語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】福島原発事故による被害の概要

2012年09月03日 | 震災・原発事故
(1)原発事故対処要員
 原発事故対処要員の多くは、福島第一原発に勤務する従業員だ。チェルノブイリ級の超苛酷事故を防げなかった点で、周辺住民や国民全般に対する加害者としての側面を有するが、同時に、事故発生後の厳しい被曝労働を強いられている被害者でもある。
 殊に東京電力以外の機関・団体・企業に所属する要員や、福島原発事故以前に東電と契約関係がなかった事故対処要員については、加害者としての責任はない。東電関係者の中でも責任の濃淡の度合いに大きな差がある。大方の現場作業員にはほどんど責任がない。
 事故対処要員の多くは、毎日のように、高放射線レベルの環境の中で厳しい作業を続けている。その労働は苦役そのものだ。その多くは自発的に被曝労働に従事しているのではない。人間関係のしがらみにより不本意な被曝労働を強いられている者が少なくない。しかも、事故対処要員の多くは周辺住民であり、その意味で原発事故によって二重の被害を受けている(地震・津波の被害を受けた者は三重苦・四重苦の被害者だ)。

(2)周辺住民
 (a)地震・津波で不肖したり瓦礫に埋まった被害者のうち、迅速に現地で救助活動が行われていれば助かったかもしれない人々が犠牲になった。福島第一原発から半径20km圏内では、原発事故が原因で救助を受けられず(放射能汚染のため救助活動がほとんど行われず)、その結果落命した住民もいた。
 (b)十数万人にのぼる周辺住民に対して、長期にわたる強制的な避難行動・避難生活を強いた。半径20km圏内の市町村だけで78,000人が居住していた。避難行動・避難生活により落命した人々も少なくない。殊に高齢者や病者には酷だった。無事だった人々も、例外なく家族・住居・土地・職場・学校等の生活基盤を完全に失うか、大きく損なった。今後、たとえ放射能の追加的大量放出がなくても、避難住民の多くは数十年以上にわたり故郷に帰れない可能性が高い【注】。帰郷できるか否か、いつ帰郷できるかの見通しがまったく立たない中、多くの住民は宙づりのような精神状態を強いられている。若者の多くは、もはや帰郷するつもりはない、と言う。たとえ法令上の規制が解除されても、若者にとってさほど意味はないかもしれない。しかし、中高年者の多くはそうではない。
 (c)警戒区域や計画的避難区域など、政府が指示した地域の範囲外に居住する人々の中にも、自主的に避難した人々が多い。それぞれ苦渋の決断を下したのだろうが、東電や政府からほとんど保護・補償・支援を得られていない。
 (d)福島県の相当部分は、高濃度に汚染された。放射線管理区域(年間5mSvに相当)に匹敵する被曝線量の地域が、福島市・郡山市を含めて広範囲に広がっている。その住民の間で放射線被曝による健康リスクや、それを最小限にするための対策による生活上の不便が生じている。殊に子どもや妊婦にとって事態は深刻だ。生計を維持しつつ放射線被曝を避けるための家族離散が起きている。
 (e)福島県とその周辺地域の農畜産業者や水産業者が、農地や家畜を失い、生産物の出荷停止を強いられることによって大きな被害を受けている。いわゆる風評被害を含めて。

(3)東日本住民を含む広範囲な国民
 (a)東日本住民は、事故拡大リスクに直面した。同時多発的原子炉破局事故が起きれば、風向き次第では東日本一帯が高濃度汚染地域となった。厳重な放射線防護をしなければならず、さらには疎開の可能性をも検討しなければならなかった。殊に小さな子どもを抱えた家族にとって、これは真剣に考慮すべき問題だった。東日本では、昨年3月には放射線のみならず、計画停電や物資不足の問題なども重なっていた。学童の授業が行われない期間でもあったから、疎開はごく自然な選択肢だった。
 (b)東日本住民の食生活にも、放射能汚染による大きな影響が出た。3月には飲料水の摂取が首都圏の一部で制限された。また、福島県を中心とする東北・関東地方でとれた農産物、海産物、畜産物が放射能で汚染され、その安全性に係る懸念が高まった。
 (c)首都圏住民を含む関東地方全域の住民は、東電の「計画停電」によって大きな被害を受けた。病院など、停電による社会的影響の大きな施設も例外ではなかった。ただし、東京23区内は、北部の一部地域を除いて計画停電の対象外となった。3月14日から4月7日まで3週間以上にわたる住民生活への影響は甚大だった。
 (d)東電・東北電力管内の企業や住民が、昨夏、電力不足問題に直面した。両電力管内については、政府の電力使用制限令が7月1日から9月9日まで、実に38年ぶりに発動された。石油危機たけなわの1974年以来のことだ。他の電力会社、殊に原発依存度の高い関西電力・九州電力・四国電力については、原発の定期検査後の再稼働が困難な状況が生じたため、管内の電力不足の可能性が指摘されたが、結果的には重大な困難は生じなかった。
 (e)福島原発事故の収束・復旧と損害賠償に要する費用は、数十兆円に達すると見られ、可能な範囲での復旧までに要する歳月としては数十年以上が見込まれる。東電を会社清算し、資産を売却しても数兆円程度しか回収できない。株式、社債、融資について債権放棄させ、正味の資産をすべて売却しても、費用のごく一部しか返済できない。残り大半について数十年にわたる巨額の国民負担が発生するのは不可避だ。現在の青少年や今後生まれてくる人々にも、相当の負担義務が背負わされる。

 【注】除染活動が行われているが、効果は限定的だ。高濃度に汚染された地域の除染はお手上げだ。それ以外の地域については、表土を数cm剥ぎ取るという除染方法が、植生の乏しい平坦な土地では相当の効果がある。しかし、森林については樹木をすべて伐採してから表土を深く取り除くという困難な作業が待ち受けている(きわめて困難)。除染活動の中長期的な効果に係る楽観論に根拠はない。

 以上、注を含めて吉岡斉『脱原子力国家への道』(岩波書店、2012)の第2章「福島原発事故のあらまし」に拠る。
 
 【参考】
【原発】『脱原子力国家への道』
【原発】日本政府はなぜ脱原発に舵を切れないか ~日米原子力同盟~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする