語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

【映画字幕】の中に人生 ~戸田奈津子の、要約と達意~

2018年08月28日 | □映画
 <どの程度の文字を画面に入れるかも問題だった。ふつうの観客がどのくらいの文字数を読みきってゆけるか。その見当がつかなかったので、ごく平均的な日本人として新橋の芸者さん(!)に映画を観てもらい、とりあえず1秒に3、4文字、1行13文字というルールをつくった。フィルムはいわゆるスタンダード・サイズで、天地は現在と変わらないけれど、横が短いものだった。13文字というと、画面の上から下までぎっしりで、映写の状態によっては天地が切れてしまうこともあって、12文字、11文字とだんだん字数が減り、いまは縦1行10文字で落ち着いている。>【注1】

 <さて、平均的な日本人は映画館で意識を集中した状態でスクリーンを見ているとき、1秒3文字から4文字なら無理なく読みとれて、画面にも意識を配る余裕がある。この字幕の「物差し」はこの道の先輩たちが、試行錯誤のすえ算出したもので、だれにも無理なく文字の読みとれるスピードである。これを超えて文字数を多くすると、「字幕が忙しい」「読みきれない」という不都合が生じてくる。>【注2】

 <観客は瞬時に字幕を読み取るのだから、二つ以上の解釈が可能な文章であってはならない。百人なら百人に一つの同じことを理解してもらわなければならない。初歩的なこの例で言えば、「バスケットは籠のバスケット」「ナンシーという人物は私」であることをきちんと伝える字幕でなくてはいけないのである。>【注3】

 <字数が決められている以上、省略、意訳はやむをえないが、だからといって、それが過ぎてはいけない。
 “I haven't met her for six months.”
 これを「ずっと会っていないの」のようにしてしまう字幕はいけない。「彼女には半年会っていない」、つまり“six months”というディテールが大事なのだ。
 ディテールを大切に訳すことが字幕をリッチにし、その映画を観客にとって見応えのあるものにする。>【注4】

 【注1】本書「第1章 映画字幕というもの」の「三 映画字幕の生い立ち」から一部引用
 【注2】本書「第1章 映画字幕というもの」の「四 字幕が画面に入るまで」から一部引用
 【注3】本書「第3章 字幕という日本語」の「一 うまい字幕とへたな字幕」から一部引用
 【注4】前掲の章節

□戸田奈津子『字幕の中に人生』(白水社、1994)

 【参考】
【映画字幕】は翻訳ではない ~清水俊二の、要約術~

 


コメント   この記事についてブログを書く
« 【南雲つぐみ】胃の膨張感 | トップ | 【映画字幕】は翻訳ではない... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

□映画」カテゴリの最新記事