ホタルの独り言 Part 2

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ムラサキツバメ

2022-11-25 16:20:06 | チョウ/シジミチョウ科

 ムラサキツバメ Narathura bazalus turbata (Butler, 1881) は、ジミチョウ科(Family Lycaenidae)ムラサキシジミ属(Genus Narathura)で、世界におよそ200種からなるグループの中の1種である。分類は未だに定まっていない。(シノニム:Arhopala bazalus)
 オスの翅の表側はほぼ全体が深い紫色で、メスでは黒褐色の地色の中の狭い部分が明るい紫色に輝く。近縁種のムラサキシジミ Narathura japonica japonica (Murray 1875) (参考までに以下に写真を掲載)とは、後翅に尾状突起があることで容易に区別できる。成虫は5月下旬から6月頃から現れ、3~4世代を繰り返しながら11月頃まで見られる。
 ムラサキツバメは、成虫で集団越冬することでも知られている。何頭ものムラサキツバメが葉の上に集まり越冬するのだが、寒さが厳しくなると散らばって個々に越冬するようである。千葉県の生息地(都市公園)では、毎年、葉の上に数匹が集まって越冬する姿を観察することができる。実験的に木を揺らしてみると、それぞれ散り散りに飛んでいくが、数分するとまた同じ木のほとんど同じ葉の上に集まってくる。
 公園には、個々の木の名前の札が付いている。ムラサキツバメが越冬に選んだ木は「カクレミノ」。ウコギ科の常緑亜高木で、着ると体が見えなくなるという想像上の宝物の一つである「隠れ蓑」に葉の形が似ていることが名前の由来らしい。ムラサキツバメが、カクレミノで身を隠して越冬するのも面白い。

 前記事で地球温暖化について記したが、ムラサキツバメも温暖化と関係が深い。もともと近畿地方以西の本州、四国、九州に分布していたが、1990年代後半以降は東海、関東地方でも普通に見られるようになった。
 チョウの分布北上は、気候の温暖化を介さずともチョウ自らが耐寒性を増大させたり休眠期間を長くさせる等の適応を通じて北上することもできるが、埼玉県環境科学国際センターの嶋田知英氏の研究によれば、ムラサキツバメの関東地方へ侵入した個体の過冷却点(体組織の凍結開始温度)は意外に高く、本種が耐寒性を増大して北に分布を拡大した可能性は低いという。つまり、温暖化によって生存可能な温度帯の地域が北上しているということである。
 北陸や栃木県の一部でも成虫が確認されているが、越冬はできずに、発生期間中に飛来したものと考えられている。また、ムラサキツバメは、温暖化の他に食草であるマテバシイが街路樹や庭木として盛んに植樹されていることが関係しているとも言われている。
 南方系のチョウ類がその分布域を北方に広げていく現象は、ムラサキツバメ以外にもナガサキアゲハ、モンキアゲハ、ツマグロヒョウモン、クロコノマチョウなどが広く知られており、いずれも地球温暖化が影響している。一方、高山蝶は、温暖化により生息できる標高がどんどんと高くなり、本州のクモマベニヒカゲにおいては、昨今2,500mを越えないとなかなか見られない状況である。

参考文献/北原正彦(2006)チョウの分布域北上現象と温暖化の関係,地球環境研究センターニュース Vol.17 No.9

関連ブログ記事/チョウの北上

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメの越冬
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 3200(撮影地:千葉県 2010.11.13 11:03)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメの越冬
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 3200(撮影地:千葉県 2010.11.13 11:11)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメのオス
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 -1/3EV(撮影地:千葉県 2010.12.11 10:15)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメのオス
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 320 -1/3EV(撮影地:千葉県 2010.12.11 10:37)
ムラサキツバメの写真
ムラサキツバメのメス
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 -1/3EV(撮影地:千葉県 2010.12.11 10:39)
ムラサキシジミの写真
ムラサキシジミのオス
Canon 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 1000(撮影地:埼玉県 2017.6.11 10:31)
ムラサキシジミの写真
ムラサキシジミのメス
Canon 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 500 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.8.19 12:23)

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