幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 かなわないことを約束したい

2010-11-07 23:59:52 | Weblog

 
 
  かなわないことがわかっていても
 
 
  あなたは青い色のスーツを着ていて
 
  隙がない女性に見えた
 
  才能があるのを少し覗かせて
 
  露出狂にならない程度に
 
  自分の欲望に気付かせていた
 
 
  でもいい寄る仕草を見せた途端
 
  興味を失くして
 
  洗練された趣味の世界に逃げ込んで
 
  そこで培った社交の仲間の元に戻っていく
 
 
  所詮、生きている階級が違うのだから
 
  マナーを学んでも
 
  新参者は溶け込めないソサイエティー
 
  あなたはそこで自然に振る舞い
 
  ほとんど全ての欲望を昇華することもできる
 
  でも、たったひとつだけできないことがある
 
  それは、冒険という誘惑
 
  その好奇心に満ちた欲望を満足させるためには
 
  今までのマナーを破り
 
  階級の外に飛び出し
 
  ブランドの高級ラベルを剥がして
 
  裸の服を着なければならない
 
 
  あなたには、たぶん分かってる
 
  自分のしたいことが、
 
  ぼくと付き合うことだということを
 
  そして、ぼくと付き合えば
 
  あなたは、今までになかった自分の欲望に気付くだろうことにも気付いている
 
  でも、まず、ぼくと付き合うには
 
  ぼくと付き合う準備をしなくてはならない
 
  それは、ただの準備ではなくて、
 
  一種の冒険、もしかしたら、賭けになり得る
 
 
  自分の服を脱ぐことができるだろうか?
 
 
  あなたは自問している
 
  友達はなんて言うだろうか
 
 
  私はそれでも階段を踏み外さないで済むだろうか?
 
  私は私でいられるだろうか?
 
  私のキャリアはそのままで、
 
  すこし世界を広げるだけならいいが
 
  キャリアを否定し、世界が180度変ってしまいやしないだろうか?
 
 
  あなたは考えている
 
  躊躇している
 
  自信に満ちた声で語ることができるのに
 
  それは自己の分野での、自己に係わらない第三者のことだけ
 
  あなた自身のこととなったら、
 
  あなたは迷い、急に確信が持てなくなり、自らを閉ざす
 
  無難で、危険の少ない方を選ぶ
 
 
  それでもOK
 
  ぼくはOK
 
 
  あなたのスーツ姿は素敵だし
 
  あなたの自信に満ちた言葉は魅力的だ
 
 
  でもあなたがそのキャリアから少し外れ
 
  スーツを脱いで
 
  裸になって自分自身になって
 
  なにを求めているのかを
 
  はっきり自覚したとしたら
 
  もっと、あなたは、魅力的だろう
 
 
  そのときは、おしゃべりをしよう
 
  どこかへ出かけ
 
  同じ夢を見て眠ろう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
  

 あのときと同じ光

2010-11-07 23:04:44 | Weblog

 
 
  秋の高い空がゆっくり暗くなって
 
  夕日に白い雲が黄色く輝いて
 
  だれかとの別れが思い出されて
 
 
  数年前の出来事
 
  愛していた?
 
  いいえ
 
  もしかしたら
 
  今でも愛しているのかも
 
  あの頃となにも変わってないのかも
 
  あの人が変ってしまっただけで
 
  ぼくはなにも変わっていないのかも
 
 
  黄色い雲が紫になっていく
 
  そしてだんだんと
 
  光がなくなって
 
  闇が濃くなっていく
 
  そらが黒くなり
 
  空気が冷たくなっていく
 
 
  あのときより、あなたはぼくと同じだけ歳をとった
 
  たぶんそうなのだろう
 
  時間はだれにも分け隔てなく公平に過ぎていく
 
  でも本当は、ぼくは、歳をとっていない
 
  想い出の中のあなたも
 
  あのときのままだ
 
 
  あなたはあのときなんて言った?
 
  ぼくに
 
  もう終わり
 
  あなたに逢いたくない
 
  二度と電話しないで
 
  もうあなたを好きではないから
 
  そうよ、嫌いなの
 
  そう言った
 
 
  とっても散文的
 
  
  だからぼくは自嘲するしかなかった
 
 
  それなのに、季節がどんどん寒くなって
 
  上着の襟を立てて家路に急ぐようになると
 
  あのとき見た雲の輝きと同じ光
 
  自分の最後を体験しているような絶望
 
  あのとき見た夕日に照り返す雲の色
 
  オレンジがかった年老いた黄色の光線
 
  ぼくにとってあなたは
 
  単なる散文ではなかった
 
  単なる快楽でもなかった
 
  単なる異性でもなかった
 
  ぼくにとっては
 
  あなたは詩であり、神聖であり、神だった
  
  でも
 
  あなたにとっては
 
  あなたは単なるぼくの散文だった
 
  あなたにとってのあなたは
 
  ぼくにとっての単なる快楽だった
 
  あなたは
 
  ぼくにとっての単なる異性でしかなかったと
 
  あなたは思っていた
 
  だからあなたはぼくから別れたのだ
 
 
  そうぼくは思っていた
 
 
  でも本当は違っていた
 
  
  あなたには、他に愛する人がいた
 
  そしてぼくは単なるもう一人のボトルキープだった
 
  遊びのためにキープしているストックが
 
  本気になったら面倒だから
 
  責任が持てないから
 
  捨てたのだ
 
 
  初めから、ぜんぜん別のリアリティー
 
  ぜんぜん別の文脈で
 
  交わっていた
 
  だから
 
  すれ違いに気付くのは時間の問題だった
  
  
  なんだかぼくの方が女みたい
 
 
  身体は男でも
 
  感受性は女のよう
 
 
  逆になっている
 
 
  だから、秋になり
 
  あの日のような、あの雲の、あの光を見ると
 
  思い出す
 
  あなたへの憧れ
 
 
  そして、夜になり
 
  やがて、朝になり 
 
  高速から降りた直ぐ脇にある
 
  側道で見上げた、明け方の暁の空
 
 
  永遠に叶わない夢は
 
  とってもメランコリックな絶望
 
  あなたの価値は無限大に上昇し
 
  あなたの身体に恋焦がれる欲望は
 
  星空の闇のようにどこまでもどこまでも深く
 
  ブラックホールのように重く重く神秘的に
 
  ぼくの魂を深海に沈め
 
  ぼくの肉体をバラバラにし
 
  たったひとつの光にしてしまう
 
 
  あなたを好きにさせること
 
  あなたをたったひとつの欲望にしてしまうこと
 
  ぼくだけを求めること
 
  それ以外なにも求めないようにすること
 
  それ以外、ぼくは満足できない
 
  引き裂かれ、沈み込み、二度と光を見られないぼくの光
 
  それはあなたがぼくを求めること
 
 
  それだけを願っていた
 
 
  かなわないことが分かっていても