語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~

2015年01月26日 | ●佐藤優
 (8)「アラブの春」を考える際、もう一つポイントがある。
 「アラブの春」に、民主化運動を見るよりも、その一歩先の、中東における共和制型の政権を壊すことに関心を持った国がある。湾岸の王制の国々、とくにサウジアラビアだ。「アラブの春」による混乱に乗じて、中東における覇権を確保することをサウジアラビアは狙っていたのではないか。
 湾岸のバーレーン王国は、スンニー派支配の国だが、サウジアラビアの東の外れの先にある。その先の海を渡った向こうにイランが控えているので、このあたりにもシーア派の勢力が存在していて、それをスンニー派政権が抑えつけている。
 この地域の国々(サウジアラビア、アラブ集彫刻連邦、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート)は、「湾岸協力会議」(GCC)という集団保障体制を作っている。これもイランへの対抗策の一環だ。イラン発のイスラム革命によってシーア派の勢力がここまで迫ってきたら、小さな湾岸諸国はひとたまりもない・・・・ということで、大国サウジアラビアを入れてGCCを作った。バーレーンが危機を迎えると、サウジアラビアが「友好の橋」を使ってバーレーンに軍を送り込み、反政府運動を弾圧した。

 (9)バーレーンが「アラブの春」に学んだことが、もう一つある。広場の管理だ。
 エジプトでは人々が回路のタハリール広場に集まって反政府集会を開いた。この模様が全世界に報じられ、「アラブの春」を後押しした。
 バーレーンには真珠広場があった。真珠広場に反政府的な民衆が集まってきたので、政府は広場をつぶした。

 (10)中東を知る上で欠かせないのは、中東のCNNとも称された「アルジャーラ」だ。できた最初のころは、本当に自由な報道をすると言われていたし、事実そういう面があった。しかし、最近はカタールの国策に則ってやっている。
 湾岸の王制国家は、相当の危機感を抱いている。<例>バーレーンの報道も、「民主化を求める運動です」と言えばいいのに、「外国勢力がどうの」みたいなトーンになる。
 リビアのときもそうで、反政府運動が盛り上がり始めたころ、朝から晩までリビアのカダフィ政権がいかにひどいか、ということしか報じない。ものすごく偏っている。いまは、露骨に、カタール、スンニー派、サウジアラビアの意向に沿った報道しかしない。
 「アラブの春」が始まってから多くのアラブの王制を批判してきたアルジャーラだが、サウジアラビアだけは絶対に批判しない。これは徹底している。あのあたりの広告代理店は全部サウジアラビアが押さえている。営業的にまずいことはできないのだ。

 (11)中東の超大国、サウジアラビアの行方は今後の大問題だ。
 まず、国王の後継者問題がある【注】。しかも、一夫多妻制で、いろんなところに小さい権力のセンターがあるから、一人異動すると全部玉突きで動く。複雑系の世界だ。
 王子は1万人いる、と言われる。
 「サウジアラビア」とは、「サウド家のアラビア」という意味で、家産国家だ。30年くらい前まで国家予算というものがなかった。国家予算と家計が渾然一体となっていた。全部サウド家の私的財産で賄っていた。
 国会も国政選挙もないが、国すなわちサウド家が国民の生活の面倒をすべて見てくれる。汚い仕事やきつい仕事はイエメン人やパキスタン人にさせて、サウジアラビア人は高級官僚になる。今でも王族が巡行するときに、メープル金貨などの袋を持ってベドウィンなどに配っている。
 「サウジアラビア」は「サウド家の土地」という意味であって、われわれがそれを勝手に国家と呼んでいるだけのことだ。

 【注】記事「サウジ改革、前途多難 緊急度増す過激派対策 アブドラ国王死去」(朝日新聞デジタル 2015年1月24日)

□池上彰・佐藤優『新・戦争論』(文春新書、2014年11月20日)の「第4章 「イスラム国」で中東大混乱」
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 【参考】
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
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【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
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