語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【加計学園疑惑】獣医学部新設に日本獣医師会が「反対」する理由

2017年06月06日 | 社会
 (1)2016年11月9日、国家戦略特区諮問会議(議長:安倍晋三・首相)は加計学園による獣医学部新設を事実上決定した。
 これを受けて、公益社団法人日本獣医師会(会長:藏内勇夫)が全国55の地方獣医師会に対して同年11月28日付けで文書を送った。その中に言う。
 <国家戦略特区による獣医学部の新設は、文部科学省、獣医学系大学等多くの関係者による半世紀にもわたる獣医学教育の国際水準達成に向けた努力と教育改革に全く逆行するものです>
 そして、同年11月18日から開始された意見募集に対して「多くの方々から論理的かつ決然たる反論」の提出を、と呼びかけてる。この文書は、安倍首相にも送付された。
 同年12月17日までの約1ヵ月間にわたり募集されたパブリックコメントには、900件余の意見が寄せられ、その8割超が「反対」だった、とされる。加計学園による獣医学部新設は、“身内”であるはずの同業者から“総スカン”を食らったわけだ。
 それは果たして、安倍首相の言う「岩盤規制改革」への既得権益側からの抵抗なのか、それとも「腹心の友」への利益誘導を図ろうとした無理筋の指定に対する業界側からの至極まっとうな反論なのか。

 (2)じつは日本中医師会は、「特区提案」による大学獣医学部の新設に「反対」する提言を、すでに2010年8月5日に発表している。反対理由は次の5項目など。
  (a)獣医師の養成は全国的視点に立ち、需給政策と一体的に運営すべき。
  (b)獣医師需給政策上の課題は、処遇改善による職域偏在の是正を図ること。
  (c)「特区」による獣医学部の新設は、職域偏在の是正に応え得るものではない。
  (d)「特区」に名を借りた新設の許容は、獣医学教育・研究体制の質を根底から壊すことになりかねない。
  (e)獣医学教育の国際的な水準確保の要は、専任教員の数と施設・設備にあり、(加計学園の新設獣医学部の計画は)画餅に過ぎない。
 (a)の「需給政策」には説明が必要だ。農林水産省畜産安全課によれば、2014年現在、獣医師の免許保有者は約39,100人。年間約1,000人が獣医師国家試験に合格し、ほぼ同数が廃業している、と想定される。39,100人の獣医師が従事する業務の内訳は次のとおり。
   ①「小動物診療」(犬・猫などペット診療に従事)・・・・約39%
   ②公務員(農林水産・公衆衛生分野の行政に従事)・・・・約24%
   ③「産業動物診療」(牛・豚などの家畜の診療に従事)・・・・約11%
 家畜やペットの数は減少していて、一概に言えないが、獣医師の数自体が全体的に不足している状況ではない。ただ、畜産分野の獣医師の確保が課題となっている県もあり、修学資金などにより支援している。【磯貝保・畜水産安全課長】
 農水省の「獣医師の需給に関する検討会」の報告書(2007年5月)においても、この獣医師の活動分野や地域の偏在について「是正する取り組みを強化すべき」と提言している。つまり、10年前も今も獣医師の「需給政策」の課題は変わっていない。
 日本獣医師会の「反対」提言から7年が経過しているが、(a)以下の反対理由については、「課題解決の途上であり、基本的な構造は変わっていない」【境政人・日本獣医師会専務理事】。

 (3)獣医師が不足していないにもかかわらず、今回の加計学園の獣医学部が新設されれば、全国の獣医学系大学が受け入れる学生の定員は増える。
 獣医学系の国公立私立大学は現在16あり、定員は合計で930人。加計学園の獣医学部の定員は「160人」なので、これが認められれば「17大学・定員1,090人」になる。
 獣医師会関係者は口をそろえて言う。「明らかに過剰になり、需給のバランスが崩れる。課題は数の確保ではなく、分野および地域の偏在なのである」と。

 (4)山本有二・農林水産大臣は、加計学園をめぐる国会答弁の中で、獣医師の数が「足りないということはない」と認めながらも、「新たな需要に対応する獣医学部新設がなされるのであれば、産業動物獣医師の確保が困難な地域が現実にあるため、そうした課題の解決につながる仕組みとなることを期待する」旨の説明をしている。
 
 (5)今治市では、卒業後の「地元就職」を見込んでおり、愛媛県ではそれを条件とした獣医師確保のための「修学資金」貸付制度もある。
 しかし、(2)の境専務理事は反論する。
 「修学資金は一定の効果はあるものの、多くの卒業した人たちに対しずっと特定の地域への就業義務づけをすることはできない。事実、全国で学んだ人たちは全国に散っていく。四国に新設したからといって、地域の偏在は何も解消されない。魅力ある職場と処遇改善がカギなのだ。獣医師会としては特区による区域の活性化自体に反対しているのではなく、獣医師が直面している課題を見れば、特区による獣医学部の新設はまったくなじまない、と指摘しているのだ」

 (6)しかも、山本農水大臣が「新たな需要に対応する」とした加計学園の「国際水準の獣医学教育」にも疑義が生じている。
 加計学園の構想では、定員160人に対し、「欧米の基準に適合できるカリキュラム実施に必要な教員数(70名程度)を確保」としている。実際、72人の教員を確保した、と報じられている。しかし、
 「72人のうち30人が65歳以上、つまり定年になった先生方で、21人はまだ学位を持っていない大学院生などを引っ張ってくるようだ。これで果たして『国際水準の獣医学教育』が可能か。北海道大学を例にすれば、約70人の教員を確保していても、定員40人が限度。いくら何でも、先ほどの72人で160人への国際水準の教育は無理だ」
 そう話す境専務理事は農水省のOBであり、この業界を熟知している一人だ。
 「数十年来の業界の課題は、国際水準の獣医学教育の実現であり、そのための専任教員の確保と施設・設備の充実だ。その方策として『共用試験』および『参加型臨床実習』制度【注】が2017年度から具体的に実施されようというときに、定員増。これは、これまでの業界と行政の地道な取り組みに逆行するものだ」

 (7)加計学園の「獣医学部新設ありき」の国家戦略特区指定は、その中身においても破綻する可能性が高い。文科省にゴリ押しして通した「官邸主導」の目的は、やはり「腹心の友」への利益誘導なのだろう。

 【注】全国的な試験に合格した学生を診療現場で実習させる制度。2017年度から本格実施される予定だが、学内だけでは実習を行う受け皿が足りないため、現在調整中。

□片岡伸行(編集部)「今治市と加計学園の「計画実現は無理だ」 獣医学部新設に日本獣医師会が「反対」する理由」(「週刊金曜日」2017年6月2日号)
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 【参考】
【加計学園疑惑】愛媛県・今治市も「共犯」か ~地元の発言・文書も示す加計学園「総理のご意向」~
【神保太郎】首相の妻(安倍昭恵)、日本の公教育を否定
【後藤謙次】【加計学園疑惑】沈黙していた政官双方から異論 ~加計学園問題が招く想定外反応~
【加計学園疑惑】と官邸 ~「総理の意向」隠蔽か~
【加計学園疑惑】「忖度」ではなく首相の直接指示か ~首相主導の“官製談合”~
【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~



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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-08-07 09:04:41
獣医師免許保有者が足りていようが、獣医学部を新設してはいけない理由にはならないんですよ。

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