「そうかぁ・・。縁君はもう悪魔との契約期間が切れるんだね」
「はい、明日には、また元の姿に戻り、キャベツになります」
「寂しいなあ。悪魔と契約して人間になった同じ仲間として、私は君に出会えたこの一年間、とっても楽しかったよ」
「こちらこそ、色々お世話になりました。でもテンさん、あなたが悪魔と交わした契約の一部は、やはり分からず仕舞いでしたね」
「そうだなぁ・・」
「知り合いの、小麦粉君や、ソース・青海苔・おかか君は、ボクと一緒に3つの願いと一年間の契約でした」
「私には期限は無い」
「ええ」
「人間になる前の何かに、現在の私がそれを必要とした時、契約は切れて元の姿に戻る・・・」
「たくさん、二人で試しましたね。この世のものは全て食べ尽くしたし、道具もありとあらゆる物を使用しましたね」
「でも、私はまだ戻れない。本当の自分に・・」
「本当の自分に戻りたいのですね?」
「もう年十年、いや、何百年、ずっと一人だったんだ。何故、残酷な人間をしているかの意味がわからないんだよ」
「人間は残酷ですか?」
「長い間、生きてきて、人間の悪の部分を見すぎたようだ。無意味な戦いを好む生き物、それが人間だ」
「でも、ボクは、この一年間、とっても楽しかったですよ。テンさんに出会えて、そして、とんかつの様な性格の緑さんにも出会えた」
「そう、私も本当に楽しかった。君と出合って、人間になった頃の感動を思い出したよ」
「ええ、大好きな人を抱きとめる手がある。大好きな人の香りを感じる鼻がある。大好きな人の声を聞き取る耳がある。そして大好きな人に思いを伝える口がある・・・」
「素晴らし事だよね。なのに、当たり前の事は、直ぐ忘れ感謝も感激も薄れてくる。さあ、そろそろ時間だね。緑さんとの限られた時間を大切にしなきゃ」
「はい。それでは、これで失礼致します。ありがとうございました」
そう言って縁君は席を立ち、素敵な笑顔を残して出て行った。
ガラス越しに、彼が横断歩道をわたる姿が見えた。
と、その時、右折して来た大きなトラックがゆっくりと、彼にかぶさっていくのが見えた。
急ブレーキの音と、側にいた人達の悲鳴の声。
そして、曲がるはずのない手と足の向きになって、倒れている血だらけの縁君の姿。
私は、椅子を蹴飛ばして立ち上がり、彼の元へと向かった。
「神様、お願いです。縁君を助けてください。彼にはまだ一日人間でいられる時間が残っているはずです。緑さんとの最後の時間を、彼から奪わないで下さい。神様、どうかお願いです」
そう、心の中で叫んだと同時に、私は天空にいた。
「よう、久しぶりだなあ。俺を覚えているか?」
「あなたは・・・・私と契約した悪魔・・・」
「そうそう、お前随分人間やってたみたいだけど、やっと、俺との契約が切れるぜ。元の自分を必要としたからな」
「私は、神様だったのか?」
「そうだよ。酷く異端児の神様だよ。なんたって、悪魔の俺と契約するんだから」
「そういうお前も異端児の悪魔じゃないのか、私の願いを叶えるなんて」
「相変わらず、減らず口ぬかしおって。おい、早く、下の友達どうにかしてやれよ。お前にしか出来ない仕事だぜ」
「あっ!!そうだな」
「少しは、成長したみたいだな。まあ人間になっていた時間もそう無駄ではなかった訳だ」
「長過ぎたよ。1世紀以上いた気がする」
「はあああ、それだけ、お前には修行の時間が必要だったのさ。なんたって、人間になりたかった理由が、この世で最高に悲しい味のお好み焼きを食ってみたいから、だもんな。で、食えたのかよ?」
「いいや、幸運にも一日足りなかったよ。でも、食えなくて本当によかった」
「やれやれ、相変わらず、めんどくせえ奴」
「はい、明日には、また元の姿に戻り、キャベツになります」
「寂しいなあ。悪魔と契約して人間になった同じ仲間として、私は君に出会えたこの一年間、とっても楽しかったよ」
「こちらこそ、色々お世話になりました。でもテンさん、あなたが悪魔と交わした契約の一部は、やはり分からず仕舞いでしたね」
「そうだなぁ・・」
「知り合いの、小麦粉君や、ソース・青海苔・おかか君は、ボクと一緒に3つの願いと一年間の契約でした」
「私には期限は無い」
「ええ」
「人間になる前の何かに、現在の私がそれを必要とした時、契約は切れて元の姿に戻る・・・」
「たくさん、二人で試しましたね。この世のものは全て食べ尽くしたし、道具もありとあらゆる物を使用しましたね」
「でも、私はまだ戻れない。本当の自分に・・」
「本当の自分に戻りたいのですね?」
「もう年十年、いや、何百年、ずっと一人だったんだ。何故、残酷な人間をしているかの意味がわからないんだよ」
「人間は残酷ですか?」
「長い間、生きてきて、人間の悪の部分を見すぎたようだ。無意味な戦いを好む生き物、それが人間だ」
「でも、ボクは、この一年間、とっても楽しかったですよ。テンさんに出会えて、そして、とんかつの様な性格の緑さんにも出会えた」
「そう、私も本当に楽しかった。君と出合って、人間になった頃の感動を思い出したよ」
「ええ、大好きな人を抱きとめる手がある。大好きな人の香りを感じる鼻がある。大好きな人の声を聞き取る耳がある。そして大好きな人に思いを伝える口がある・・・」
「素晴らし事だよね。なのに、当たり前の事は、直ぐ忘れ感謝も感激も薄れてくる。さあ、そろそろ時間だね。緑さんとの限られた時間を大切にしなきゃ」
「はい。それでは、これで失礼致します。ありがとうございました」
そう言って縁君は席を立ち、素敵な笑顔を残して出て行った。
ガラス越しに、彼が横断歩道をわたる姿が見えた。
と、その時、右折して来た大きなトラックがゆっくりと、彼にかぶさっていくのが見えた。
急ブレーキの音と、側にいた人達の悲鳴の声。
そして、曲がるはずのない手と足の向きになって、倒れている血だらけの縁君の姿。
私は、椅子を蹴飛ばして立ち上がり、彼の元へと向かった。
「神様、お願いです。縁君を助けてください。彼にはまだ一日人間でいられる時間が残っているはずです。緑さんとの最後の時間を、彼から奪わないで下さい。神様、どうかお願いです」
そう、心の中で叫んだと同時に、私は天空にいた。
「よう、久しぶりだなあ。俺を覚えているか?」
「あなたは・・・・私と契約した悪魔・・・」
「そうそう、お前随分人間やってたみたいだけど、やっと、俺との契約が切れるぜ。元の自分を必要としたからな」
「私は、神様だったのか?」
「そうだよ。酷く異端児の神様だよ。なんたって、悪魔の俺と契約するんだから」
「そういうお前も異端児の悪魔じゃないのか、私の願いを叶えるなんて」
「相変わらず、減らず口ぬかしおって。おい、早く、下の友達どうにかしてやれよ。お前にしか出来ない仕事だぜ」
「あっ!!そうだな」
「少しは、成長したみたいだな。まあ人間になっていた時間もそう無駄ではなかった訳だ」
「長過ぎたよ。1世紀以上いた気がする」
「はあああ、それだけ、お前には修行の時間が必要だったのさ。なんたって、人間になりたかった理由が、この世で最高に悲しい味のお好み焼きを食ってみたいから、だもんな。で、食えたのかよ?」
「いいや、幸運にも一日足りなかったよ。でも、食えなくて本当によかった」
「やれやれ、相変わらず、めんどくせえ奴」
道で倒れている縁さんを抱き起こした。
彼は、怪我こそしていたが、テンに抱かれて、また意識が戻った。
「うーーん・・あれ?テンさんなの?」
「君はあと一日だけ、まだ人間でいられるんだよ。
こんなところで死んではだめだ。
君はこの一日をどう過ごしたい?」
「あと一日・・人間として・・・・。
ボク、やっぱり大好きな人を手で抱きとめて、
大好きな人の香りを鼻で感じて大好きな人の声を耳で聞いて、
そして大好きな人にこの口で思いを伝えたいよ・・・」
「え?そんなささやかな願いでいいのか。どこか行くとか美味しいもの食べるとかじゃなく?」
「うん。ささやかじゃない、とってもステキなことだよ。
そういう人間的なやり方で、縁って生まれるんだなってボクわかったから・・」
「じゃあ、好きにしたらいいよ。」
「テンさん、ボクを最後まで見届けて。」
「わかったよ。」
「テンさん、ずっーと大好きだよ。あ・りが・と・う。」
人間としての最後の1日を終える間際に、縁はそれだけ言うと、
私と固く握手をして、大きく息を吸うと、駆け出した。
私は、あとを追った。
そこには、怪我のあとのように、葉っぱが少しちぎれたきゃべつがころがっていた。
私はそこに駆け寄ると、そのきゃべつをぎゅっと抱きしめた。
「君が縁さんっていう存在だったこと、私は永遠に忘れないよ。
ずっーと覚えているからね。」
きゃべつの葉の間から、夜露のようなしずくがつつーっと流れ落ちた。
私は、いくら自分が神でも、自分の力ではどうにもならないこともある、
それが運命というものなのか・・
悲しい味のお好み焼きは食べられなかったが、
その味の意味するものをこの感情を通して理解した。
そばに隠れて、すべてを見ていた悪魔は、
自分は万能だと信じていたのだが、そんな自分にも
立ち入れない感情の聖域があるということを知り、
自分のしっぽをギリギリと歯噛みして、またどこかの闇へと、
ふっとまぎれて、その姿を消したのだった。