幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

 雨

2007-09-11 00:18:31 | Weblog


 蟻の行列のような雨粒が
 
 窓ガラスを伝う
 
 明かりを消すと
 
 寒くもなく
 
 暑くもない部屋の向こうに
 
 光る雨粒
 
 
 窓ガラスに言葉が光る
 
 誰かがそこにいて
 
 自動書記で書かれた文字
 
 幾筋も伝う
 
 滴り落ち
 
 連なり
 
 砕け
 
 飛び散る
 
 
 滑らかな表面に 執着もせず
 
 拒絶もしない記憶の向こうに
 
 落ちる雨粒
 
 
 もっと遊べばよかった
 
 欲するまま
 
 試せばよかった
 
 それで終わったとしても
 
 終わりは終わり
 
 永遠に続くものなど
 
 なにも存在しないのだから
 
 
 雨粒のような汗
 
 滴り落ちる欲望
 
 雨が上がれば
 
 すっかり濡れた髪も乾き
 
 一粒一粒の雨粒は
 
 蟻の行列のように
 
 小さな穴の中に消える
 
 
 でも 雨は止まない
 
 窓ガラスの外
 
 びしょ濡れの風が
 
 吹きつけている
 
 
 
  

 海

2007-09-11 00:00:12 | Weblog

 
  海を見つめていると
 
  あなたはぼくのことを

  詩人だと言った
  
  でも あなたの書いた詩は
 
  ぼくのよりも ずっと
 
  詩的だった
 
 
  あなたはぼくに約束してくれた  

  地球に張り付いた
 
  薄い皮膜でしかない海の彼方に
 
  ぼくを 連れて行ってあげると
 
 
  でも ぼくは
 
  そこへは永遠に辿り着けないと言って泣いた
 
  もう二度と

  そこへは帰れないのを
 
  ぼくは 知っていたから
 
 
  ぼくより上手に詩を書いたあなたと
     
  永遠の波が巡る地球の表面で

  ふたりは見ている
 
  海よりも深い
 
  湧き上がる雲にも及ばない深淵
 
   
  でも あの入道雲は

  宇宙の果てまでは

  上昇して行かない

  雨になって海面に降り注ぎ
 
  やがては海底に沈む

  だから、ぼくは泣き叫んで 駄々をこねた

  ちがう! ちがう! ちがう! と言って

  自分の運命を呪った 
  
  
  でも本当は
 
  満足すればよかったのだ

  すくなくとも

  満足するふりだけでもすればよかったのだ
 
  あなたが連れて行ってくれた所
 
  そこは 小さく光っていなかったけれど
 
 
  針の先のような光
 
  
  ぼくは そこへ行きたかった
 
 
  だから ぼくは 海を見つめ
  
  あなたは
 
  ぼくよりも上手に
 
  詩を書いた