語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか

2015年01月08日 | 批評・思想
●nikkei BPnet

 ピケティの主張を一言で結論すると、「現在は『第2のベルエポック』に入っている」。
 ピケティの功績の一つは、過去200年以上の期間について欧米の膨大なデータを分析し、ベルエポックにおける所得と富の集中、分配の不平等を統計的に跡付けたことだ。そのうえで、現代、とくに1980年以降の欧米は「第2のベルエポック」に入っていると指摘している。
 最大の特徴であるデータ分析については、英米の経済学者の協力を得ながら、所得と富の分配関連のデータを税務統計から導き出した。ピケティは膨大な税務統計を集めて、それを加工・分析し、200年というスケールで具体的な数値を大量に用いてに不平等の実態を明らかにした。
 さまざまなデータ分析のなかでも目を見張るポイントは、所得格差と富の集中の拡大と縮小、そして再拡大という流れを100~200年の時間軸で実証的に追いかけたことだ。ベルエポックで広がった所得と資産の格差は、第一次世界大戦から1970年代までの間に縮小する。しかし、1980年以降、これら格差は再び拡大して100年前の状態に近づいている、という。
 また、ピケティは分配の不平等度を所得階層別、資産階層別の比率で誰にもすぐ分かる形で表示している【注】。
 資本対所得比が上昇しているということは、蓄積された資本が投資などでうまく回れば、資本所得(企業収益、配当、賃貸料、利息、資産売却益など)が増えるということを意味する。つまり、富を持つ者はそれだけ大きな所得を得て、ますます豊かになっていく。
 ピケティは資本対所得比の上昇について、さらに経済理論的に深掘りして、資本主義の基本特性として、資本収益率(r)と経済成長率(g)の乖離を実証的に明らかにしています。資本収益率とは、投下した資本がどれだけの利益を上げているかを示す。経済成長率はGDPがどれだけ増えているかだ。
 歴史的に見ると、戦後の一時期を除いて、資本収益率は経済成長率を上回っているというのがピケティの注目すべき指摘だ。つまり、「r>g」という不等式が基本的に成り立つということだ。
 gの増加は中間層や貧困層を含めた国民全体を潤しますが、rの増加は富裕層に恩恵が集中します。gよりもrが大きい期間が長くなればなるほど、貧富の格差は広がり、富が集中化していく。これがベルエポックと「第2のベルエポック」における格差拡大の真相ということになる。
 その意味で、rとgが逆転した1914~70年の約60年は画期的だった。戦後の人口増加や雇用増に直結する技術革新によりgが上昇したことで、不平等が是正されていった。とりわけ第2次世界大戦後の30年間は「栄光の30年」だったと言える。
 では、どうして1980年代に「栄光の30年」は終わりを迎え、現在は再び資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回るようになったのか。その一因として、ピケティはロボットやITの活用を挙げている。
 そのうえでピケティは、世襲の復活について警鐘を鳴らしている。「第2のベルエポック」で大きな資産を築いた富裕層がその資産を子孫に継承することで、100年ぶりに世襲による階級が復活しつつある。しかもそれは、巧妙かつ目に見えない形で進行している、と謂う。
 ピケティはそうした格差の固定化、さらに拡大を防ぐために、グローバル累進課税という制度を提言している。まず、一種の富裕税をグローバルに創設して、年0.3%から最大で10%を資本に課税する。つぎに、年間所得50万ドル(5,000万円)以上に対して、80%程度の税金(限界税率)をグローバルに取り立てる、というものだ。
 しかし、このグローバル累進課税構想は米国の保守派を刺激した。「ピケティはマルキストだ」といった批判がわき起こっているのだ。事実は、ピケティはフランス社会党のシンパではあるが、決してマルキストではない。
 一方で、「所得を創出するのはそもそも資本ではないのか。累進課税でその資本を封じ込めたら元も子もない」という批判もある。いまのところ、英国のエコノミスト誌をはじめ、この批判がもっとも多く、そして説得力のあるものとなっている。
 このように、ピケティにはいかにも社会党シンパらしいイデオロギーの臭いがしないこともないが、データに基づいたファクト・ファインディングについては率直に評価するべきだし、先進国を中心に世界で、いま所得と富の格差が拡がっている「21世紀的現実」に注視は怠れない。
 ピケティの主張・提言を引き続き検証しながら、政治的な分配問題を含めた議論を活発にしていくことが、21世紀の「政治経済学(political economy)」に課せられる最大のテーマになっていくはずだ。

 【注】具体的に見ると、米国の上位10%の所得階層が国全体の所得に占める割合は、1910年には約50%だった。その比率は次第に減少し、第二次世界大戦後は30%程度にまで下がる。ところが2010年には、再び50%ほどへと大きく上昇している。
 富の不平等についてはどうか。1910年には、上位10%の富裕層が国全体の富の80%を占めていた。大戦後にその比率は60%程度にまで減少するが、2010年には再び上昇して70%近くになっている。
 こうした不平等拡大の背景には、資本対所得比の上昇がある。これは、国内総生産(GDP)に対して国民全体が持っている資本蓄積(総資産)の割合だ。1910年には、資本対所得比は約700%の高い水準だった。それが戦後、戦災による設備や家屋、インフラの損耗などもあり、200%程度にまで下がる。それが2010年には500~600%へと増加しているのだ。

□齋藤精一郎「ピケティ『21世紀の資本論』はなぜ論争を呼んでいるのか ~世界経済の行方、日本の復活~」(nikkei BPnet 2014年5月20日)

   *

●BLOGOS

(1)我が国の格差拡大の問題
 略。

(2)ピケティ教授の格差の分析
 略。

(3)格差是正のための政策のあり方
 ピケティは、「資本・所得倍数(ストックである資本をフローの所得で割った比率)が上昇して資本主義が先鋭化しても、それ以上に経済全体のパイが成長すれば労働者は報われるはずである」という考えに対して、データを示して、資産保有者と労働者の所得格差がますます拡がっていることを解明した。
 また、資本に対する税制が低下する一方で、経済成長率が低下していることも格差拡大を誘導していることを指摘している。とくにITの発達で労働者の「生産財」として相対的価値が低下し、一方で資本収益率が守られる優遇措置により、現代資本主義は宿命的に格差を生み出す構図にあることを明らかにした。
 この格差拡大を防止するためには、政府が積極的に市場をコントロールする必要がある。ピケティは、資産や高額所得に対する累進課税、あるいは資産格差の是正という視点から、相続への重い課税などを提唱しているが、我が国としても、これまでの所得再分配政策や雇用政策を検証しながら、ピケティの提言について具体化に検討すべきだ。
 今日、我が国の政府・与党は法人税減税の方針を打ち出し、また租税特別措置法の維持、株式や投信など個人の資産運用への優遇措置など講じているが、企業や資産家の資産増大に大きく寄与するだけに、このような政策のあり方についても格差の視点から再検討していく必要がある。
 我が国においては、近年、労働分配率が低下し続け、労働者の賃金水準は低迷したままで、ワーキング・プアも増加している。その結果、生活することが困難な労働者が増え、消費の低迷が続き、経済全体の足を引っ張っている状況にある。いまこそ、給与水準と最低賃金の水準を引き上げ、また非正規雇用労働者については、「同一価値労働・同一賃金」を保障する制度設計をしていく必要がある。
 ピケティの分析と提言を念頭に、格差の拡大・格差の固定化を防止する視点からも、まずは労働・雇用政策の抜本的見直しをはかっていかなければならない。

□加藤敏幸「トマ・ピケティの『21世紀の資本』の読み方」(BLOGOS 2014年12月08日)

   *

●WEBRONZA

 本書は経済格差について何を語っていないか・・・・この点にこそこの本の特徴がある。

(1)技術を持つ熟練労働者と技術を持たない未熟練労働者の賃金格差
 これについて、本書は何も語っていない。「労働者の賃金がその限界生産性に依存し、技術を持った生産性の高い労働者の賃金は未熟練労働者の賃金より高い、という理論はそもそもナイーブすぎる」。さらに、「人的資本という概念は幻想である」とまで言っている。ピケティは労働者間の賃金格差には全く関心がないらしい。
 本書から日本の正規と非正規の労働者間の格差について、何か知見を得ようとか、解決のヒントを探そうと考えている人は、この本に失望するだろう。

(2)企業経営者の報酬が天井知らずの上昇を見せているという近年の現象
 これについて、語っているけれども、本書の主題ではない。歩書の主題はあくまで持つ者と持たざる者の格差、富の所有の格差である。
 もっとも、(2)について語ったことが、本書のアメリカにおける大成功の大きな要因であった。

 <この経営者報酬の天井知らずの上昇、という現象を説明するピケティの仮説は「1980年代に始まる所得税の限界税率の低下」である。だが、それで十分な説明になっているのだろうか?
 ピケティのこの本に対し、おそらく最も好意的な書評を書いたポール・クルーグマンですら、その書評の中で「(富裕層の税負担の低下が報酬を稼ぐエリート層を大胆にさせた)というピケティの診断は、彼の富の分配と富への報酬に対する分析と比べて、厳密さや普遍性を欠いている。規制緩和を分析の枠組みに組み込み損ねていることには失望する」と述べている。>
 <ピケティ自身が認めているように、例えば現代のアメリカで資本所得を主な収入として生活する富裕層は人口の僅か0.1%に過ぎない。大恐慌の直前には1%の有閑階級が存在した。><今日では、富裕層1%のうちの0.9%は労働報酬で生活しているスーパーマネジャーである。有閑階級は実質的に消滅している。>
 <そうであれば経済格差を語るのに「資本所得対労働所得」というに二項対立だけで説明するのは不十分ではないだろうか?>

(3)所得や資産の格差で生じる社会階層はどの程度固定的なのか・・・・ピケティは労働者間の所得格差について関心がないので、社会階層の固定性・流動性の問題もこの本の射程外である。

□吉松崇「トマ・ピケティトマ・ピケティ『21世紀の資本』をどう読むか? そこに書かれていないものは何か」(WEBRONZA 2015年01月01日)

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●朝日新聞

(前略)
 本書の分析結果が国際的に敬意を払われているのは、ピケティが、「分配論」(第3部)の科学的基礎として「資本蓄積論」(第2部)を、詳細な実証分析に基づいて展開しているからだ。格差拡大傾向の指摘だけなら、本書がここまで影響力をもつことはなかったであろう。(中略)
 しかし、資本蓄積は別の問題を引き起こす。格差の拡大だ。ピケティの功績の一つは、歴史上ほぼすべての時期で「資本収益率(r)」>「経済成長率(g)」が成立していることを明らかにした点にある。これは、資本の所有者に富を集中させるメカニズムが働いていたということだ。(中略)
 資本蓄積が高水準に達し、しかも低経済成長レジームに入った21世紀では、新たに付け加えられる富よりも、すでに蓄積された富の影響力が相対的に強まる。これは、「r>g」による格差拡大メカニズムをいっそう増幅させる。ピケティは1980年以降、国民所得に占める相続と贈与の価値比率が増加に転じたことを確認、相続による社会階層の固定化に警告を発する。
 だが「r>g」は、20世紀がそうだったように、資本主義に不可避的な経済法則ではない。特に国家による資本(所得)課税のあり方は、資本収益率に決定的な影響を及ぼす。1980年以降、グローバル化で各国間の租税(引き下げ)競争が強まり、資本課税は弱体化してしまったが、ピケティは、国際協調に基づく「グローバル資本税(富裕税)」の導入が不可欠だと強調する。これは、個人が国境を超えて保有する純資産総計への課税だ。その実現は、夢物語ではない。OECDで租税情報の国際的自動交換システムの構築が進展しているからだ。
 こうした課税システムは、経済と金融の透明性を向上させ、資本の民主的統制を可能にする。21世紀をどのような世界にするかは結局、市場と国家に関する我々の選択にかかっている。その意味で本書は、格差拡大に関する「運命の書」ではなく、資本主義の民主的制御へ向けた「希望の書」だといえよう。

□諸富徹(京都大学教授・経済学)「(書評)『21世紀の資本』 トマ・ピケティ〈著〉」(朝日新聞デジタル 2014年12月21日)から一部引用
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 【参考】
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

   
   

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