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“胎児” を手術する

2011-02-18 00:06:09 | 健康・病気

中枢神経系の奇形、二分脊椎(spina bifida)は
先天的な神経管閉鎖障害の一つ。
生まれる前に二分脊椎であると判明している胎児に対して
出生前に行われる手術の有効性が臨床試験で示された。

2月9日付 New York Times 電子版

Success of Spina Bifida Study Opens Fetal Surgery Door 二分脊椎臨床試験の成功が胎児手術のドアを開ける
By Pam Belluck

 胎児が発達し続けている間は医学的な異常もより修復されやすいのではないかとの考えから、これまで何年もの間、外科医は子宮内の胎児を手術する方策を見い出そうとしてきた。しかし、胎児と母親に対して多大なリスクがあることや一貫した成功例が記録されていないことから、胎児手術はそのほとんどが、手術を行わなければ胎児が死にそうな場合に限り行われてきた。

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出生前手術は Tyson Thomas 君と母親の Jessica に大きな変化をもたらしたと医師たちは言う。

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母親によると、彼は装具を着用しているが歩行に近づいているという。

 今回初めて、厳格な臨床試験によって、胎児手術が、一般的には生命を脅かすことのない疾患の赤ちゃんに有用であることが示されている。障害をもたらす脊髄の異常である二分脊椎を持つ胎児に、生後ではなく生まれる前に手術を行ったところ、歩行できる可能性が高くなり、神経症状の軽減がもたらされたのである。
 専門家たちが長く待ち望み、New England Journal of Medicine に9日にオンラインで発表されたこの2,250万ドルの研究は、重篤な心臓欠損や膀胱閉鎖に対する手術や、場合によっては鎌状赤血球性貧血や免疫異常に対する骨髄あるいは幹細胞移植を行うことなど、出生前に疾患に対して処置を行おうとすることへの関心が駆り立てられそうである。
 「これはよいスタートであり、適正な方向への第一歩です」と、この研究に添えられた論説を書いた Florida International University の産科医であり遺伝学者でもある Joe Leigh Simpson 博士は言う。「これは進歩ですが、さらにすぐれた治療法を探し続ける理由が存在することも示されています」
 ただし、すべての主要な問題を解決するホームラン、あるいは聖杯に匹敵するほど切望された進歩が得られたわけではないのは明らかだと彼は言う。
 そして、診断技術によって発達中の胎児の問題を医師が診断できるようになるにつれ、赤ちゃんや母親に他の問題が生ずるのを避けるためにより侵襲性の低い技術を開発する必要性など、まだ解決されていないリスクやハードルがこの研究によって強調されることになる。
 この二分脊椎に対する治療はきわめて有益であると考えられたため、独立した安全監視審査会は早期にこの研究を打ち切り、出生後に手術を受けるように予定されていた胎児も出生前手術を受けることができるようになった。
 しかし、女性や子供にとっては医学的なマイナス面もある:生後手術群に比べ数週ほど早産で生まれる傾向にあり、それに関連した呼吸器の問題がある。さらに女性の外科的切開部が薄くなっており裂けやすく、以後の出産にも王切開を要するようになることなどが挙げられる。
 「これはきわめて有望で実に刺激的成績である一方、すべての患者に有用であるわけでなく、また無視できないリスクが存在します。この手技はすべての人たちに向けられるものではありません」と、研究著者である University of California, San Francisco の Benioff Children's Hospital の外科部長 Diana Farmer 氏は言う。
 この臨床試験を行うことそれ自体が難問だった。出生前の二分脊椎に対する手術は、Vanderbilt University などいくつかのメディカルセンターで施行され始めた1990年代後半に注目を集めるようになった。胎児の手が、子宮から手を出している外科医の指を握っているように見える写真が妊娠中絶を受ける権利の反対者によって世に出回ることになり、その概要が一層取り上げられる事態となった。
 第一線の専門家たちは出生前手術が、出生後手術より優れているかどうかを決定するための臨床試験を提起した。そこで彼らは異例の取り決めを主張した:すなわち Philadelphia、San Francisco、および Nashville の3病院以外のすべての施設でこの手術を中止することだった。
 熱望する患者からの圧力によって「この手術を行いたい施設は多くありました」と、University of California, San Francisco で胎児手術を先駆けて行った Michael Harrison 博士は言う。彼は退任するまでこの二分脊椎の臨床試験の責任医師であった。「しかし、この手術が単なる見世物的なものではないことを確かめたかったのです。もし一方でこの臨床試験以外で治療が提供される事態となれば、試験を行うことはできなくなるでしょう。なぜなら硬貨で決めるようなことに同意する母親はいないでしょうから」
 結局他の病院はこれに応じた。
 二分脊椎の研究者らが臨床試験を望んだ理由の一つに、横隔膜に生命を脅かす異常がある疾病に対する出生前手術にまつわる経験がある。
 出生前にこの疾病を修復する当初の努力の後、「自分たちはヒーローになっていると思っていました」と Harrison 博士は言う。しかし、それは軽症例でのみうまくいくことが明らかになったのである。その他にも出生前に肺の成長を図る治療も功を奏したかに見えたが、顕著に早産を生じ、出生後の治療との差がなくなったと、彼は言う。
 この二分脊椎の臨床試験はその最も重症型 myelomeningocele(脊髄髄膜瘤)が対象となっているが、これは脊椎が正常に閉鎖しておらず脊髄が飛び出しているものだ。患児は下半身の麻痺、脳への髄液貯留、膀胱障害、あるいは学習障害を被る可能性がある。小児約3,000人に一人がこの病型を有していると、本臨床試験に資金提供し支援を行っている National Institute of Child Health and Human Development の所長 Alan Guttmacher 博士は言う。
 現在多くの赤ちゃんが生後に脊椎開放部を閉じる手術を受けているが脊髄が羊水に露出していることによって神経損傷が残存する。また、脳幹が脊柱管内に牽引される可能性もある。脳脊髄液の過剰はシャントを埋め込んで排出する必要があるが、これは感染の原因となり、何度も外科的再建が必要となる場合がある。
 本臨床試験では、約80例の赤ちゃんが無作為に出生後に手術を行うグループに選ばれ、別の80例は妊娠19~26週に子宮内で脊椎の開放部を外科的に閉鎖された。それぞれのグループで2例ずつが死亡した。
 手術前には、出生前グループの赤ちゃんは、出生後グループの赤ちゃんより重症の脊髄病変を有していたが、より良好な結果が得られたのは出生前グループに多かったと、共同研究者で Children's Hospital of Philadelphia の小児外科部長の Scott Adzick 博士は言う。
 出生前手術を受けた人たちではシャント手術を要したのは約半分の頻度で済み、脳幹が正常位置にあった頻度は約8倍であった。「下肢の運動機能ははるかに良好でした」と、Adzick 博士は言い、生後30ヶ月の時点では、杖や装具なしに歩行できた症例がほぼ2倍だった。
 出生時期は、出生後グループの37週に比べ、平均妊娠34週となっていたが、認知機能の発達には差は見られなかったと child health institute の妊娠および出産期医学の部長 Catherine Spong 氏は言う。
 Adzick 医師によると、出生前手術は「発達中の脊髄の露出を阻止し、恐らくその後の神経損傷を回避できる可能性がある」とのことだが、あるいは脳幹の障害を引き起こす脳脊髄液の漏出を阻止できるのかもしれない。
 現在22ヶ月になるユタ州、Stansbury Park  に住む Tyson Thomas 君の場合は劇的な結果だった。臨床試験の登録者である母親の Jessica Thomas さんは彼の脳奇形をこれまでで最悪と医師たちから言われ、「自分で呼吸することもできない可能性がある」と告げられていた。
 妊娠35週での出生以来、Tyson 君は自力で呼吸し、脳幹の異常はなく、言葉も出始めている。ただ膀胱の神経障害は生涯カテーテルでの排尿が必要となる見込みである。彼は今、歩行器と下肢の装具を用いているが、自分の力での歩行にきわめて近づいていると、看護師である Thomas さんは言う。
 研究者たちは、有益性が持続するかどうかを見るため6才から9才までこれらの子供達を追跡する予定である。
 今、一部の女性に対して一つの選択肢として出生前手術を挙げるつもりであると言う専門家もいる。しかし、高度に肥満である人や胎児の病状が一定の基準に合致しない人など、多くの女性がこの臨床試験から除外されていることから、今後も多くは不適格となるかもしれない。
 本臨床試験が外科医を奔走させ他の疾患に対してもこの手術をし始めるよう駆り立てるべきではないと、本研究に関与していない Children’s Hospital Boston の胎児医学の専門家 Terry Buchmiller 博士は言う。「私はやろうと思えばすぐにでも子宮内に手を伸ばし口唇裂を修復することができますが、私たちがそれをすべきだと言う人は誰もいないと思います。なぜならリスクを伴うからです」
 しかし、彼女は本研究を「障害を起こす疾患の転帰を改善させようとした数十年に一度の素晴らしい成果」と呼んでいる。そしてこう付け加えた。「これは人生を変える可能性を秘めているように思います」

脳・脊髄の元となる神経管は
通常胎生4週までの間に
ジッパーが締まるように閉鎖する。
しかし、この閉鎖する過程に異常が起こり、
背中や腰の高さで管が開いたままとなり
脊髄が露出した状態で生まれてくるのが
二分脊椎である。
露出した脊髄の高さ以下の神経機能が障害されるため
病変が高い位置にあるほど重篤な神経症状を生ずる。
脊髄の一番下から出る膀胱や直腸を調節する神経が
最も障害されやすく、さらに位置が高ければ、
両足の運動機能も障害される。
また脊髄が露出部で固定されてしまうので、
成長に伴って脊椎は伸びても神経の伸びは遅いため
脳が下方に引っ張られてしまい、これにより
脳脊髄液の流れが障害され脳に水が溜まる状態、
すなわち水頭症が生ずる。
生まれた赤ちゃんにこの異常が見つかれば、
従来は、感染防止を第一に、手術で欠損部を閉鎖し
水頭症に対しては脳脊髄液を腹腔に流す
シャント手術が行われてきた。
しかし、生まれてきたときにはすでに神経症状は
完成しており、たとえこれらの治療を行ったとしても
症状の改善が得られることはない。
超音波診断の進歩により、最近では妊娠中に
二分脊椎の診断ができるようになっており、
米国では記事にあるように妊娠中に
子宮を開いて胎児に直接手術を施し、
脊髄露出部を閉鎖する治療が行われている。
日本ではまだほとんど行われていないが、
今回の結果を受けて、この治療を
前向きに考える可能性が出てきそうである。

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