語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~

2013年04月22日 | 社会
 (1)TPPの影響に関する政府統一試算(3月15日公表)によれば、農業生産額は現状8兆円程度から3兆円マイナス、カロリー自給率は40%から27%に下がる。
 少し前の農水省の試算によれば、4.5兆円減、自給率は13%に下がる。こちらのほうがリアリティがある。
 政府は「強い農業」つまり輸出を強調するが、自給率13~27%の国が輸出を云々して何になる。

 (2)関税を引き下げる代わりに内外価格差相当分を直接支払いや不足払いでカバーして国(域)内農業を守るのが先進国農政の鉄則となっている。その覚悟が日本政府にあるのか。
 農業生産額に対する農業予算の割合は、米・独・韓が601%前後であるのに対し、日本はその半分だ。関税率も、平均すればEU並みに低い。

 (3)TPPがなくとも、日本農業は危機に瀬している。
 農業をふだんの仕事とする基幹的農業従事者の30%が60代、46%が70代以上なのだ。10年以内に70代以上がリタイアしたら、半減してしまう。「限界集落」(人口の5割以上が高齢者)に倣っていえば「限界農業」だ。 
 ほんとうに問われているのは、日本農業の持続的可能性だ。

 (4)世間で考えるよりはるかに規模拡大がスピードアップしている。大規模経営が増えている。ただし、日本的な意味での大規模経営であって、桁が違う米豪農業に素手で立ち向かえるわけではない。
 そもそも、日本農業は集落を基盤に成立している。1集落平均は30ha程度だ。それを超える規模拡大は集落をのみ込んでしまう。
 集落に農家が定住し、農地を耕作することで、国土・環境・景観といった多面的機能が維持されてきた。この「緑の防人」がいなくなったら、日本の国土は滅びる。安部首相のいわゆる「涙が出るほど美しい棚田の風景」を守るのは、高齢農家や兼業農家なのだ。
 広い面積を使う土地利用型農業(米・麦・大豆等)は「規模の経済」が働くから、規模拡大が必要だ。
 国民負担を減らすには低コスト化が必須だが、問題はその方法だ。個別の規模拡大が進むこと自体は望ましい。しかし、その結果、地域の農家がみんな農地を預けてサヨナラしたら、農業集落が維持できなくなる。日本農業は、水利など地域ぐるみのメンテナンスが不可欠で、少数の担い手農業者だけでは担いきれない。挙げ句の果て、農業の多面的機能も失われてしまう。
 個別規模拡大路線は、そういうディレンマを抱えている。

 (5)1990年代頃から自然発生的に取り組まれ出した農家の知恵が集落営農だ。その法人化も進んでいる。
 集落の皆が、年齢や持ち味に応じて、相対的若手が機械オペレーターを、相対的高齢者が水・畦畔管理を担当し、専門の農家や女性・高齢者が集落営農の農地の一角で園芸作に取り組む。
 こうすれば規模拡大は果たせるし、個別の規模拡大に伴う耕地分散も回避できるし、地域資源管理も可能になり、国土保全も果たせる。
 ただし、規模拡大が有効なのは平場の土地利用型農業が主で、有機農業、園芸作、中山間地域農業の処方箋にはならない。
 園芸作については、より新鮮・安全で、美味しくて栄養価があり、健康な家畜や旬の農産物を作る必要がある。中山間地の多品種少量生産物を売りさばくには、都市マーケッティングが必要だ。

 (6)いずれにせよ、高齢化は進行する。日本農業の持続可能性の最大の課題は「ひと」の確保だ。定年世代の「帰農」体制作り、若い新規就農者支援など。
 いずれにしても、一戸一戸の農家が後継者を確保できる時代ではない。例えば、集落営農の集落が、集落で一人、地域で一人の後継者を確保する時代だ。
 こうした手を打てば限界農業化は防げる。そのためにもTPPは避けなければならない。
 20世紀は農産物過剰の時代だった。しかし、21世紀に入り、世界の穀物在庫は食糧農業機関(FAO)基準の下限17~18%すれすれになっている。不足の世紀への転換だ。その今、日本に農業がなくてもよいのか。

□田代洋一(大妻女子大学社会情報学部教授)「問われているのは農業の持続可能性 ~限界農業化の危機~」(「週刊金曜日」2013年4月12日号)

 【参考】
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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