とんでもない悪あがきが始まっている。私たちが、この秋の臨時国会で実施直前の「裁判員制度」に関して、延期することもいとわず徹底的な議論をしようと呼びかけてきたのは御存知の通りで、共産党・民主党もあわせて野党各党から「立ち止まって議論しよう」という姿勢を固めている時に、衆議院法務委員会の与野党有志
(もちろん私は入っていない)がトンデモ提案を発表した。なんと国民から不評な裁判員制度の日当を1万円から3万円に引き上げるというものである。ツベコベ言わずに金もらって言う通りにしろということなのか。およそ、事の本質がわかっていないこの提案に、法務省や裁判所も飛びついているというのだから驚きだ。
まずは、一昨日の朝日新聞の夕刊に掲載されたニュースを改めて読んでみよう。
「裁判員日当、引き上げを」国会議員団が提言
2008年8月28日19時57分 朝日新聞
来年5月に始まる裁判員制度をめぐり、衆院法務委員会の下村博文委員長と与野党の筆頭理事ら5人でつくる議員団は28日、市民の8割が制度の参加に消極的という現状を踏まえ、裁判員の日当について現行の上限1万円から3万円に引き上げるよう最高裁に求める提言を保岡法相に伝えた。野党を中心に、制度の延期を求める声が出ており、臨時国会で議論になりそうだ。
下村委員長は3万円の根拠について、「裁判員はプロの裁判官と同じ責任の重い仕事をする。裁判官の報酬を日割りにした金額に近い方がいい」と説明した。
現在の上限1万円という日当額は、同じく市民が務める検察審査員の日当が上限8千円とされていることなどとの比較で最高裁が規則で定めている。
このほか議員団は、1年間に全国で30万人近くになる予定の裁判員候補者を大幅に減らすことや、市民から辞退の希望があった場合にはより柔軟に認めることも提言。いずれも、国民の負担を軽くすることが狙いだという。
[引用終わり]
この不思議な議員団とは何だろう。衆議院法務委員会の与野党理事で構成されているというが、正式な理事は8人いる。野党では理事ではないが、理事会には私も参加してきた。いったい、どういう基準で「裁判員制度」の提言をまとめることになったのか、直接聞いてみたい。
ただ、ここから浮き上がって見えるのは、制度実施の直前になって異論・疑問の声が噴出してきた裁判員制度を、たとえ逆立ちをしても通したいという関係者の焦りである。国民の8割が裁判員制度に消極的な理由は、「日当が1万円しかない」という事なのだろうか。「3万円」にすると抵抗が薄らぐとでもいうのか。
現実に、フリーターや非正規雇用や地域間格差で「ワーキングプア」と呼ばれる生活保護受給世帯以下の収入で呻吟している人々にとっては、「3日間で9万円」「4日間で12万円」という現金収入は大きな引力となることは間違いない。本当は辞退したいのだけれど、「日当1万円」ではなくて「3万円」なら断りにくいという
人も現実に出てくるかもしれない。
しかし、露骨な買収ではないのか。市民として裁判員裁判に参加する理由が「臨時収入もソコソコありまっせ」ということなら、なぜ実施直前に日当を3倍にしようというのか。そもそも、裁判員の日常生活に影響を与え、一定の心理的身体的拘束を強いる対価として長い議論の末にはじき出されたのではないか。
しかも、このバラマキの帳尻を合わせるために、裁判員候補の数を大幅に減らすことを検討するとしている。裁判員候補30人を一同に集めて、裁判員と裁判員予備員を選考するシステムもまた、長い時間かけて実務関係者が議論してきたのではなかったのか。
これだけ、後出しジャンケンが得意な人たちだか、「国会で議論」されることだけは嫌いらしい。私たちが「延期も含めて議論しよう」と言い出したら、議論する前に「3万円にしましょう」と言い出すのはどうかと思う。「日当が安すぎる」というところは、見直しの論点になっていない。
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