MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

下がらない血圧

2011-10-24 00:15:26 | 健康・病気

恒例のメディカル・ミステリーです。

10月18日付 Washington Post 電子版

Medical Mystery: Giving birth didn’t ease a woman’s dangerous hypertension メディカルミステリー:女性の危険な高血圧は出産後も改善しなかった

Womansdangeroushypertension
今では Karen Good さんの血圧は管理されており、Baltimore 郊外にある自宅近くで定期的に運動を行っている。
By Sandra G. Boodman
 母親となった最初の混乱した数週間に特徴的な漠然とした極度の疲労と高揚感の中、Karen Good さんは別のことを感じていた:それは自分自身の健康に対する絶え間ない不安だった。
 当時41才のGood さんは2007年のクリスマスからほどなくして健康な男児を出産していた。彼女が子癇前症だったため息子は4週間早く生まれたのだ。子癇前症は高血圧と尿たんぱくを特徴とする生命に関わることのある疾患である。ほとんどのケースにおいて、それを改善させる処置は分娩であり、赤ちゃんが生まれれば通常母親の血圧は正常に復する。
 しかし Good さんの場合、そうはならなかった。彼女の血圧は依然危険なほど高い値が続き、時に180/120mmHgに達することもあった。それは正常上限と考えられる120/80をはるかに上回っていた。彼女には強い頭痛があり、時には目がくらむこともあった。医師から一つ薬を処方されたが、あまり効果が見られなかった。妊娠前に彼女は高血圧であることを告げられたことはなかった。
「私は本当に怯えていました」Baltimore で理学療法士をしている Good さんは思い出す。彼女は若い脳卒中患者を相手に仕事をしていたので彼らと同じ様になりたくなかったのだ。
 出産から4ヶ月後、Good さんは、過去10年間の大半彼女を苦しめてきた一見共通点のない問題について、またそれ以上に長く見過ごされてきた手がかりに対して新たな理解を得ることになる。彼女の置かれていた状況は the blind men and the elephant(盲目の男たちと象)の寓話に似ていた。男たちはそれぞれこの動物の一部だけ(牙、皮、あるいは象の鼻)を触り、それが全体像であると考え、より大きな真実を見失うというお話である。
 「私にはかかりつけ医がいませんでした。それで誰も象全体を見ることができなかったのです」と、Good さんは言う。
 「彼女は多くの医師を受診しましたが、それによって往々にして全体像が見逃されてしまいます」と Alexandria(ヴァージニア州)の内科医 Kantha Stoll 氏は言う。今回この医師の直感によって正しい診断にたどり着くことができたのである。
 Good さんのケースは特異なもう一つのキーポイントによって複雑化してしまった。1966年、Georgetown University Hospital で生まれて間もなく養子に出されたため、彼女は30年間以上自身の家族歴についてはほとんど知らなかったのである。

Worried about a brain tumor 脳腫瘍を心配して

 振り返ってみると、病気の最初の徴候はこれまで長く信じてきたような偶然のできごとではなかったと Good さんには思えた。1984年、18才の時 Good さんはある薬局で自分の血圧を測ってみようと思い立った。すると測定値は140/90と高く、高血圧を示唆するものだった。スポーツ学生で菜食主義者の Good さんはその測定値が単に間違っているのだと考えた。
 「私は誰にも話しませんでした、というより話す相手が誰もいなかったのです」と、彼女は言う。大学から始まって、30代まで元気だった彼女にはかかりつけ医がいなかったのだ。
 「それから私はある医師と結婚しました。そしてもし何か症状があると、私はその症状に関係する専門医に直行していたのです。そしてしばしば付き合い上知っている人たちから医療を受け、時にはカクテル・パーティで気軽に話される助言に頼るなどしていました」 彼女によれば、ある医師が何を処方し、どう助言していたのかを他の医師が知らないこともしばしばだったという。
 1997年、31才になった Good さんは St. Luis に住んでいたが、そのころから頻回の頭痛やめまい発作が起こるようになった。神経内科医の友人は片頭痛として治療を始めた。実の両親が彼女を見つけ出してくれた最近になってやっと彼らに会うことができた Good さんは、はるかに深刻な病気について気にかけていた:脳腫瘍である。彼女の生みの母親は非常に大きな髄膜腫で手術を受けていたのである。この腫瘍は頭痛やめまいの原因となりうる上、Good さんは、通常良性であるこの腫瘍が家族内で発生することを知っていた。
 MRIで何も見つからなかったことで彼女の不安はひとまず解消された。その一年後、Good さんは新たな問題に対して治療が必要となった:両耳に大きな耳鳴りを感ずるようになったのである。それは彼女の鼓動のように聞こえるもので、時にはシューッという音もした。耳鼻咽喉科の専門医である別の知り合いはそれを問題としなかった。「自分の鼓動が聞こえるのは誰にでもあります」と、彼は言った。
 ひょっとして自分のいくつかの症状が総体的な疾患と関係しているのではないかと Good さんは考えた。「体型が崩れるとそれらは悪化するように思われたので、それは体重に関係していると考えていました」と Good さんは言う。彼女はしばしば余計な10ポンド(4.5kg)の体重増加と悪戦苦闘していたのだ。
 2003年までに Good さんは離婚し Baltimore(メリーランド州)に転居していた。そこで彼女は新たな心配事と戦っていた:大量の寝汗、さらには尿意切迫と頻尿である。ある産婦人科医は膀胱の薬を処方したが効果なかったため再発性尿路感染として治療した。別の医師は泌尿器科的な精査を行い、彼女の疾患は『膀胱筋力の低下』であると診断した。両方の耳が鳴り、30分毎にトイレに行かなければならない状態にあって Good さんは『まるで自分は老女のようだった』と振り返る。しかし38才時にはこれらの症状とうまく付き合ってゆくことを覚え、また症状も良くなったり悪くなったりしていた。

Traffic ? or something else? 移動のため、それとも他に原因が?

 自分には内科医が必要であると考え、共通の友人から勧められた Stoll 氏のもとに受診するようになったが、そのためには Nothern Virginia まで片道1時間運転してゆかなければならなかった。2005年12月の最初の予約診察の時、Good さんの血圧は130/100で、高かったが危険なほどではなかった。
 「それが最初の受診だったので私は彼女に薬を出しませんでした。もっと多くの情報を知りたかったからです」と、Stoll 氏は思い起こす。時に血圧はストレスの影響を受け、真に高血圧ではないことがあるという。「移動によるものだと推測しました。彼女は Reisterstown(メリーランド州 Baltimore 郊外)から運転してきたばかりだったのです」と Stoll 氏は言う。その後の受診期間中、彼女の血圧は変動したが正常に近づく傾向が見られていた。
 しかし、再婚した Good さんが 2007年に妊娠したとき、彼女の医療的ケアの大部分は産婦人科によって行われることとなる。息子が生まれた後、産婦人科医から処方された薬では彼女の血圧は下がらず、再び Stoll 氏のもとを受診した。2008年1月の受診時、この内科医はある異常に気がついた:Good さんが側臥位になると、彼女の血圧値が劇的に下がるのである。さらに彼女の尿酸値は高かったのだが、妊娠の後は通常この値は低い。この二つの所見は Good さんの腎臓への血流が障害されていることを示唆していると Stoll 氏は考えた。Good さんの頸部に雑音(狭窄があることが示唆される聴診器で聴取される血管雑音)が確認されたので、Stoll 氏は腎臓の超音波検査と心臓を検査するため心臓超音波検査を依頼した。
 Good さんの高血圧は、fibromuscular dysplasia(FMD:線維筋性異型性症または線維筋性形成異常症)というしばしば見過ごされることもある稀な疾患によって引き起こされているのではないかと Stoll 氏は考えた。この内科医は数年前に50才代の女性の症例を診たことがあった。
 1938年に初めて確認された FMD は頸部、腎、腹部の動脈血流を減少させる血管病変であり、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、あるいは動脈瘤を生じ致命的となることがある。この疾患はしばしば生涯診断されないこともあり、剖検例の報告では人口の1~4%に認められものと推測されている。FMDは重症度に幅があり、無症状の場合もあるが、Good さんが経験したような頭痛・ふらつき・耳鳴りなどを訴える患者もいる。
 FMD は25才から50才までの女性に最も多く診断される。原因は不明だが、遺伝子が関与していると考えられている。Cleveland Clinic によると約10%が家族性であるという。本疾患の治療法はないが、薬物治療が行われ、より重症例では腎臓やその他の部位の狭窄した動脈を拡張するため血管形成術が行われる。

Biology as destiny 運命としての血筋

 診断を確定するための特殊検査が Johns Hopkins と University of Maryland で行われ、その完了までに数週を要した。一人の専門家が Good さんの高血圧に関する“異常に強い”家族歴を指摘した。祖父母のうち3人が脳卒中になり、一人は40才までに死亡している。彼女の血のつながった父親は60才までに数回の心筋梗塞を起こしていたが、17才の時に高血圧と診断されていた。彼女の姉妹の1人は20才代で高血圧があることがわかった。Good さんによれば、FMDの検査を受けたものはいないという。
 生みの親と会いわずか2、3年前に自分の家族歴について知った Good さんは衝撃を受けた。一切喫煙しないトライアスロンの選手である彼女は、肥満だったり、運動不足の喫煙者だったりする自分の親戚とはほとんど共通点はないものと考えていた。
 2月、検査は進行中だったが、Good さんの切迫感が増大した。彼女はある晩、“これまでで最悪の頭痛”に対する治療のため Baltimore の緊急室で過ごした。CTスキャンでは以前に起こった小さな脳梗塞を示す病変が認められた。「いつ何どき私に脳動脈瘤ができてもおかしくないのだと覚悟していました」と彼女は言う。
 Good さんは Washington や Baltimore の血管専門医を受診しようとした。結局、前夫、放射線科医、あるいは FMD支援団体のメンバーたちと相談の上、Mount Sinai School of Medicine の専門医に助言を求めるためニューヨークに出かけた。その医師は FMD 治療の専門家である。「誰にでも受診したかったわけではありません。なぜならこの疾患が稀であるとわかっていたからです」と彼女は言う。
 2008年4月、Good さんは腎動脈形成術を受けた。これは腎臓の狭窄した動脈を拡張させる治療である。1ヶ月後、数十年ぶりに彼女の血圧は管理できるようになり100/50まで下がった。
 彼女は血圧を維持し、コレステロールを下げるために薬を内服している。依然として彼女は脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが高いからである。Goodさんは6ヶ月毎に腎臓と頸動脈の超音波検査や、彼女の状態を観察する他の検査を受けている。血管形成術以降彼女は、頭痛やふらつきだけでなく、寝汗、耳鳴り、あるいは尿路系の問題も消失している。
 Good さんは自身の経験から、多くの専門医にかかることを止め、友人からの治療も控えるべきであることを学んだ。「今ではあちこちにかかるようなことはしません。私は受けたすべての検査を自分でまとめ、自分の担当医に結果を送ります。そしてもし私に新たな症状や問題が生じたら、私はかかりつけの内科医を受診し、一緒に考えるつもりです」と、彼女は言う。

Fibromuscular dysplasia(FMD:線維筋性異形成症または
線維筋性形成異常症)は若年から中年の女性に見られ、
中程度の大きさの動脈に病変を来たす疾患である。
腎動脈に60~75%、頸部の脳動脈に25~30%、
腹腔内動脈に9%、四肢の動脈(外腸骨動脈)に5%の
頻度で病変が認められる。
これら動脈病変により
重篤で進行性の症状を呈する例もあるが、
多くは無症状で経過する。
脳動脈に関係して注意を要するのは、
約7.3%に認められる脳動脈瘤の合併と
頸部内頸動脈の解離である。
腎動脈病変では、腎血流が低下し、これに反応した
傍糸球体装置が血圧上昇物質レニンを産生し
本例のような異常高血圧を生じる。
腎血管性高血圧の約40%が本疾患によるとされている。
FMDの原因は不明だが、家族性発症例も認められており、
何らかの遺伝子異常の関与が考えられている。
その他、ホルモン、喫煙、
血管を養う動脈の発達障害などの影響も検討されている。
FMDに対する根本的治療はないが、
腎動脈病変が高血圧の原因となっている場合、
降圧薬で血圧をコントロールできなければ、
カテーテルとステントを用いた狭窄部位の拡張術が
行われる(血管内治療による血管形成術)。
また脳動脈瘤を合併している場合には、
開頭クリッピング術やコイル塞栓術が行われる。
いずれにしても、難治な高血圧症例に対しては
本疾患の可能性を考慮し早期に診断をつけることが
肝要である。
なおアメリカには FMD 患者を支援するHPが
あるようなのでご参照いただきたい→こちら

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする