(1)経済回復の行き詰まり
日本経済は、世界経済危機による輸出急減の打撃で、2008年4~6月期からマイナス成長に陥り、2009年1~3月期まで続いた。
その後、中国に対する輸出の増加や政府による購入支援策に支えられて、回復傾向に転じた。
しかし、この傾向は、2010年4~6月期にはすでに終わってしまった。
今後は、経済活動を下押しする要因が顕在化されてくる。
こういた状況変化は、日経平均株価にも表れている。
●実質GDPの対前期比成長率(年率換算):200910~12月期:4.1%、2010年1~3月期:4.4%、2010年4~6月期0.4%
●日経平均株価:2010年4月頃に11,000円超、以後下落
(2)経済回復の行き詰まりの原因
(ア)購入支援策の頭打ち
実質GDPの需要項目をみると、自動車・家電製品の購入支援策の効果が限界にきたことを示している。
(イ)中国への輸出の鈍化
2009年上半期に急激な伸びを示した中国への輸出が鈍化した。
背景・・・・ドルやユーロに対して円高が進行しているため、中国市場における日本の比重が低下し、ドイツなどのユーロ圏諸国の比重が上昇した。
(3)予測
今後は、いっそう円高の影響が加わるため、輸出の減少が続くだろう。
また、これまで自動車や家電製品の生産を支えてきた購入支援策が終了すれば、民間消費支出はマイナスに転じる可能性が高い。
これらのいずれもが、経済に大きなマイナスの影響をもたらす可能性がある。
(4)日本経済の構造的欠陥
近い将来の日本経済の状況を表すのに「踊り場」とか「二番底」といった景気循環上の表現が使われることが多い。確かに、今年初めまでの回復基調は、ここにきて変調した。
しかし、重要なのは、循環的な動きの変化ではない。日本経済が構造的に袋小路に入りこんで抜け出せないことである。
2010年4~6月期の日本の実質GDPは、危機前のピーク(2008年1~3月期)に比べると4.6%ほど低い水準だ。
アメリカで同じ期間を比べると、すでに99%の水準になっている。これからも、日本の遅れがよくわかる。
(5)経済政策の問題点
(ア)緊急対応策
2008年に日本の経済が落ちこんでから取られてきた経済政策は、(1)雇用調整金(過剰労働力を企業内に押さえこんで失業を顕在化させるのを防ぐ)、(2)自動車や家電製品の購入支援策・・・・であった。
これらは、いずれも短期的な緊急対応策にすぎない。日本経済の構造を改革するものではない。
これらの政策が行き詰まっている現在、経済政策の基本方向を大きく変える必要がある。
(イ)円高対応策
現在の世界経済の条件(特に先進諸国の金利が低下したこと)を考えると、為替介入をおこなったところで効果はない。
むしろ、損失が発生するだけの結果に終わるだろう【注】。
【注】スイス中央銀行は、ユーロ買い介入を積極的に実施したが、ユーロ安が進んだため、2010年1~6月期に1兆円を超える損失を被った。同行は、現在では為替介入を休止している(「超」整理日記No.526)。
(ウ)法人税減税
日本の法人税の実効税率が諸外国に比べて高いため、この引き下げが必要と論じられることが多い。
しかし、日本共産党の資料によると、エレクトニクスなど研究開発費が多い産業では、法人税の実効税率は10%台である。さらに、経済危機後は赤字が拡大したため、製造業では法人税を負担していない企業が多くなっている。損失は将来に繰り延べできるため、この状態は今後数年間は続くだろう。
したがって、法人税の税率を引き下げたところで、日本企業の状態にはなんの変化もないだろう。
(6)必要とされる政策 ~雇用の確保~
日本経済は、手術が必要であるにもかかわらず、放置し続けてきた。1990年代後半から、15年間も続いている。
外需に依存する産業は、今後は生産拠点を海外に移転することによって、対応しようとするだろう。これが進めば、日本国内の雇用に深刻な問題が生じる。
したがって、今必要とされる経済対策として必要なのは、第一に雇用の確保である。
介護分野の求人倍率は1を超えている。現在の日本において、大量の雇用を創出できるほぼ唯一の分野だ。
ここに人が集まらないのは、規制のために賃金が低く抑えられているからである。
だから、雇用を量的に確保するには、介護部門での規制緩和を図り、ここに大量の雇用機会をつくることが必要だ。
長期的にみた場合は、むろん、これだけでは十分ではない。先端金融など、生産性の高いサービス産業の成長環境を整えることが重要だ。
そのために必要なのは、高度な専門能力をもった人材の育成である。こうした政策の効果はすぐに表れるわけではない。しかし、日本経済の構造改革には、もっとも重要な戦略的手段だ。
これまでおこなわれてきた緊急避難的需要追加策から脱却し、こうした方向へ経済政策を転換することが必要だ。
【参考】野口悠紀雄「円高に金融政策は無効 産業構造の改革が必要 ~「超」整理日記No.527~」(「週刊ダイヤモンド」2010年9月11日号所収)
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日本経済は、世界経済危機による輸出急減の打撃で、2008年4~6月期からマイナス成長に陥り、2009年1~3月期まで続いた。
その後、中国に対する輸出の増加や政府による購入支援策に支えられて、回復傾向に転じた。
しかし、この傾向は、2010年4~6月期にはすでに終わってしまった。
今後は、経済活動を下押しする要因が顕在化されてくる。
こういた状況変化は、日経平均株価にも表れている。
●実質GDPの対前期比成長率(年率換算):200910~12月期:4.1%、2010年1~3月期:4.4%、2010年4~6月期0.4%
●日経平均株価:2010年4月頃に11,000円超、以後下落
(2)経済回復の行き詰まりの原因
(ア)購入支援策の頭打ち
実質GDPの需要項目をみると、自動車・家電製品の購入支援策の効果が限界にきたことを示している。
(イ)中国への輸出の鈍化
2009年上半期に急激な伸びを示した中国への輸出が鈍化した。
背景・・・・ドルやユーロに対して円高が進行しているため、中国市場における日本の比重が低下し、ドイツなどのユーロ圏諸国の比重が上昇した。
(3)予測
今後は、いっそう円高の影響が加わるため、輸出の減少が続くだろう。
また、これまで自動車や家電製品の生産を支えてきた購入支援策が終了すれば、民間消費支出はマイナスに転じる可能性が高い。
これらのいずれもが、経済に大きなマイナスの影響をもたらす可能性がある。
(4)日本経済の構造的欠陥
近い将来の日本経済の状況を表すのに「踊り場」とか「二番底」といった景気循環上の表現が使われることが多い。確かに、今年初めまでの回復基調は、ここにきて変調した。
しかし、重要なのは、循環的な動きの変化ではない。日本経済が構造的に袋小路に入りこんで抜け出せないことである。
2010年4~6月期の日本の実質GDPは、危機前のピーク(2008年1~3月期)に比べると4.6%ほど低い水準だ。
アメリカで同じ期間を比べると、すでに99%の水準になっている。これからも、日本の遅れがよくわかる。
(5)経済政策の問題点
(ア)緊急対応策
2008年に日本の経済が落ちこんでから取られてきた経済政策は、(1)雇用調整金(過剰労働力を企業内に押さえこんで失業を顕在化させるのを防ぐ)、(2)自動車や家電製品の購入支援策・・・・であった。
これらは、いずれも短期的な緊急対応策にすぎない。日本経済の構造を改革するものではない。
これらの政策が行き詰まっている現在、経済政策の基本方向を大きく変える必要がある。
(イ)円高対応策
現在の世界経済の条件(特に先進諸国の金利が低下したこと)を考えると、為替介入をおこなったところで効果はない。
むしろ、損失が発生するだけの結果に終わるだろう【注】。
【注】スイス中央銀行は、ユーロ買い介入を積極的に実施したが、ユーロ安が進んだため、2010年1~6月期に1兆円を超える損失を被った。同行は、現在では為替介入を休止している(「超」整理日記No.526)。
(ウ)法人税減税
日本の法人税の実効税率が諸外国に比べて高いため、この引き下げが必要と論じられることが多い。
しかし、日本共産党の資料によると、エレクトニクスなど研究開発費が多い産業では、法人税の実効税率は10%台である。さらに、経済危機後は赤字が拡大したため、製造業では法人税を負担していない企業が多くなっている。損失は将来に繰り延べできるため、この状態は今後数年間は続くだろう。
したがって、法人税の税率を引き下げたところで、日本企業の状態にはなんの変化もないだろう。
(6)必要とされる政策 ~雇用の確保~
日本経済は、手術が必要であるにもかかわらず、放置し続けてきた。1990年代後半から、15年間も続いている。
外需に依存する産業は、今後は生産拠点を海外に移転することによって、対応しようとするだろう。これが進めば、日本国内の雇用に深刻な問題が生じる。
したがって、今必要とされる経済対策として必要なのは、第一に雇用の確保である。
介護分野の求人倍率は1を超えている。現在の日本において、大量の雇用を創出できるほぼ唯一の分野だ。
ここに人が集まらないのは、規制のために賃金が低く抑えられているからである。
だから、雇用を量的に確保するには、介護部門での規制緩和を図り、ここに大量の雇用機会をつくることが必要だ。
長期的にみた場合は、むろん、これだけでは十分ではない。先端金融など、生産性の高いサービス産業の成長環境を整えることが重要だ。
そのために必要なのは、高度な専門能力をもった人材の育成である。こうした政策の効果はすぐに表れるわけではない。しかし、日本経済の構造改革には、もっとも重要な戦略的手段だ。
これまでおこなわれてきた緊急避難的需要追加策から脱却し、こうした方向へ経済政策を転換することが必要だ。
【参考】野口悠紀雄「円高に金融政策は無効 産業構造の改革が必要 ~「超」整理日記No.527~」(「週刊ダイヤモンド」2010年9月11日号所収)
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