語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政経】竹中平蔵とアベノミクス ~ブラック国家ニッポン~

2013年10月19日 | 社会
 小沢一郎を国会に証人喚問すべきという声が高まっていた時期があったが、むしろ竹中平蔵を証人喚問すべきであった。小沢については個人のスキャンダルだが、竹中については政策のスキャンダル。だからこそ、国会に証人喚問すべきは小沢より竹中だった。あのとき竹中を証人喚問しておけば、その後に橋下徹が出てくることはなかった。【佐高】
 フリードリヒ・ハイエクのいわゆる「新自由主義」と、竹中ら「改革に憑かれた人々」の言う新自由主義はまったく違う。ハイエクは自由主義を徹底するためにあえて新自由主義と名づけた。竹中のはそうじゃない。本来、市場と権力は無縁のはずだ。権力が働かないようにするのが市場なのに、竹中は市場を権力のための道具にしてしまった。ハイエクは、経済学者が政治とかかわると政治家になるから、自分は政治とかかわらない、と宣言している。だから、宇沢弘文はけっして政府の審議会などには入らなかった。【高橋】
 米国では、ケネディ政権(1961~63年)のとき、経済学者がこぞって権力と結託した。サミュエルソンしかり、ソローしかり、トービンしかり。ノーベル賞級の学者が時の権力のために経済学を濫用した。その経済学者の弟子たちが連邦政府の権力をとっていった。竹中が真似たのは、まさにこうした経済学者だ。【高橋】
 竹中は経済学者にして言論人だが、不思議なことに彼の言論を支えるテキスト(理論)がない。ハイエクもミルトン・フリードマンもきちんと自分自身が書いたテキストを持っている。しかるに、竹中にはテキストがない。だから、竹中は日本のフリードマンではない。言論で勝負する人ではない。竹中が書いた文章を一生懸命読み込んでも、あまり意味がない。【佐々木】
 くるくる変わるからだ。【佐高】
 肩すかしだ。では、どうやって竹中の本質に迫るか。彼の行動を追っていくしかない。行動の軌跡をたどると、背後にあるものがはっきり見えてくる。【佐々木】
 竹中は政商ならぬ学商だ。竹中は、以前、田原総一朗に「郵政民営化には反対」だと述べていた。自分の信念とか理想とか、そういうものを持っていない人だ。【佐高】
 学者は理想を持っていて、それを実現するために政策を考えるのだが、竹中にそういう発想はない。【高橋】
 政治とかかわらない、ということは、私欲から離れる、ということだ。ところが、竹中からは私欲の話しか出てこない。パソナの会長に就任する話、フジタ未来経営研究所の理事長になる話、未公開株をもらう話、脱税、逃税の話・・・・。新潮ドキュメント賞受賞の佐々木実『市場と権力 ~「改革」に憑かれた経済学者の肖像~』が行っている批判の有効性は、その私欲の部分と竹中個人を結びつけた点だ。【佐高】

 ジャーナリズムは竹中の言葉を吟味する作業を放棄している。特に経済を語る際の語り口が、まるで空中浮遊しているように現実からかけ離れてしまっている。【佐々木】
 竹中とその周辺の人たちの人間関係の密度は、たぶん濃くないだろう。【佐高】
 信頼関係という点では、そうだ。【佐々木】

 アベノミクスも竹中の新自由主義と同じく、実態がはっきりしないものの集まりに見える。【佐高】
 アベノミクスにもテキストがない。マスコミ受け、世論受けのいい政策が並べられ、実行されている。第一の矢「大胆な金融政策」、第二の矢「機動的な財政政策」、第三の矢「民間投資を喚起する成長戦略」は、それぞれテキストから見るとバラバラ。対立しているような議論を強引に束ねているだけだ。【高橋】
 いま竹中が熱心に取り組んでいるのは国家戦略特区らしい。歯車がまわりだせば、新自由主義化の流れが決定的になる可能性がある。特区は、自治体の長との協調関係が重要なポイントになる。東京都には猪瀬直樹・知事がいるし、大阪市には勢いが衰えたとはいえ、まだ橋下徹・市長が牛耳っている。いずれも新自由主義的政策を支持するリーダーだから、竹中にとっては願ってもないカウンターパート。東京や大阪での大胆な規制緩和が突破口になってしまうかもしれない。【佐々木】
 特区と言えば良く聞こえるが、一般の国内法で禁じられていることを特例法を作って特別に企業にやらせる、ということだ。特区構想のなかには、営業活動を24時間フル稼働にする、という話が持ち上がっている。これは、エネルギー政策の観点からすれば、原発の稼働を前提としている。原発があるから、電気は24時間使ったほうが効率的になる。猪瀬知事は原発依存から脱却する、と述べているが、そのことと24時間の営業活動は矛盾する。【高橋】
 結局、新自由主義とは、偏自由主義のことだ。道州制構想があるが、この括りは電力の括りと同じだ。道州制は、効率を優先する。【佐高】
 ある意味で大型特区。【高橋】
 だから、道州制と、地方を大事にする、という議論とは一致しない。小泉、竹中の構造改革は地方では不評だった。地方では肌身に迫る話だった。【佐高】

 黒田東彦が日本銀行総裁に就いてから、日銀の景気判断が前のめりだ。日銀は実際に効果が出てくるまで景気判断を変えないものだ。ところが、今は実体経済に効果が波及していない段階で、日銀が「よくなった」と言う。兆しが出ているからといって、その先どうなるのか分からない段階で「よい」と判断するやり方は、これまでの日銀にはなかった。【高橋】
 一喜一憂をもたらす株価は、指標の一つにすぎない。【佐高】
 ケインズも言っているが、経済の実体とは無関係だ。単なる博打場で、だましあいの世界。【高橋】
 でも、それが経済の指標みたいになっている。【佐高】
 株価がいちばん操作しやすいし、動きやすい。【高橋】
 なるほど。実体経済を計るのは株価でなくて・・・・。【佐高】
 やはり雇用だ。働いている人にとって雇用が安定していて、自分の生活に心配がないような公共サービスが提供されている、というのが、経済にとってベストな状態だ。それをどうすれば作れるか、を考えるのが経済学で、実行するのが政治だった。【高橋】

 竹中には一般の人々の理解を超えるところがある。でも、そこは霧に包まれている。自分が派遣業の規制緩和をしておきながら、派遣業大手のパソナの会長におさまり、年収は1億円だとか。一般にはあり得ない話だ。【佐高】
 自分でルールを変えて、そこから発生する利益を吸い取ってしまうグループが米国にある。日本における「レント・シーキング」グループが竹中らの勢力だと見ることができる。ジャーナリズムは、高尚な経済論議だけはなく、そうした暗部にもメスを入れないといけない。【佐々木】
 何でも規制緩和して企業に任せればいい、というような風潮があるが、医療とか教育とか雇用とか金融は、市場に任せたらおかしくなる、というのが本来の経済学だ。公共投資も同じ。コスト・ペネフィット分析といって、マーケットの指標dわけで公共投資の効果を計ることはできない。文化的、社会的価値も考慮すべきだ。【高橋】
 郵政民営化もパブリックを消していった。南米は、規制緩和の実験場にされ、反米大陸になっていった。【佐高】
 日本は逆に、実験場にされているのに、親米列島になっていく。【高橋】
 日本の規制改革の歴史を紐解くと、1990年代に運輸省が需給調整規制撤廃に踏み切ったのが最初の大きな出来事だった。タクシー、バスの規制を緩くしていった。その結果、あまりにも規制を緩くしすぎて、タクシーの台数が増えた。運転手の賃金は一気に下がり、自己が増えた。問題が大きくなったため、与党が規制強化の法案を出すことになっている。そういう現実があるのに、まだ「規制=悪」という構図でしか語られないのは不自然きわまりない。実行に移された規制緩和の検証作業がまったく行われないまま、またぞろ「規制緩和」の大合唱が始まっている。【佐々木】
 自由競争の行き着く先は、独占だ。規制反対者は、自由化の先にある独占という大きな権益を目的にしている。そこにあるのは巨大な利権だ。【高橋】
 スティグリッツが重要なことを書いている。「規制とはシステムをよりよく機能させるために設計されたルールであり、具体的には競争を担保したり影響力の濫用を防いだり、自分で身を守れない人々を保護したりする」と。また、「企業に完全な自由裁量を与えるという動きは、富裕層の近視眼的な利益追求を反映している」とも。【佐々木】
 規制緩和を言う人は、独占禁止法も緩和しろ、とか言う。彼らは独占を狙っている。【佐高】 

□鼎談:佐々木実(ジャーナリスト)×高橋伸彰(立命館大学教授)×佐高信(評論家)「ブラック国家ニッポン 竹中平蔵とアベノミクス」(「週刊金曜日」2013年10月11日号)
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