語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【外交】安倍外交を根本から覆すドゥテルテの中国重視路線

2016年11月10日 | 社会
 (1)安倍政権の外交が混迷に陥っている。
 安倍晋三・首相はしばしば「戦略的関係」を唱え、自らを日本の国益を守る、決断力のある現実主義者であるふりをしている。
 この戦略の最大部分を占めるのが、中国の孤立化と封じ込めだ。これは、中国の経済成長と軍事力の近代化は日本に対する脅威であり、軍事手段に訴えてでも対抗しなければならないという考えに基づいている。
 これを最も体現するのが尖閣諸島をめぐる対立であり、日中の船舶が日々小競り合いを繰り広げている。

 (2)自らの外交政策を追求するため、安倍首相は特に東南アジア諸国との外交・経済的、軍事的関係強化に努めてきた。
 〈例〉東南アジアの小国が中国海軍に対抗できるようにという半ば公然の意図を持って、大型の近代的な船舶を提供した。
 この政策は、同様の軍事的封じ込め政策を支持する米国政府の意向に沿ったものだ。だが、中国政府からは「他国のことに口出し」せず、領有権を持たない南シナ海の問題への介入を止めるよう、繰り返し警告されている。

 (3)6月末にロドリゴ・ドゥテルテ氏がフィリピンの新大統領に就任してすぐ、安倍首相の政策に大きな課題があることが露呈した。
 東南アジア諸国の中でフィリピンは安倍氏の戦略上最も重要な国であり、ベニグノ・アキノ3世・前大統領は熱心なパートナーだった。
 一方、ドゥテルテ新大統領は強権的であり、かねてから麻薬密売人を殺害する自警団とのつながりが指摘されていた。
 大統領就任以降、ドゥテルテ大統領は麻薬密売の容疑者だけでなく、一般の麻薬使用者に対しても死刑を執行する麻薬撲滅運動に乗り出した。裁判も明確な罪状認定も不要どころか、氏は警察の関与さえ不要と宣言し、一般市民にまで麻薬使用者を処刑するよう呼びかけている。単なる脅しではなく、すでに数千人が殺害された。これは大量殺人だ。

 (4)日本政府は、ドゥテルテ大統領が批判に耳を傾けないことをわかっていて、大統領が超法規的に何千人もの自国民を殺害しても沈黙を保つだろう。
 そして安倍政権は、日本とフィリピンが中国の領有権主張に対し、ともに取り組むことの必要性を米国とともに訴え続けている。理由は、南シナ海における「法の支配」を守るためらしい。
 日本が本気で中国との「新冷戦」を戦うつもりであれば、米国が旧ソ連との冷戦で経験したのと同じやり方をとるだろう。つまり、力による対決だ。
 だが、安倍外交を根本から覆しかねないのは、ドゥテルテ大統領が先日、訪中した際に南シナ海の領有権問題を棚上げし、米国よりも中国との関係を重視する姿勢を明確にしたことだ。同大統領は、中国の封じ込めを支持する前任者の政策を捨て、隣国中国との友好関係を結ぶつもりのようだ。
 ドゥテルテ大統領の外交政策は、2009年に鳩山由紀夫・元首相が唱えた「東アジア共同体」構想と似ていなくもない。同大統領は、中国と対立するのではなく、建設的な関係を築くことこそが進むべき道と見なしているのだ。
 この路線は、安倍政権の路線と異なる。どちらを選択するか、日本に問われている。

□マイケル・ペン「安倍外交を根本から覆すドゥテルテの中国重視路線 ~ペンと剣 26~」(「週刊金曜日」2016年11月4日号)
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