間半ほどのハイキングコースです。川沿いの涼しげなコースで、厳しい道ではないので誰でも楽しめます。








女夫淵温泉のバス停まで戻ってきました。去年の12月に来た時は雪景色でした。そのギャップがよいですね。四季を感じます。


この後は例によって90分バスに揺られて東武の鬼怒川温泉駅へ。地ビールやたまり漬などいつものお土産を購入して帰りました。

それにしても鬼怒沼、まさに穴場です。天国に一番近い湿原なのではないでしょうか。
これに味をしめて、苗場山などの高層湿原への興味も強くなったしだいです。

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