原発に頼らない社会へ(田中優さん講演2013.1.24)
1.原子力発電をめぐるウソと真実
(1)なぜ電力会社は原発を作りたがるのか?
結論から言うと原発を作れば作るほどもうかるから。電力料金=電力設備の総費用(a)+(a)×3%の「適正」報酬から成っている。費用と報酬は比例関係にあり、総費用を大きくすればするほど電力会社のもうけは増加する。そのために架空ニーズや施設建設費を大きくしよう電力会社が目論むワケだ。このしくみを「総括原価方式」と言い、大震災以降明るみに出て今や世間の批判の的になっている。
(2)原子力発電はホントに安いのか?
真っ赤なウソだ。原発は一旦稼働すると核分裂が簡単に止まらないので24時間絶え間なく発電しなければならない。水力や火力発電と違って需要に応じた供給調整がきかない。電気は貯めておけないから、夜中に余る電気を無理にでも消費する必要がある。そのひとつが揚水発電所だ。その実態は「棄て電所」で揚水時に使用する電力の70%しか新たに発電できず差し引き30%を棄てている。家庭向けにはオール電化が推奨され、安い夜間電気料金の温水器やIH調理器がPRされてきた。しかし、高価な設備更新費用に加え、夜間料金はこの7年間で2倍になっており昼間料金も割高に設定されている。
ドイツと日本の発電単価を比べると日本は1.6倍も高い。全体に占める再生エネルギーの構成比もドイツの13.2%に比べ日本はわずか2%だ。再生エネルギーは高くない。フクシマ事故以降脱原発を宣言し再生エネルギーに国策転換したドイツに学ぶべきだ。
(3)原発が動かないと電力不足や大規模停電が起きるというのは本当か?
昨年の夏はすべての原発が止まって大騒ぎになった。中でも原発依存度の高い関西電力管内では大規模停電が喧伝された。ピーク時予測は3,015万kWhだったがフタを開けると実際には2,681万kWhに過ぎず、その差は334万kWh で1割以上も余裕があった。強引に再稼働した大飯原発3、4号機の合計発電量は236万kWhだから再稼働の必要は全くなかったワケだ。しかも、関電の場合、60Hzの西日本六電力会社間で相互連携できる地域にある。昨年夏時点の6電力ブロックの合計総発電量は9,622万kWhであり、使用実績の総計は8,817万kWhだった。ナント、その差805万kWhも余っていたのだ。
大震災前年の記録的な猛暑だった2010年東京電力使用実績によれば、最大消費量が供給力の上限に100万kWhを切って肉薄したのは年間わずか5時間である。そんな軽微なリスクと引き換えに私たち国民は原発リスクを受け入れなければならないのだろうか。
(4)電力使用の実態を正しくつかもう
日本の電力の使用実績を正しく認識してほしい。電力消費量は、事業用と家庭用では78%対22%である。3/4を事業所で使っている。事業所の中でもオフィスが一番だ。エアコンが45%、照明が21.3%を占めている。電力需要のピークは夏場、気温が31℃以上になる平日真っ昼間の13:00~15:00である。この時間帯の節電を事業所に協力してもらうことは困難ではない。料金面での優遇措置で需要者側の節電インセンティブを高めることもできる。つまり、電力需要のピークにあわせて電力供給を増やす政策から電力使用をコントロールする政策への転換だ。これをデマンド・レスポンスというが、北九州市の実験ではピーク時の使用量が16%もダウンできたという。
家庭の単位電気料金は使用量と共に上がるが、事業所の単位電力料金は逆に使用量が多くなるほど安くなる大口契約を電力会社と結んでいる。これでは企業に節電するメリットがない。そのため、企業はやろうとすれば出来る省エネ製品の導入をしていない。
2.今後の日本のエネルギーをどうするか
今や最大の発電所は「節電」である。電力消費のピーク時に使用を減らすしくみを作れば原発は全く不要なのだ。
原子力による電力生産量は全体のおよそ25%、全ての原子炉を止めて残る75%の電気は1990年代の電力生産量と同じ。25%位なら、構造的な省エネ、自然エネルギーの多様化や進化で十分賄うことができる。
アイスランドでは100%地熱発電で電気を賄っている。その設備の14基/17基、82%が日本製である。その分野では全世界の7割を日本の技術が占有しており断トツなのだ。しかし、火山列島日本ではわずか0.2%の普及にすぎない。原発推進の結果である。
原発に代わる今後の注目すべき自然エネルギーは、①排熱利用、②風レンズ風車、③小規模水力発電装置等がある。脱原発後のエネルギーのあり方を皆さんも真剣に考えてほしい。
3.私たちの今後の活動の方向性を考える
(1)運動の三つの方向性
先の総選挙結果にはガッカリしたけど私はいち早く立ち直った。それは運動にはタテ・ヨコだけじゃないナナメの方向もあることに気がついたからだ。
タテ方向は選挙に出るなど権力機構に参加・介入して流れを変える方法。それは先の総選挙結果を見れば当面困難だ。ヨコ方向はデモや署名行動等を通じて多くの人の共感に訴えて流れを起こす方法。いずれも従来型の運動だ。これ以外にもうひとつの方法がある。
「ナナメ」の運動だ。タテは小選挙区制など民意を反映しない制度の壁にブチ当たって困難を極めている。ヨコもまた疲労感が残るばかりで前進しないのなら、ナナメの運動をやってみよう。新たなしくみを考えて実際にやってみることだ。
反原発や脱原発と言っても具体的にどう対処するのか多くの人にはイメージがわいていない。スローガンだけで反対するのではなく、原発に頼ってもムダ、原発が不必要になるように実際の行動を起こしていくのがナナメの運動と考えてほしい。
(2)脱原発を簡単に実現する方法
総選挙前のNHKニュースで、「原発ゼロになると家庭の電気料金は月平均16,900円→35,000円にアップする」と煽っていた。私に言わせれば何をか言わんやだ。
東京電力管内で見ると、事業所と家庭の電気使用比率は事業所62%・家庭38%だが、営業利益は事業所9%・家庭91%と逆転している。利益のほとんどが家庭の電気料金かから発生しているのだ。これを逆手に取らない方法はない。
電力会社のもうけの9割以上を支払っている家庭が電気的に自立してしまったらどうなるか。電力会社は原発の発電価格を事業者に負担させられない。つまり脱原発がいとも簡単に実現できるのだ。
(3)具体的にはどうするか
一つ目にお金の脱原発がある。電力会社の原発推進資金は、そのほとんどが三大メガバンクや大手生命保険会社などから出ている。つまり、私たちの貯金や保険料が原発資金になっているのだ。これを非営利のろうきんや地域金融の信用金庫などに預け変えたり生命保険料を全労済や共済掛け金などに変更することで原発推進資金を絶つことが出来る。
二つ目には、電気製品の省エネと太陽光エネルギー利用がある。家庭で最も電気を消費するのは冷蔵庫だが、最近のものは1995年製との比較では電気消費量が半分になっている。省エネの結果1日3.8kW が2kWにまで落ちている。つまり、これは命がけの原子力発電から8畳分の広さの太陽光発電で賄えるようになったということだ。太陽光発電の単価は現在@25円だが近い将来には@19円にまで下がると言われている。
ただ問題点もある。それは送電ロスの問題だ。50万Vの高圧線を1とすると、家庭の近くを走る6600Vの送電線は5739倍も送電ロスがある。太陽光発電を導入しても近隣に電気需要がなければそのほとんどが送電ロスで消えてしまう心配があるのだ。
だから三つ目は電気を自給自足するしくみ=パーソナルエナジーの導入だ。これは自宅で作った電気で自宅の電気を自給する=オフグリッドしてしまうしくみだ。グリッドとは送電線のことで、オフグリッドとは送電線から離れて暮らすことだ。これで送電ロスの心配はなくなる。しかし、このしくみはすでにできているが価格が高い。
そこで電気自動車と組み合わせたらどうだろう。電気自動車は非常にコスト効率が高い。1km走って2円程度だ。つまりガソリン1リットル150円と比較するとリッター75キロ相当になる。だから将来的には必ず電気自動車の時代が来るだろう。
これを自宅の太陽光発電などで賄ったら、実質的に燃料費は無料で、CO2排出の心配もない。現在の「ガソリン代+電気代」と将来の「電気自動車代+太陽光発電+バッテリー整流装置」との組み合わせを比較して後者が安くなるなら誰もがこのシステムを使うようになるだろう。
日本の自給率で常に問題になるのは食糧の25%だが、エネルギーはわずか4%である。年間25兆円ものお金が石油・天然ガス・ウラン・石炭などの輸入で海外に流失している。これを47都道府県に配分すれば1県当たり5,210億円になる。原発銀座を抱える福井県に関西電力が支払う原発交付金の額は130億円だからその40倍相当だ。新たな国内産業や雇用も生まれる。若者の雇用問題も解決する。
4.市民の側から原発は止められる
私がイメージしているのは、「ガソリン代+電気代」10年分と釣り合う価格での提供だ。つまり今払っている電気料金とガソリン代を10年間返済に回せば、それだけで太陽光発電とバッテリーと電気自動車が手に入るしくみだ。
でも実際にはそんな多額の資金はないという人も多いはずだ。脱原発宣言をした城南信用金庫の吉原理事長に相談した。吉原さんは「そういうしくみであれば融資したいですね。各地の信用金庫にとっても良い資金需要になるのではないですか。」という返事だった。
ということは、あとはそのシステムの参加希望者の数と、自動車メーカー、バッテリーメーカー、太陽光発電メーカー、整流装置メーカーの努力次第ではないか。
今の電力会社の利益の9割を支払っているのは一般家庭なのだ。その家庭が自立してしまったら、電力会社は原発の発電価格を事業者に転嫁できなくなる。つまり自ずと脱原発が実現できるのだ。そう考えるとワクワクしませんか?
5.社会は必ず変えられる
私たちに必要なのは、未来に対するワクワク感じゃないかと思う。今回の選挙結果でガッカリした分だけより多くのワクワク感が必要だと思う。未来に期待するものがあるからこそ私たちは生きていけるのだ。
タテ方向の活動→政治を変える→これは今回は負けた。ヨコ方向→運動拡大→これはチョット疲れる。脱原発運動→必ずしも未来の具体的なイメージに結びついていなかった。石油社会から自然エネルギー社会へ→この未来社会のイメージが共有できたとき、社会は必ず変えられる。そんなナナメの運動を一緒にやってみようじゃありませんか。(ブログ「憲法たんば」より転載)