マジカル・ミスってるツアー

MMT社
猫と水どうとするめイカ面達との非常識の中の常識的日常

縁(ゆかり)君の友達

2008-08-02 23:36:41 | Weblog
「そうかぁ・・。縁君はもう悪魔との契約期間が切れるんだね」

「はい、明日には、また元の姿に戻り、キャベツになります」

「寂しいなあ。悪魔と契約して人間になった同じ仲間として、私は君に出会えたこの一年間、とっても楽しかったよ」

「こちらこそ、色々お世話になりました。でもテンさん、あなたが悪魔と交わした契約の一部は、やはり分からず仕舞いでしたね」

「そうだなぁ・・」

「知り合いの、小麦粉君や、ソース・青海苔・おかか君は、ボクと一緒に3つの願いと一年間の契約でした」

「私には期限は無い」

「ええ」

「人間になる前の何かに、現在の私がそれを必要とした時、契約は切れて元の姿に戻る・・・」

「たくさん、二人で試しましたね。この世のものは全て食べ尽くしたし、道具もありとあらゆる物を使用しましたね」

「でも、私はまだ戻れない。本当の自分に・・」

「本当の自分に戻りたいのですね?」

「もう年十年、いや、何百年、ずっと一人だったんだ。何故、残酷な人間をしているかの意味がわからないんだよ」

「人間は残酷ですか?」

「長い間、生きてきて、人間の悪の部分を見すぎたようだ。無意味な戦いを好む生き物、それが人間だ」

「でも、ボクは、この一年間、とっても楽しかったですよ。テンさんに出会えて、そして、とんかつの様な性格の緑さんにも出会えた」

「そう、私も本当に楽しかった。君と出合って、人間になった頃の感動を思い出したよ」

「ええ、大好きな人を抱きとめる手がある。大好きな人の香りを感じる鼻がある。大好きな人の声を聞き取る耳がある。そして大好きな人に思いを伝える口がある・・・」

「素晴らし事だよね。なのに、当たり前の事は、直ぐ忘れ感謝も感激も薄れてくる。さあ、そろそろ時間だね。緑さんとの限られた時間を大切にしなきゃ」

「はい。それでは、これで失礼致します。ありがとうございました」



そう言って縁君は席を立ち、素敵な笑顔を残して出て行った。

ガラス越しに、彼が横断歩道をわたる姿が見えた。

と、その時、右折して来た大きなトラックがゆっくりと、彼にかぶさっていくのが見えた。

急ブレーキの音と、側にいた人達の悲鳴の声。

そして、曲がるはずのない手と足の向きになって、倒れている血だらけの縁君の姿。

私は、椅子を蹴飛ばして立ち上がり、彼の元へと向かった。

「神様、お願いです。縁君を助けてください。彼にはまだ一日人間でいられる時間が残っているはずです。緑さんとの最後の時間を、彼から奪わないで下さい。神様、どうかお願いです」


そう、心の中で叫んだと同時に、私は天空にいた。

「よう、久しぶりだなあ。俺を覚えているか?」

「あなたは・・・・私と契約した悪魔・・・」

「そうそう、お前随分人間やってたみたいだけど、やっと、俺との契約が切れるぜ。元の自分を必要としたからな」

「私は、神様だったのか?」

「そうだよ。酷く異端児の神様だよ。なんたって、悪魔の俺と契約するんだから」

「そういうお前も異端児の悪魔じゃないのか、私の願いを叶えるなんて」

「相変わらず、減らず口ぬかしおって。おい、早く、下の友達どうにかしてやれよ。お前にしか出来ない仕事だぜ」

「あっ!!そうだな」

「少しは、成長したみたいだな。まあ人間になっていた時間もそう無駄ではなかった訳だ」

「長過ぎたよ。1世紀以上いた気がする」

「はあああ、それだけ、お前には修行の時間が必要だったのさ。なんたって、人間になりたかった理由が、この世で最高に悲しい味のお好み焼きを食ってみたいから、だもんな。で、食えたのかよ?」

「いいや、幸運にも一日足りなかったよ。でも、食えなくて本当によかった」

「やれやれ、相変わらず、めんどくせえ奴」

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1 コメント

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 (yo-ちん)
2008-08-03 12:27:23
私は、我に返ると、天空から地上に舞い降りて
道で倒れている縁さんを抱き起こした。

彼は、怪我こそしていたが、テンに抱かれて、また意識が戻った。

「うーーん・・あれ?テンさんなの?」

「君はあと一日だけ、まだ人間でいられるんだよ。
こんなところで死んではだめだ。
君はこの一日をどう過ごしたい?」

「あと一日・・人間として・・・・。
ボク、やっぱり大好きな人を手で抱きとめて、
大好きな人の香りを鼻で感じて大好きな人の声を耳で聞いて、
そして大好きな人にこの口で思いを伝えたいよ・・・」

「え?そんなささやかな願いでいいのか。どこか行くとか美味しいもの食べるとかじゃなく?」

「うん。ささやかじゃない、とってもステキなことだよ。
そういう人間的なやり方で、縁って生まれるんだなってボクわかったから・・」

「じゃあ、好きにしたらいいよ。」

「テンさん、ボクを最後まで見届けて。」

「わかったよ。」


「テンさん、ずっーと大好きだよ。あ・りが・と・う。」

人間としての最後の1日を終える間際に、縁はそれだけ言うと、
私と固く握手をして、大きく息を吸うと、駆け出した。


私は、あとを追った。

そこには、怪我のあとのように、葉っぱが少しちぎれたきゃべつがころがっていた。

私はそこに駆け寄ると、そのきゃべつをぎゅっと抱きしめた。

「君が縁さんっていう存在だったこと、私は永遠に忘れないよ。
ずっーと覚えているからね。」

きゃべつの葉の間から、夜露のようなしずくがつつーっと流れ落ちた。

私は、いくら自分が神でも、自分の力ではどうにもならないこともある、
それが運命というものなのか・・
悲しい味のお好み焼きは食べられなかったが、
その味の意味するものをこの感情を通して理解した。

そばに隠れて、すべてを見ていた悪魔は、
自分は万能だと信じていたのだが、そんな自分にも
立ち入れない感情の聖域があるということを知り、
自分のしっぽをギリギリと歯噛みして、またどこかの闇へと、
ふっとまぎれて、その姿を消したのだった。
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