マジカル・ミスってるツアー

MMT社
猫と水どうとするめイカ面達との非常識の中の常識的日常

本当の自分

2008-05-20 22:22:25 | 小林賢太郎・(有)大吟醸
「小林君の発言少ないから。小林君2時間任すから・・」

この彼の一言で、全員の目が私に向けられた。

話にあまり参加していなかった者、進んで意見を述べていた者、一発逆転を狙う一言を模索していた者・・全ての人間が私の一挙一動に注目している。

私は、平然を装いながら、常々用意しているマニュアル本通りの台詞を、少しい嫌味たらしく、ゆっくりと喋り始めた。


「今から、本当にしゃべりますよ・・・」


私の心臓の音は、誰にも聞こえていないはずだ。

大丈夫。うまくやれる。何十回、いいや、何百回も練習したんだ。

小林という人間になればいいだけの事だ。

役になりきれ。今はその事だけに集中しろ!

この数十分、まったく声を出していなかったので、少し声が上擦る。

今にも発狂したい心境だ。私にとってみれば、口から兎を出す芸の方がどんなに楽か。

しかし、こんな胸の内を誰が想像しているだろう。


いつも思う。何故自分だけが、理解力不足でトロイ人間だという妄想に駆られるのだろう。

特に脚本がきちんと無い、ディスカッション形式には、素早く、臨機応変な処置が出来ない。

こんな事を言ったら、変に思われるんじゃないか?嫌われるんじゃないか?バカと思われるんじゃないか?他人の眼にどう映っているのか?周囲の人達の顔色が気になるのだ。

長男としていい子でいる、お兄ちゃんとしての行動を示す、礼儀正しく、規則正しく、襟を正して・・。知らず知らずに植え付けられた体質が、がんじがらめに心を抑制している。

自由に、好き勝手に、マイペースで、ダダをこねて意見をいい、他の思惑を気にせず反発出来る人間が羨ましくてしょうがない。


でも、自分にはそんな事が出来ない。勇気がない。自信がない。


だから、いつも、孤立している。意見を自分から、しゃしゃり出て喋る事は、絶対無い。他人の意見に否定も肯定もしない。顔付きが変わらない様に注意を払い緊張している。


そんな態度が何故だか、第三者には、胡散臭い、利発で頭のキレがずば抜けている、人に自分の弱みを見せない、自信家でナルシスト、ポーカーフェイス・・・と捉えられてしまうらしい。


不思議だ。私が思っている以上に、私を評価して持ち上てる気がしてならない。

私の事が好き嫌いを別にして、全員が仕事に対しての信頼を寄せている。

確かに失敗はない。それは、裏を返せば不安材料を消す為に、常に計画を立て何度も確認作業を行い、実行しているからである。


それが評価に繋がる。「天才」だという・・。皮肉な結末。



「ウッフン??今作ったろう!!」

予定外の突然の突っ込みで、脇の下から一気に汗が噴出した。

落ち着け。突っ込まれた時の、相手を持ち上げる対処法・・・。

私はNo.58の回答を素早く海馬より引っ張りだした。