細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『愛を積むひと』の不揃いな真珠のイヤリングが泣かせる。

2015年05月20日 | Weblog

5月15日(金)13-00 築地<松竹映画3F試写室>

M-056『愛を積むひと』" The Pearls of The Stone Man " (2015) 松竹映画・WOWOWフィルムズ。アスミックエース

監督・朝原雄三 主演・佐藤浩市 <125分> 配給・松竹映画 

あの高倉健さんの「幸福の黄色いハンカチ」がそうだったように、この夫婦の映画も、エドワード・ムーニーが2002年に書いた舶来小説の映画化。

原題は「石頭の男の真珠の首飾り」という、つまり<無骨な男の真珠>ということで、ストーンマンというのは、家の周囲を石垣で囲む作業をする男というダブル・ミーニング。

だから、不況により東京の中小企業の工場をたたんで、北海道の原野に一軒の小さな家を建てるなんて、かなり無謀でロマンティックすぎる発想が、あちらの作家らしいアイデアなのだ。

ま、多くの現実離れした生活感覚は気にしないで、これはワイオミングの原野の、あの「シェーン」のような家作りの発想なのだ、と、まずは余計な心配はしない方がいい。

東京の病院で精密検査を受けたカミサンの樋口可南子は末期の重病を夫の佐藤浩市に隠しているが、映画の前半であっさりと他界してしまう。

しかしドラマはそこからで、家の要所要所に書き置きしていた遺言の手紙が<泣かせる仕掛け>となって、やっと後半になって、このドラマを盛り上げて行く。

とくに原名タイトルにある<真珠の首飾り>が、この夫婦の愛情表現の鍵になっていて、プレゼントの金がないので、毎年の結婚記念日に1個づつの真珠をプレゼントしていたのだ。

だから、色も大きさもマチマチで、まだ40個にもなっていないが、その素朴でオリジナルなリングが、何と留守のあうだに空き巣に盗まれた。

ひとり娘とは疎遠で、妻の葬式に帰って来ても素っ気ない。というのも、東京で妻帯者の中年男に片思いしている娘を、父親としては不甲斐なく、許せないのだ。

家の周囲に石垣の塀を作るのは妻の希望だったので、閑なダンナは非行少年をヘルパーにして作業していて、その少年が次第に大きくドラマに関わってきてから、映画は引き締まる。

とくに農家の無愛想なオヤジを演じる柄本明が登場してからが、やっとドラマは引き締まって来て、無理な設定も、とくに真珠のイヤリングで、ついホロリとなる。

これが松竹映画伝来の、<お涙頂戴>の新作なのだから、ゴタゴタ現実的なへ理屈など、この際、ごちゃごちゃ言わない方がいい。

 

■平凡なセンターフライが、意外に伸びてフェンス(塀)までのツーベース。 ★★★☆☆☆

●6月20日より、全国松竹系でロードショー