語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】【加計学園疑惑】沈黙していた政官双方から異論 ~加計学園問題が招く想定外反応~

2017年06月04日 | 社会
 (1)終盤に入って安倍晋三・首相が守りに回る場面が目立つ。学校法人加計学園の獣医学部新設をめぐる安倍によるトップダウンの決定に「異議申し立て」が続くからだ【注】。
 加計孝太郎・加計学園理事長とは安倍自身が「腹心の友」と呼ぶ間柄。その加計が目指していた獣医学部新設(於愛媛県)が52年ぶりに認められた。「李下に冠を正さず」の故事を引用するまでもなく、安倍に不信の目が向けられても仕方がない。
 むろん、安倍は繰り返し反論する。「いずれのプロセスも関係法令に基づき適切に実施しており、圧力が働いたことあ一切ない」うんぬん、グチグチ。

 (2)ところが、実際に決定プロセスに関わった当事者である前川喜平・全文部科学事務次官が記者会見をして首相官邸に叛旗を翻した。
 「薄弱な根拠で行政の在り方がゆがめられた」
 発端は5月17日付け「朝日新聞」朝刊が報じた「大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」と題する8枚の文科省の内部文書だ。文書の1枚目は次のような記述で始まる。
 「設定の時期については、今治市の区域指定時より『最短距離で規制改革』を前提としたプロセスを踏んでいる状況であり、これは総理のご意向だと聞いている」
 この「総理のご意向」の真偽が獣医学部新設問題の核心だ。
 この文書について、前川は繰り返し「本物」と強調した。対して菅義偉・官房長官は「怪文書」と決めつけ、文科省の調査では「確認できなかった」と松野博一・文科相は及び腰の対応をした。
 安倍1強の「政と官」の関係でいえば、初の官の反乱といえる。

 (3)5月30日には、和泉洋人・首相補佐官から学部新設を急ぐよう求められたことを明らかにした。
 「総理は自分の口から言えないから、私が代わりに言う」
 前川は連日のようにメディアを使い分けながら、加計学園問題の“告発”を続ける。5月31日の共同通信のインタビューでは政治の機微に触れる問題にも言及した。
 「昨年9月に入ってから内閣府の姿勢が強硬になった」
 2016年9月といえば、内閣改造で地方創生担当相が石破茂から現職の山本幸三にバトンタッチされた直後だ。
 石破は、獣医学部新設について「獣医師の需要動向の考慮」など、いわゆる「石破4条件」を提示し、高いハードルを設けていた。

 (4)石破と衆院初当選同期で、かつて同じ旧竹下派に籍を置いた北村直人・日本獣医師政治連盟委員長も前川が本物と断じた文科省文書に登場する。日付は2016年10月19日。文科省職員の聞き取り調査の記録と目されるが、北村の発言が残る。
 「4条件がきちんと守られるようウォッチする。(新設の)お金がどうなるかを心配している」
 北村はメディアの取材に対して、2007年に初めて加計と都内の料亭で会ったことを認めている。その際、加計に親しい政治家の名前を尋ねたところ、即座に「安倍晋三」と答えた、と語っている。
 安倍は当時、第1次政権を担う首相だった。北村が聞いた資金計画に対して加計は、「20億円から30億円」と答え、北村は「500億円ぐらい掛かる」とアドバイスした、という。
 北村は、「要請というよりは挨拶に来ることに意味があったのではないか」と振り返る。
 こうした動きを意識しているのだろう。安倍は、参院本会議の答弁の中で強い口調で言い切った。「岩盤規制にドリルで穴をあけるため抵抗勢力に屈することはない」
 安倍はその後も「抵抗勢力」の言葉を繰りかえす。安倍は、前川を筆頭にした文科省と共通の立ち位置に石破もある、と思い込んでいる節がある。

 (5)前川が霞が関からの初めての「物言い」だとすれば、自民党議員で家計問題に声を上げたのも、石破派に属していた若狭勝・衆院議員だった。
 5月29日に自民党に進退伺いを提出した。その際の記者会見で家計問題に触れた。菅が、文科省文書を「出所不明」としていることにクレームをつけたのだった。
 「ごまかしだ。政治が劣化するという危惧を感じている」
 若狭は、小池百合子・東京都知事の側近中の側近。2016年の都知事選以来の菅と小池の不協和音は政界の常識だ。都議選告示を目前にして、若狭が仕掛けた菅への揺さぶりとみて間違いない。若狭はその後、自民党に離党届を出した。
 政治路線の違いで離党した自民党議員は、第2次安倍政権発足後では初。
 さらに、小池自身も地域政党「都民ファーストの会」の代表に就任。都議選を軸に自民党との全面対決の構えに入った。

 (6)森友、加計という二つの問題をきっかけに、沈黙を続けていた政官相応から異を唱える声が出始めた意味は小さくない。安倍も権力闘争を意味する「政局」を口にした。

 (7)こうした中、福田康夫・元首相も現政権に厳しい注文をつけた。公文書管理の運用に関する福田の憤りといっていい。
 福田は、2007年の「消えた年金記録」の反省から、首相に就任すると公文書管理法の制定を主導した。福田は、公文書管理について厳格な考えを貫く。
 「民主主義は国民に正しい情報を提供し、事実を伝えることが基本」
 しかし、防衛省による南スーダンのPKO派遣部隊の日報隠蔽に始まり、森友学園をめぐる国有地払い下げ問題での財務省による関係文書の破棄、そして加計学園問題での文科省文書など、公文書管理法の趣旨に逆行する事態に対する福田の危機意識の強さは尋常ではない。

 (8)今のところ、霞が関は通常国会閉幕後の幹部人事を控え、自民党内も内閣改造・党役員人事、加えて1年半以内には必ずある衆院選の公認権を差配する安倍の前に沈黙を守るが、不満のガスが溜まり始めているのは間違いない。
 この水泡が渦となるのかどうか。想定外の化学反応を起こすかもしれない。
  
 【注】加計学園疑惑
【加計学園疑惑】と官邸 ~「総理の意向」隠蔽か~
【加計学園疑惑】「忖度」ではなく首相の直接指示か ~首相主導の“官製談合”~
【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~

□後藤謙次「沈黙していた政官双方から異論/加計学園問題が招く想定外反応 ~永田町ライブ!No.342」(「週刊ダイヤモンド」2017年6月10日号)
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 【参考】
【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~
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【後藤謙次】北朝鮮、金正男氏殺害の深層 ~日本政府内に異なる二つの見方~
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