語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】中東をめぐるトンチンカンな議論 ~安倍晋三首相~

2016年11月05日 | ●佐藤優
 (1)日本は集団的自衛権をめぐって完全にトンチンカンな議論を展開していた。
 ホルムズ海峡が封鎖されたら、なんて。
 だいたい、どの国が機雷を仕掛けるというのだ。イラン? 国際航路帯はイランの領海に入らないよう、全部アラビア半島側を通っている。
 ホルムズ海峡のアラビア半島側はオマーンだ。地理的に見るとアラブ首長国連邦のように見えるが、先端の部分だけはオマーンだ。オマーンは飛び地を持っている。船乗りシンドバッドの国で、もともとはインドからマダガスカルの辺りまで、たくさんの植民地を持っていた非常に大きな国だったから。いまだに要衝は握っているのだ。
 オマーンは1970年代の初めまで鎖国していたのだが、イギリスがオマーンを重視して、19世紀からイギリスとの関係は緊密だった。そのせいか、オマーン人というのは非常に勤勉だ。
 ちなみに、東京大学の中東研究という寄付口座は、オマーンの金でやっている。だから、日本とは友好国だ。

 (2)国際航路はオマーンの領海内を通っている。すると、オマーンの領海内に機雷を敷設するということは、国際法上、イランがオマーンに宣戦布告をしたことになる。だけど、オマーンはイランとは絶対に戦争をしない。サウジアラビアとイランとの間で、非常に厳正な中立政策をとっているから。
 そんな状況なのに、もしオマーン・イラン戦争が起きたらオマーンを支援して機雷を除去してやるよ、という訳のわからない仮説を日本は組み立てた。オマーンにしてみれば迷惑千万で、「頼むからそんな無用な派風を立てる話をしないでくれ」と思っている。国際社会で全然ニュースにならない話だ。レベルが低いというか、あり得ないシナリオだから。
 千葉が日本から独立した場合に何が起きるか、利根川あたりで銃撃戦が起きるかもしれない、という話と同じだ。あまりにも現実離れしているから、みんな相手にしない。
 たぶん安倍首相は、国際航路がどこを走っているのかとか、そういうことに関心がないのだろう。単にサダム・フセイン政権時代に掃海艇を出したことを成功体験として、そういうことができればいいなあと妄想しているって感じだ。
 意図しているわけではなく、難しいことはあんまり考えないのだろうし、説明する人がいたとしても頭に入らないのだろう。政治家というのは、本当にアバウトだから。だいたい、イランとイラクの場所を正確に指し示せる政治家って、今の国会議員の中の半分もいないと思う。
 〈何のために知識を蓄えるか〉という動機づけが非常に弱いから。
 動機づけがきちんとなされていないから、現在の世界の基本的枠組みとされるウェストファリア体制が成立したのは1648年とか、そうした基礎的知識さえ頭に残っていない。そんな人に国際政治を語る資格はないんだけれど、どれだけの国会議員が覚えているだろうね。 

□佐藤優『君たちが知っておくべきこと 未来のエリートとの対話』(新潮社、2016)の「僕たちはナショナリズムから逃れられない 2015年4月1日」
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 【参考】
【佐藤優】中東全域が核保有する日
【佐藤優】遠距離ナショナリズム ~ウクライナ紛争の構図~
【佐藤優】近代の矛盾が凝縮するウクライナ ~イエズス会が播いた種~
【佐藤優】安倍政権が日本を壊しつつある ~反知性主義~
【佐藤優】健康志向はナチスが始めた
【佐藤優】民主政治はフランス革命をなぞる ~アベノミクスはジロンド派~
【佐藤優】出世頭の外交官が書いた間違いだらけの外交教科書 ~権威に惑わされるな~
【佐藤優】ギリシャ的伝統を引き継いだドイツ ~ライプニッツと帝国主義~
【佐藤優】民主制の起源 ~中学や高校の教科書が教えないこと~

 



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