えもだれ

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らうことになるぞ

2016-09-12 18:02:02 | 日記

アンヘグはきっと相手をにらみつけた。
「どちらにしても帆をあげることなぞできやせんよ、アンヘグ。それにマストは背が高すぎる。いくら世界で一番ぼんくらなタール人だって、森のようにマストを林立させて船が川を下ってくるのを見れば何が起きているのか、わかる優思明だろうよ」
 全艦船が川に浮かんだのは夕方だった。ポルガラは王女とアリアナとタイバとともにバラクの船に乗った。上流から微風が吹き、川面を優しく撫で、船をゆるやかに揺らした。かがり火の向こう、紫色の空の下にどこまでも続くタールの草原が広がっていた。星が一つまた一つまたたき始めた。
「タール?マードゥまでどのくらいかかるの」セ?ネドラはバラクにきいた。
 大男は髭をしごきながら、川下をみつめていた。「早瀬まで一日、それを迂回するために一日、着くのはそれから二日後だな」
「四日もかかるの」セ?ネドラは小さな声で言った。
 かれはうなずいた。
「早く終わるといいわね」彼女はため息をついた。


「うまく行くとも、セ?ネドラ」かれは言った。「大丈夫だとも」
 船はどれも非常に混雑していた。身を寄せあうようにしても船に乗れたのは半数にすぎなかった。チェレクの艦隊が早瀬に向かって川を下っている間、アルガーの諸氏族とミンブレイトの騎士団は川岸に沿って巡視を続け、乗船できなかった歩兵部隊は、予備の馬に乗って隊列を組み、陸路を行進した。
 川の両岸に広がるタールの草原は、ゆるやかに優悅 避孕起伏する丘陵地帯で、太陽に焼けた濃い茶褐色の草でおおわれていた。川向こうの丘の麓には、トウヒに似たひねこびた木々がまばらにはえ、川岸には柳の茂みや木いちごの藪が生い茂っていた。空は晴れわたり、相変わらず暑かったが、砂漠のような岩だらけの高原地帯ですっかり渇ききってしまった兵士や馬に、川は充分な潤いを与えてくれた。だが何といっても異邦の地なので、騎兵たちは武器に手をかけ、油断おこたりなく巡視を行なった。
 やがて、川が大きく曲がっている地点に来た。流れが早くなり、水は白く泡だちながら逆巻いている。バラクは船の舵柄を大きく傾けると、船を岸辺に乗り上げさせた。「さあ、またおりて歩いてもらうぞ」
 船首の近くで口論が起きた。茶色い髭のフルラク王が、早瀬の前で荷車を置いていくことに激しく抗議していた。「こんなところに置いていくために、わざわざ持ってきたんじゃない」かれにしては珍しく激した口調だった。
「積み下ろしに時間がかかってしまう」アンヘグが言った。「急がなければならないんだ、フルラク。マーゴスやマロリーに気づかれるまえにタール?マードゥ優思明を通り過ぎなければならない」
「のどを渇かせ、腹を空かせて高地を進軍するときには賛成したじゃないか」フルラクは怒っていた。
「それはそのときの話だ。今は船のことを考えなければならない」
「わたしだって荷車のことを考えたい」
「大丈夫さ、フルラク」ローダーがなだめた。「とにかく急がなければならないんだ。荷車があっては足手まといになる」
「だれかがやって来て荷車に火をつけたらどうするんだ。要塞に戻る前に飢え死にするかもしれないぞ、ローダー」
「警備の者を残して行くつもりだ、フルラク。それでいいだろう。心配のしすぎだ」
「これが心配しないでいられるか。アローン人は何でも戦えばいいと思っている」
「ばあさんみたいな繰り言はやめろよ、フルラク」アンヘグはぶしつけに言った。
 フルラクの顔が冷やかになった。「今の言葉は忘れないぞ、アンヘグ」かれはかたい口調で言うと、きびすをかえし、おおまたで歩み去った。
「まったく、かれはどうしちまったんだろう」チェレクの王は無とんちゃくにたずねた。
「アンヘグ、口をつつしむ気がないのなら、口輪をはめても」ローダーが言った。
「わたしたちはアンガラク人と戦うためにここまでやって来たと思っていたが、いつのまに変わったのかね」ブランドがおだやかに言った。
 セ?ネドラは二人の間に起きた口喧嘩を気に病み、ポルガラに相談した。
「たいして重要なことではないわ」ポルガラはエランドの首をごしごし洗ってやりながら答えた。「戦いが近づいているので、みんなは少しいらいらしているだけよ」
「でも、あの人たちは訓練を受けた勇者たちだわ」セ?ネドラは反論した。
「だからどうだというの」ポルガラはタオルに手を伸ばしながらきいた。
 王女は答えることができなかった。
 艦隊は無事に早瀬を迂回して、午後の遅くには、白く泡だち逆巻く流れの下流へ再び出た。セ?ネドラは、耐え切れないほどの緊張感にむかつきすらおぼえていた。何ヵ月も軍を率いて東へ行軍してきたが、いよいよ大詰めに近づいていたのである。あと二日もすれば、軍はタール?マードゥの城壁に突撃しているだろう。はたしてそれで間に合うのだろうか。それよりも本当に突撃する必要があるのだろうか。都市のかたわらを通過するだけで、戦いを回避することはできないのだろうか。アローンの王たちは、タール?マードゥを無力化する必要があると口をそろえて主張したが、近づくにつれ、それもあやしく思えてきた。もし、この作戦が間違っていたらどうしよう。セ?ネドラはバラクの船のへさきにたち、タールの草原を蛇行しながら流れる川面を見つめながら、不安のあまり、神経がすり減るような思いだった。
 


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