ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

苺月と源氏蛍(Firefly in the Strawberry moon)

2019-06-22 12:16:05 | ゲンジボタル

 6月はゲンジボタルの季節である。ちょうど満月と発生時期が重なり、また気象条件も良かったので撮影したが、実は、ホタルは満月が大嫌いである。 ご存知のように、ホタルは互いが発する光によってコミュニケーションを図っている昆虫である。このような満月の明かりでは互いの光が見えないために、写真のように葉の上で静かに光っているだけで、飛び回るオスは少ない。つまり、その夜の繁殖行動は極めて少ないのである。
 満月は自然現象であり、月の昇る時間や天候によってその影響がホタルの発生期間中ずっと及ぶことはない。しかしながら、人工的、あるいは人為的な灯りは「光害」と言い、ホタルの繁殖行動を最も阻害するのである。0.1luxの灯りでも繁殖は阻害されるのである。ホタルの生息地において、街灯の灯りが当たったり、家の灯りが当たるような場所では、ホタルはどんどん暗がりを探して逃げていく。
 そもそもホタル(ゲンジボタル)の発生期間は、長くても3週間くらいである。メスはオスよりも遅れて羽化してくるから、繁殖できる期間は2週間くらいに減ってしまう。しかし、満月の晴れた夜、風の強い夜、気温が15℃以下の肌寒い夜は、オスは飛び回らないから、実際に繁殖できる期間は1週間くらいかも知れない。その少ない繁殖のチャンスを「光害」は更に機会を奪ってしまう。
 「光害」が全くない条件の良いホタル生息地でも安心はできない。ホタル観賞に訪れる方々は、無意識に懐中電灯を照らす。足元だけでなく、ホタルが飛び回る方向にも向ける。スマホでフラッシュを焚いて写真を撮る。まだ、飛翔時間帯なのに車のライトをつけて帰る・・・このような行為が続けば、そのうちホタルはその場所からいなくなってしまうだろう。

 写真を趣味や職業として撮るカメラマンにとっても、風景的なホタル写真の撮影に「光害」は邪魔になるため、「灯り」については注意しているようだが、昨今、インスタ映えするヒメボタルの写真撮影者が増えており、一部に、絶対にしてはいけない行為が見受けられる。
 ヒメボタルのメスは下翅がなく飛ぶことが出来ないため、地面や葉の上でオスの飛来を待っているわけだが、撮影者が撮影ポイントを探すために農道や林道から外れて生息場所に平気で立ち入るのである。ヒメボタルが飛翔する場所に番傘を置いて撮影した馬鹿者もいる。おそらくメスのヒメボタルを踏みつけているだろう。意図する作品を撮るためなら、何をしても良いわけではない。 撮影者は、あらかじめヒメボタルの生態について細かく学んだ上で現地に来て撮って欲しい。

 ホタルの飛翔風景写真を撮り飽きると、撮影者は、次に成虫が発光しているマクロ写真も撮りたくなる。撮影された写真の中には、発光しているホタルに何らかの灯り(懐中電灯やストロボ)を照らしたであろうものがある。その撮影にどのくらいの時間を掛けたのかは分からない。撮影者1人の「一瞬」かもしれない。周囲に誰もいなければ、鑑賞者や飛翔風景を撮っている撮影者の邪魔にもならない。短い時間ならば、ホタルの繁殖にも影響がないだろう。私もホタルにストロボを焚いて撮影した写真が何枚もあるが、それらはすべて飼育して羽化させた個体を自宅室内のセットで撮影しているものだ。絶対、自然発生地では人工的な灯りは使用しない。それは、ホタルが好きだからである。当てるべきではない。
 自然河川においてホタルにストロボを当てて撮影し、その撮影方法をブログで詳細に解説していたあるプロの写真家に対して苦言を呈したところ、「極論であり、なんの影響もない。マナーは人に押し付けるな。自身のホームページだけで言っていろ。」という言葉が返ってきた。悲しい事実である。

 昆虫撮影でも風景撮影でも、求める被写体、求めるシーンを撮るためら何をしても良いのだろうか?「自分一人だから良いだろう。一瞬だから良いだろう。」は、正論であろうか?何かを犠牲にして撮った写真は、単に自己を満足させるだけであるように思う。撮影者はエコーツーリズムの精神をもって望むことが必要なのではないだろうか。
 以下に掲載した写真は、夕暮れに最初に光る一番ボタルを自然光で撮影している。画質は悪いが、自然界ではこれ以上の写真を望んではいけないと思う。

 ストロベリームーンは、6月の満月を指す俗称。 正式な天文学の用語ではなく、名称はアメリカ先住民のオジブワ族が風習に由来するものであり、 色とも関係がない。オジブワ族は、野生の木の実や種子を採集する暮らしを送ってきたことから、その時に採集できるものを月の呼び名としてきた。ストロベリームーンは、イチゴの収穫時期に昇ることから呼んだ名称である。(ウィキペディアより)
 アメリカに生息するフォチヌス等のホタルならば、表題はカタカナ表記が良いだろうが、ここでは漢字とした。

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ホタルの写真

苺月と源氏蛍
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 3秒 ISO 200(撮影地:東京都 2012.6.09 20:01)

ホタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 3.2秒 ISO 1000(撮影地:東京都 2012.6.04 20:02)

ホタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 10秒 ISO 1600(撮影地:東京都 2012.6.16 19:30)

ホタルの写真

ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F2.8 8秒 ISO 1600(撮影地:東京都 2012.6.16 19:32)

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