語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【片山善博】「東京大改革」とは何か ~小池知事への疑問~

2017年03月22日 | ●片山善博
 (1)小池百合子・都知事の快進撃が止まらない。先の東京都千代田区選挙では、知事が推す候補者が圧勝した。
 ただ、知事経験者としては、小池知事の力の入れように強い違和感を覚えた。片山教授が知事を務めていた頃の鳥取県でも、市町村長の選挙で是非当選してほしいと願う候補者もいたし、もう他の人に替わった方がいいと思われる現職候補者もいないではなかった。ただ、そうした選挙の際に特定の候補に強く肩入れをすることは避けていた(距離を置いていた)。
 〈理由1〉・・・・市町村長を誰にするかは、その市町村の住民が決めることであって、そこに知事が介入するべきではないと考えるから。県は市町村に対して大きな影響力を持つ。その県の代表である知事が、特定の候補を強く推すということは、その候補が当選すれば県から財政支援などの便宜を取りはからってもらえると、住民が期待しても不思議ではない。
 逆に、他の候補が当選すれば、県から邪険にされて自治体運営に支障が生じるのではないかと心配する住民もいるだろう。
 そうした期待や心配に影響されて、住民の投票行動に歪みが生じることになるとすれば、それは地方自治の理念に反することになる。
 〈理由2〉・・・・現実問題として、時間的にも精神的にもそんなことに関わっている余裕がなかったから。県政には課題が山ほどもあり、それらに真摯に向き合っていると、市町村の選挙に関与する気など起こらなかったのだ。

 (2)全国で人口が最小の鳥取県において(1)のごとくであった。まして、東京都は人口が47都道府県の中で最大であり、しかも23の特別区がある旧東京市の区域では大都市の市長の仕事もこなさなければならない。知事が自分の仕事に打ち込んでいれば、とてもではないが、市区町村長の選挙に入れ込む暇などないように思える。

 (3)ところが、日々の報道を見る限り、このところの小池知事の最大の関心事は、どうやら今夏予定されている都議会議員選挙にあるらしい。政治塾を開いて人材を募ったり、現職の都会議員を抱き込んだりしてその準備に余念がない。
 新党を立ち上げるとの噂も聞かれるが、その有無にかかわらず選挙準備に要する労力と時間は尋常ではないはずだ。他の都道府県知事でさえ二足の草鞋を履いて務まるものではないのに、いわんや都知事においてをや。都政をなめているとまで言うつもりはないが、必ずしも身が入っていないのではないかと懸念せざるを得ない。

 (4)小池知事に近いと言われる人物に懸念を伝えると、知事は「東京大改革」を成し遂げようとしていて、そのためには都議会をがらりと変えなければならないと解説してくれる。
 そういえば、都議会公明党がこれまで蜜月関係にあった都議会自民党と袂を分かって小池知事にすり寄った時、知事は「東京大改革に向かって一緒に歩けるのは大変心強い」と述べ、都議選で選挙協力する意向を明らかにしたと報じられた。
 この「東京大改革」は巷で頗る評判がいい。年が明けて何度か都内で講演に出向く機会があったが、その折に「皆さんは、小池知事の東京大改革に賛成か、反対か」と問うと、賛成の人が圧倒的に多い。
 ただ、その後で「では、東京大改革とはどんなことか、ご存知の方は?」と尋ねると、不思議なことに手を挙げる人は誰もいない。
 実は、「東京大改革」は政治的スローガンとしては浸透しているが、内容についてはほとんど理解されていない。その点では、かつて熱狂的に支持された小泉純一郎・元総理の「構造改革」によく似ている。

 (5)では、「東京大改革」とは何か。知事の発言や側近の著書によれば、それは都政の透明化であるに違いない。徹底した情報公開であり、それによって都の行財政改革を推し進めることであるはずだ。
 それなら片山教授も大賛成だ。従来の都政に最も欠けていたのが透明性であるからだ。そこから都庁と都議会との癒着が生まれていたのだし、五輪関係経費の杜撰な予算見積もりにもつながっていた。

 (6)ただ、いくら「東京大改革」を錦の御旗にしても、それを知事が都議選にのめり込む理由にはできない。都の情報公開は都議会の構成とは直接関係がなく、知事が都庁の体質を変えられるかどうかが問われる問題だからだ。これまで都庁の情報公開の水準は、全国でも最低レベルだった。それを正すのは知事の仕事で、知事がその気になりさえすれば、自身の力で大きく改善できる。
 既に、かつて「ノリ弁」と言われて黒々と塗りつぶされた書類しか公開しなかった都の悪弊は小池知事のもとでかなり改善された。
 ただ、まだまだ物足りない。この際取り組んでほしいのが予算編成過程の透明化である。予算の各項目の過程で誰が決めたのかを明らかにするのである。鳥取県では片山教授が知事を務めていた頃から既にそれを県のホームページで公開している。

 (7)予算編成過程の情報公開では、小池知事自身の振る舞いで気になることがある。知事は前知事の時代まであった200億円の「政党復活枠」を廃止した。都議会自民党などが持っていた事実上の予算配分権を取り戻したのである。それは正しい選択だった。
 その上で、知事は業界団体を都庁に呼び寄せ、予算要望の公開ヒアリングを行った。知事はこれを「見える化」だと胸を張っていたが、それは単なる「見せる化」であって、「見える化」ではない。この場合の「見える化」とは、それらの要望の処理過程を明らかにすることだからだ。
 報道によれば、知事は去る1月23日、ヒアリング対策の業界団体に対し要望に係る予算の査定結果を伝えたという。マスコミを通じて予算案が都民に公表される2日前に、既に業界団体にはこっそり知らせていたのである。それは、従来都議会自民党などが行っていたのと同じことを、今度は小池知事がそれにとって代わってやっているようにも見える。

 (8)この見解を(4)の知事に近い人物に指摘したところ、「そうは言っても、要望されたことの結果を予算発表で突然知らせると、戸惑ったり、齟齬があっても困るので」という説明だった。
 ならば、こんなことも考えてもらいたい。世の中には声の大きい人もいれば、声の小さい人もいる。声を上げられない人だっている。そんな中で、知事に要望を聞いてもらう機会を与えられたのはごく一握りの、おそらくは力が強かったり、声が大きかったりする人たちである。その人たちは、意見を聴いてもらえただけでなく、懇切に事前にインサイダー情報を教えてもらっている。
 一方、知事に会うことすらできない人たちは、せいぜい都庁に要望書を提出するぐらいしか術がない。そんな人たちには事前どころか何の連絡もない。新聞で予算発表を見て、要望した予算がつかないことに落胆し、諦めるほかない。声の大きい人たちには丁寧に対応するが、声の小さい人たちはぞんざいに扱う。これでは「都民ファースト」ではなく、「業界ファースト」ではないか。
 片山教授は、情報公開のあり方もさることながら、知事の政治姿勢にも疑問を感じている。

 (9)ことほど左様に、都政には知事自身のことも含めて改革する課題はたくさんある。
 小池知事には自身が取り組むべき課題に全力であたるべきであって、とても人の選挙にちょっかいをかけている場合ではないように思われる。

□片山善博(慶應義塾大学教授)「『東京大改革』とは何か--小池知事への疑問 ~日本を診る第89回~」(「世界」2017年4月号)
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