EV143『三つ実の郵便配達日記』

EV143"幸せってなんだっけ"
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『6:30 仕事中。~ぱんくす牛乳牧場へ~』

2009-05-09 06:30:23 | ゲーム

(◆絵をクリックすると原寸大に拡大しますよ)

 午前6時30分。
朝日はまだ直視できるくらいの明るさで、砂漠の凍えた朝の空気を暖めるには至ってない。

 私は制服の襟を立て、ぶるっと一度震えてから、まだ冷え切った朝の空気を胸一杯に吸い込んだ。
一気に目が覚め、生まれ変わったかのような感覚が体の隅々まで行き渡る。

「……いきますかっ」
 一言呟き、力強くペダルを漕ぎ始めた。

 ――冷たい空気が鼻の頭や耳に当たるたびに、刺すような感覚が襲う。もう少しすればお陽様の力で空気も暖まって消えるだろう。でも、既に頭の中には、今日の配達内容と、郵便を待ち受けている人々の笑顔しかなかった。
 皆の笑顔を思うと自然に笑みがこぼれる。

 今日の最初の配達先は最近ニューワールドで知名度が上がりつつある牧場『牛にゅーわーるど』
結構な量の郵便物だが、どうやらほとんどが個人から工場宛ての手紙のよう。

 ――どんな人が、どんな思いを込めて書いた手紙なんだろう――

 ……想像しつつペダルを漕いでいくと、砂漠が切れて穀倉地帯が目に入ってきた。
道路脇の看板に描かれた可愛らしい牛の絵が、『直進5分。左折だよ♪』と教えてくれている。
 目的地の『牛にゅーわーるど』まではあと少し。
白い息をひとつ、おおきく吐くと、口元を緩めて、さらにスピードを上げた。

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「おはようございますっ」
 開口一番、できる限りの笑顔で挨拶をする。

「おう、おはよう。今日は三つ実嬢ちゃんか。毎日悪いねー」
 顔見知りの従業員のおじさんが、同じくらい元気な声で返し、

「寒かったろ? 今若いのがホットミルク持って来たところでよ、よかったら飲んでいきな」
コップに湯気のたつ、甘い匂いのする飲み物をコポコポと注いで渡してくれる。

「ありがとうございますっ」と申し訳なく受け取ると、暖かいカップで冷えた両手を暖める。
 そして、一息ついたところでと、おじさん宛ての郵便を渡す。
「これ、今日の分です」

 おじさんは、郵便物を受け取ると、
「おい、みんな、三つ実嬢ちゃんが郵便もって来てくれたぞー」
 と、工場に響き渡る声で他の従業員に呼びかけたのだった。

「あ、三つ実さんだー、おはようー」
「え、三つ実さんっ? 本当だっ、おはようございますっ」
 呼び声をきっかけに、同じく顔見知りの数人の男女が工場から顔をのぞかせる。

 集まってきた人それぞれに「おはようございますっ」と笑顔で返し、各人宛の郵便を渡していく。
そして、皆が自分宛の郵便を手にして笑顔になるのを眺めて、『この仕事をしてよかった』と思うのだった。

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「俺の分の郵便物はあるかな?」
 私がそんな一時を満喫していると肩越しに声をかけられた。

 この牛乳工場の工場長(そして、彼は王国の技族長でもある)のぱんくすさんだ。いつも物静かな雰囲気で、考え込んでいるような笑顔を浮かべている人だ。

「技族長さん宛てのお便りは……こちらです。あと、こちらは工場宛てですねー」
と、今日の郵便物でも最大、国外郵便もある巨大な束を渡す。

「ありがとう。お、こんなにあるのか。護民官からもある。重かったろ?」と、笑顔になるぱんくすさん。
「いえ、えーと、慣れてますから。それに、喜んでもらえるのは嬉しいですし」と、ちょっとはずかし気にはにかむ私。

 すると、このやり取りを見ていたおじさん。
くーっ、おっちゃんがあと10歳若かったらなぁ……。と、心の底から悔しそうに漏らす。

 うんうん。なぜかうなずく男性陣。

 いやいや、彼女には婚約者が居ますからっ。と、周りの誰かが突っ込みを入れ、
 それもそうだ! と大笑いする一同。

 ……えーとそのぅ、恥ずかしい……。

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「……そ、それじゃぁ、次の配達先にいきますね……」
 一通り、郵便を配り終えたので、そろそろ次の配達先へ行かなくてはいけません。

「体にいい」
 突然、ぱんくすさんが瓶に入った牛乳を渡してくれた。

「絞りたてだ。良かったら航に飲ませてやってくれ。栄養満点だと思うんだが」
「お気持ちは嬉しいのですが、職務上、就業時間中にお客様から物を頂くわけには……」

「じゃぁ、友人からということで」
 イイ笑顔のぱんくすさん。
「……はいっ、ありがとうございます。必ず渡します。それでは、失礼しますっ」
 私は、心を込めて精一杯のお辞儀をする。

 ――そして、自転車に乗り込み、次の配達先へ漕ぎ出す。

「おうっ、嬢ちゃん、また郵便たのむなー」
「三つ実さん、またねーっ」
 声をかけてくれる皆さんに、できる限りの笑顔で手を振って応える。

 改めて前を見据え、次の配達先を目指す。郵便を待っている人に笑顔を届けるために。
 気が付くと陽はだいぶ上がり、空気も暖かくなって来ている。

 私は、暖かい空気を胸一杯に吸い込んだ。

「……よしっ、次は~」

 今日もきっといい天気。
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