ふるさと加東の歴史再発見

少し気をつけて周囲を見回してみると、身近なところにふるさとの歴史を伝えるものがある。

尋常小学国語讀本の「油蝉の一生」より

2024年08月21日 05時33分13秒 | Weblog
  

 昨日紹介した『尋常小學國語読本』に面白い読み物がありました。第十七「油蝉の一生」です。※油蝉(アブラゼミ)
 夏も終わりにさしかかっています。夜になると、秋の虫の代表であるコオロギの音が聞こえてくるようになりました。しかし、残暑の中、庭で激しく鳴いているのはアブラゼミです。そのアブラゼミの生態の読み物が、挿絵入りで、とても分かりやすい文章で書いてあります。文は次の通りです。挿絵も見て下さい。

油蝉の子は土の中に住んで居ます。前足が上部ですから、げらやもぐらのやうに、土の中を自由にもぐつて行きます。大ていは、木の細い根をぢくにして丸い穴を掘り、其の中にはいつて居ます。油蝉の子の口には、針のやうな管がありますから、其の管を木の根にさしこんで、汁を吸つて生きて居ます。
それにしても、油蝉の子は、どこで生まれたのでせうか。
夏の末になると、親蝉は、木の皮にきずをつけて、其の中に卵を生みます。卵は其のままで冬を越して、翌年の夏孵(かへ)るのですが、孵つた時は二粍(ミリ)ぐらゐの、小さいうじのやうなものです。此の小蟲が、やがて木を下りて、何時の間には、柔い土の中にもぐりこんでしまひます。
最初は浅い所に居ますが、年を取るに従つて、だんだん深い所へはいつて行きます。軆も大きくなり、形も色も次第にかはつて、がんじようになります。
土の中へもぐつてから七年目に、やつと長い地下の生活が終るのです。そこで、油蝉の子は、深い所からだんだん浅い所へ移って地上へ出る日の来るのを待つて居ます。
天気の好い夏の夕方、油蝉の子は、今日こそと穴から地上へはひ出します。もう鳥などは大てい寝て居ますが、それでも油蝉の子は用心して、急いで安全な場所を探します。木とか草とかに上つて安心だと思ふと、前足の爪で、しつかりとそれにしがみつきます。すると、ふしぎにも前足はかたく其の場所にくつついて、動かなくなります。
其の中に、かたい背中の皮が縦に割れて、中からみづみづしい軆が現れます。すぐに背中が出る、頭が出る。続いて足が出て来ます。もう残つた所は腹の下の方だけです。
そこでおもしろい運動を始めます。ぐつとそりかへるやうにして、頭を後へ下げます。しばらくは其のままじつと動かないで居ますが、やがて起直つたと思ふと、軆は完全に抜け出します。しわくちやにたたまれて居た羽が見る見るのびて来ます。
もう蝉の子ではありません。色はまだ青白くて、弱々しさうですが、形はりつぱな親蝉です。
夜風に当たり朝日に当たると、すつかり色がかはつて、見るから丈夫さうな油蝉になります。さうして、天気の好い夏の日を、愉快さうに飛び廻り鳴きたてます。
油蝉はそれから二三週間生きて居ます。満六年といふ長い地下生活にくらべて、何といふ地上の短い命でせう。ところで、此の六年さへたいくつだらうと思はれるのに、外国には十何年も土の中にもぐつて居る蝉があるといふことです。

 少し長い文でしたが、全文掲載しました。夏の夕方、幼虫が土の中から這い出てきて木や壁をよじ登り、やがて、体を固定し、背中が割れて、羽化が始まり、全身が抜け出ると抜け殻に止まって羽を伸ばし、乾かし、やがて色がついて立派な蝉になる。幾度このような場面を見てきたことでしょうか。毎年のようにこのブログでも写真入りで紹介してきました。まさに自然の神秘そのものでした。その光景がこの文章からもあざやかに目に浮かんできます。子供達は、知ってたり、あるいは触発されて観察する子もいたのではないでしょうか。90年ほど前の小学校国語教科書からの紹介でした。
 
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