語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会保障】介護保険制度の「改革」 ~医療の代替策としての介護~

2012年09月19日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)一体改革大綱においては「医療・介護」と併記されて改革案が提示されている。これが象徴するように、「医療と介護の連携」の名のもとに、介護保険による医療の安上がり代替策が進められようとしている。

 (2)そもそも、介護保険制度創設の最大の目的は、高齢者医療費の抑制にあった。老人保健施設の給付や訪問看護などを、老人保健制度(当時)の給付から介護保険の給付に移すことによって。事実、介護保険制度施行以降、高齢者医療費は減少している。
 しかし、高齢化の進展で、高齢者医療費は再び増え続けたため、介護保険の財政構造をモデルにした後期高齢者医療制度が創設されるなど、さらなる高齢者医療費抑制策が進められてきた。
 そして近年、医療費抑制策によって必要な医療が受けられなくなった高齢者の受け皿として、介護保険の給付を再編していく方向が、また、これまで医療保険の給付でカバーしていた医療行為を介護保険の給付に移していく方向が、ますます顕著になっている。
 介護報酬は、医療保険の診療報酬に比べて安い。介護保険の給付には、医療保険と異なり給付上限額が存在するため、医療費抑制には効果的なのだ。介護保険が医療の安上がりな代替とされている。

 (3)事実、2012年4月1日施行の介護保険法改正に連動して行われた同日施行の社会福祉士及び介護福祉士法改正は、介護福祉士が行うことのできる医療行為が「たんの吸引、経管栄養等」に拡大された。しかも、「等」の内容は、省令で定めることができるため、法改正なしに、医療行為の内容・範囲が際限なく拡大されていく可能性がある。
 改正介護保険法で新設された定期巡回・随時対応型訪問介護看護においても、看護職の配置が手薄で、看護職不在のまま、介護職のみで医療ケアを行う事例が増える可能性がある。
 さらに、2012年の診療報酬と介護報酬の同時改定において、急性期・回復期をすぎた維持期リハビリテーションのうち、脳血管疾患等および運動器リハビリテーションについては、2014年4月以降は介護保険の給付に移行することとされた(ただし、介護サービスの充実が前提)。

 (4)介護保険の給付から、訪問介護の生活援助などの福祉的支援が外された。それらは地域の自治会やNPO法人などのボランティア的な活動に委ねられ、介護職は「介護」という名の医療行為を担う「介護保険の医療化」が政策的に志向されている。
 しかし、これでは、給付上限のため、必要な医療やリハビリテーションが制限されたり、医療職による適切な医療が受けられなくなる高齢者が続出することになる。
 しかも、介護職が合法的にできるようになった医療行為の中には、「気管カニョーレ」の吸引など、看護職でもリスクの高い医療行為が含まれている。介護職による医療過誤事故が頻発する可能性がある。

 (5)医療ケアの必要な要介護者が増えているから、介護報酬を引き上げ、医療職を適切に配置・増員すべきだ。しかし、それは介護保険料引き上げにつながる、というジレンマがある。
 介護保険のもとでは、「介護の社会化」が進んで施設や高齢者のサービス利用が増え、また、介護労働者の待遇改善、人員配置基準を手厚くして安心できる介護を保障するために介護報酬を引き上げると、給付費が増大し、介護保険料引き上げにつながる仕組みになっている。
 介護報酬単価引き上げは、利用者負担(1割)引き上げにもつながる。
 しかし、保険料引き上げには限界がある。現行の介護保険の第1号被保険者の保険料は、定額保険料を基本とし、低所得の高齢者ほど負担が重いうえに、月額15,000円以上の年金受給者からは年金天引きで保険料を徴収する仕組みなのだ(特別徴収)。
 しかも、介護保険の公費負担部分(5割)は、消費税特定財源となるので、給付費増大は、介護保険料引き上げのみならず、消費税増税に繋がる仕組みだ。

 (6)第5期(2012年4月~2015年3月)の介護保険料は、第1号被保険者の平均月額は、第4期の4,260円から、全国平均で月額4,972円と、19.5%の大幅アップとなった。介護報酬の1.2%引き上げと、65歳以上高齢者数の増加を反映して。
 改正介護保険法に、2012年度に限って都道府県が財政安定化基金の一部を取り崩し、保険料上昇の緩和に充てることができる特例規定が設けられた。この取り崩しと、市町村の介護給付費準備基金の取り崩しで、保険料軽減効果が月額244円あった、とされる。つまり、実際には、月額5,000円を超えていたわけだ。

 (7)介護保険が社会保険方式を維持するのであれば、現在の逆進性の強い保険料負担の仕組みを低率負担に修正するなど、被保険者の負担能力に応じた介護保険料に設定し、ある程度の保険料引き上げに対応できる仕組みにしないと、介護保険のジレンマは解決できない。
 しかも、第5期改定では、第1号被保険者の給付費に占める負担率が21%に引き上げられた(第2号被保険者の負担率は29%)。高齢者の保険料負担は、ますます増大している。
 介護保険料負担の増大、年金水準引き下げ、消費税増税のトリプル・パンチを食らって、高齢者の生活不安が増大していくのは間違いない。

 以上、伊藤周平「社会保障・税一体改革と生活保護制度改革」(「現代思想」2012年9月号)に拠る。

 【参考】
【社会保障】医療制度の「改革」 ~三党合意~
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