語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中央アジア】田中哲二『キルギス大統領顧問日記 ~シルクロードの親日国で~』

2016年09月15日 | ノンフィクション
 
 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 毎日出版文化賞を受けた服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書、1972)と同じく、国際通貨基金(IMF)から派遣された日本銀行マンの回想録である。
 著者は、1993年、キルギス共和国国立銀行最高顧問として派遣され、後に大統領顧問となった。
 キルギス共和国は、旧ソ連解体後に独立した国で、中央アジア5か国の一つ。東部は中国と接し、他の三方はカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンと接する。面積は日本の半分、人口は460万人(当時。以下同じ)である。ちなみに、首都はビシュケク市で、人口は65万人である。
 経済力は東南アジア諸国連合(ASEAN)に及ばない、というのが着任第一印象であった。なにしろ、大統領の月給が80ドルなのだ。後に、キルギスは<政治、経済、軍事、国民福祉、外交機能等のすべてをワンセットで揃えた国になりうるだろうか><中央アジア諸国が緩やかな国家連合体としておのおのの特徴機能を生かして共生していくことだけに活路があるのではなかろうかと思う>と考察する。
 しかし、都市の基礎的インフラは整備され、教育水準は高く、芸術・スポーツの水準も高かった。はたして打てば響く人材と出会い、独立国に必要な財政上のシステムを次々に提案していく。こうした職務をはたす中で親日家を増やしていき、1995年には日本センターを開設して初代館長に就任した。日本語講座の修了生は著者離任時点で500人を数えた。また、キルギス人学生を日本へ送りこみ、帰国後も国立政策大学院大学客員教授として留学生の招聘に努め、手弁当で講義にでかけている。
 著者の奮闘はさわやかだが、発展途上にあるキルギスのお国柄やそこに生きる人々も魅力的だ。

□田中哲二『キルギス大統領顧問日記 ~シルクロードの親日国で~』(中公新書、2001)
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 ※参考
 
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【食】魚の養殖は進化する ~美味しい養殖魚~

2016年09月15日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)旬の天然の魚は間違いなく美味しい。ただ、天然モノは時期によって脂の乗り方など味に差が出てしまう。
 一方、養殖の魚は、年間を通して同じ味のレベルを維持できる。かつてイワシがたくさん獲れていた時代は、イワシばかりエサにしていたので、イワシの匂いがするマダイが市場に出たりした。
 しかし、今は栄養も豊富な配合飼料が生み出され、臭みなどなく、確実に美味しくなっている。マグロやマダイの品質は高く、ブランド化が進み、ほかにも生臭さを抑えた柑橘系の香りのするカンパチや、地元の特産品をエサにしたオリーブぶりなども生産されている。

 (2)近畿大学は、養殖の普及を長年目指してきた。
 「海を耕せ!」
 近畿大学初代総長は、第二次世界大戦が終わり、深刻な食糧不足に陥る状況を何とかしようと、養殖技術を研究する臨界研究所(現・水産研究所)を、和歌山県白浜町に開設した。
 1965年、世界で初めてヒラメの人工孵化による種苗(稚魚)生産を実現した。以来、ブリ、カンパチ、マサバなど実に18種類もの魚種を生産している。
 中でもマグロ全体の1.4%しか獲れず、「海のダイヤモンド」と呼ばれる高級魚・クロマグロは、32年もの歳月をかけて2002年に完全養殖に成功。「近大マグロ」として注目を浴び、様々なメディアが取り上げた。
 完全養殖とは、人工孵化におり稚魚を育て、成魚に成長させて親魚にし、再び産卵させるまでの全工程を行うことだ。生産は困難を極める。
 特にクロマグロは生産が難しい魚だ。百万個の卵から5cmほどの大きさに育つ割合は、
   マダイ・・・・60~70万尾
   クロマグロ・・・・3万尾程度
 そして、ヨコウと呼ばれる30cm程度の幼魚に成長するまでに、さらにその3分の1にまで減少する。
 仔稚魚期のエサも配合飼料ではなく、栄養価の高いイシダイの孵化仔魚を使っているのでコストもかかる。さらに、エサのイシダイは、マグロを育てる時期に合わせて養殖するので、産卵を制御するための水槽や温度管理も必要なのだ。
 決して赤字ではないが、利益率が高い魚ではない。それでも生産し続けるのは、日本の養殖文化や食文化を守るためでもある。

 (3)マグロの養殖は、日本のほか、スペイン、トルコ、オーストラリアなどで行われている。多くは天然マグロを捕らえて生け簀で育てる畜養だ。
 いま、世界的にマグロの乱獲が問題となり、漁獲枠が削減される中、完全養殖の需要が近年ますます高まっている。

 (4)他の魚種でもそうだ。
 <例>刺身でよく食べるカンパチ。
 養殖に使うカンパチは、種苗の輸入の9割を中国に依存している。中国が輸出しなくなったら、食べられなくなる可能性も出てくる。そのリスクを防ぐためにも日本で種苗を生産する必要がある。

 (5)どの魚を生産するかは、営業担当者が養殖業者のニーズを聞いて決めることもあるし、会議で「少なくてもいいからシロギスを作ってみよう」とか、思いついたことを形にすることもある。ちょっとした遊び感覚を近大は持っている。
 梅田と銀座に「近畿大学水産研究所」という、近大が生産した養殖魚だけを提供する店がある。両店舗とも2013年にオープンしたが、いまだに行列ができるほど繁盛している。養殖魚も美味しいという認識が、多くの人に広まりつつあるのではないか。 

□升間主計(近畿大学水産研究所長)「養殖魚の進化」(「文藝春秋」2016年10月号)
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