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今日は証人喚問以後に明らかになってきた論点をまとめてみることにする。少し長くなるが一緒に考えていただきたい。
「改革を止めるな」で圧勝した小泉自民は、耐震強度偽造問題で一貫して後ろ向きの態度をとり続け、「国土交通委員会の審議」にブレーキをかける役割を果たした。自民圧勝から2ヶ月して露見したこの問題は、小泉政権の「規制緩和と構造改革」の屋台骨を直撃するからだ。論議が深まらず、年末年始をはさんで「熱しやすく冷めやすい世論」がひたすら忘却の彼方に消えることを願っているのは、政権中枢に他ならない。

 107人の死者を出した4月のJR福知山線の事故は、国鉄の分割民営化後のJRグループが目指した「コスト削減・効率優先・競争勝利」の結果、構造的に起きた事故であった。「運転士ひとりの過失」に止めようというJR側の世論形成は打ち砕かれた。
 今回も「姉歯建築士ひとりの暴走事故」にしておきたいという力が、強く働いている。あるいは、姉歯建築士ひとりは無理にしても、総研・木村建設・ヒューザーあたりまでの枠組みで終了する事件に止まることを切実に願う人々も多いだろう。
 
 JR西日本の子会社(JR西日本デイリーサービスネット)が大林組に発注し、平成設計・姉歯建築士が設計し、総研がコンサルタント業務を行った『ヴィアイン新大阪ウエスト』(RC11階・客室435・00年6月大阪市建築確認・01年竣工)というホテルが、国土交通省の「構造計算偽造物件」に加えられたのは初期のことである。
 施工業者として元請けとなった大林組は、木村建設に丸投げした。日本有数のゼネコンが施工したはずの物件は、設計段階から施工にいたるまで何のチェックもなく建設された。証人喚問で「大林組が元請けをして木村建設が下請けをした大阪のホテルは、元請けの監督・検査はなかったのか」という私の質問に答えて、木村社長は「実際はたしか大林の方から一人来ていたと思います。所長という名目で、常駐していました」と答えた。元請けは「所長名目でひとり常駐」というのが、この業界の常識なのか? 後ろの自民党席からは「ひとり来ていれば立派なもんだ」と野次が飛んだ。

 大林組が元請けとして、施工管理をきちんとしていたのか。「所長名目でひとり常駐」で元請け責任を果たすことか出来たのか。国土交通省の発表した構造計算書偽造物件」には鹿島建設が施工者となった「舞鶴SGホテル」(00年10月京都府建築確認・RC8階)もある。
 木村建設という中堅・地方ゼネコンの行ってきた工事を、日本を代表するゼネコンが元請けしたところで、耐震強度に設計上問題があることは何らチェックが出来なかったということに注目しておきたい。

読売新聞は、朝刊1面の記事で「偽装が判明した85物件の中で、少なくとも23件が元請けのゼネコンから木村建設に丸投げされていたことがわかった」と伝え、鹿島広報室のコメントとして「建設主の不動産会社から『欠陥があった場合には木村に負わせる。ポイントで管理して元請けになってほしい』と頼まれ、建設費の数パーセントを受け取る契約で応じた」と書いている。

 総研所長である内河健氏は、証人喚問の場で「内河健の持込資料」という3枚組のペーパーを配布した。総研の指導するコストダウンの方法を3つあげている。

1 海外資材を導入する
2 欧米先進国の型枠技術を取り入れる。欧米の型枠技術を使うことにより型枠単価のコストダウンが出来ると共に、大幅な工期短縮が出来ます。
3 建物のバランスを考え、形状の凹凸を少なくし、シンプルな形にすることにより、構造体の合理的な設計を考える。構造体(コンクリート量・型枠量・鉄筋量)の延床面積あたりの使用料が過大設計にならないようにする。(もちろんこれは、建築基準法を守っての検討は、当然のことです)

「型枠技術による工期短縮」については、詳細に数字をあげて内河資料は語っている。

 オーナー様にとって一番のメリットのあることは工期短縮です。
 客室数の150室のホテルの場合は、13ヶ月程度の工期がかかりますが、欧米型型枠工法では7ヶ月程度でホテルは完成します。工期を6ヶ月短縮したことになります。仮にこのホテルの宿泊料を6000円/一泊、ホテルの稼働率を75%とし、1ヶ月を平均すると、30.4日/月(365÷12≒30.4月)として計算すると、建設工来が6カ月早まることにより、オーナー様にとっては、この6ヶ月早まることにより、この6ヶ月分の資金回収が早くできることになります。
すなわち、150室×6000円/一泊×30.4日/月×6ヶ月×75%=123,120,000
付加価値率を35%とすると、123,120,000×35%=43,092,000 の資金回収が早まることになります。(内河氏持込資料より)

工期が早まることで、オーナーは、半年間前倒しで営業を開始することが出来る。そして、4300万円を回収することが出来るという内河氏の説得に、JRグループのみならず大手私鉄各社も一斉になびいていった。

総研の指導を忠実に受けた木村建設のHQ(ハイクオリティ)工法とは、まさに輸入した大型型枠を使って、半年間で竣工してしまうというものだった。凹凸をなくした合理的な構造設計とうたう総研の考え方に従って、完成したホテルの写真をみると外形上は長方形で、柱も地上階から最上階まで同じ太さで造られている。

過大設計をするな、という言葉は証人喚問で民主党の馬淵議員が示した「四ヶ所メモ」にも出て来る。コンクリート量・鉄筋量・型枠量を最大限削減して「経済設計」をするという総研の考え方そのものが、木村建設・平成設計・姉歯建築士というラインで実行されたのではなかったか。

「官から民へ」と規制緩和をしていった結果、「私は建築のシロウトですから」という内河所長の「経済設計」が神話化され、建築主の大手企業・ゼネコン・官民の建築確認の監視もチェックも通用しなかったという仕組みが出来てしまった。
総研から離れた木村建設はマンション事業に、ヒューザーと連携して展開し、恐るべき勢いで「経済設計」の物件は増殖していった。これからの国会での議論は、事件の背景の構造解析と、利益追及最優先で安全を捨て去っていった危険な建物がこれ以上、増殖しないように何が出来るのかだ。

今朝の毎日新聞は、「総研短縮工法」が土木学会委員名で作成された推薦状で拡大したというニュースを伝えている。土木学会でも、報道された委員はコンクリート委員会に属していて専門外。委員本人は総研との関係を否定し、推薦状を書いたことはないとしている。肝心の推薦状は、建物の強度に不安をもった建築主に対して示され「法的にも十分な安全性と強度性能を有する」とあって、説得材料に使われていたという。

本当に推薦状は書かれたのか。すぐに判明するだろうが「総研」の指導水準の質を決める重要な注目点となる。読売の「丸投げ」毎日の「総研短縮工法」と、マスコミ各社とも、構造解析にアプローチし始めている。さらに調査を続けたい。



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