大汐会という集まりがある。
40年ほど前、同じ職場にいた後輩たちとの固まりだ。昔は、ゴルフをしたり、ソフトボールに興じたりしていた。この頃は、毎年6月頃、銀座のある会館に集って、ささやかにイッパイを呑むだけの会になってしまっていた。それぞれが相応に歳をとったのだ。
ほとんどは私より年下なのだが、残念なことに、すでに幾人かは他界してしまった。
特に今年は、衝撃的なことがあった。
会を開くに際しては、K君とY君が段取りをしてくれている。例年、メール、電話、葉書などによって、出欠の確認をしていたのだが、今年に限って、思ってもみない展開があった。
メールによって出席の意思表示をしていたS君が、当日現れなかった。怪訝に思ったK君が電話をしたところ、幾日か前に亡くなっていたということが分かった。
朝になっても起き出さず、布団の中で冷たくなっていたとのこと。つまり、急性心不全。私よりもずっと若くて、70歳にはなっていなかったはず。
葬儀は近親者のみで執り行われ、我々には知る由もなかった。S君の家族にしても、大汐会のことにまで気が回らなかったようだ。それは当然のこと。
しかし、それを知った我々のショックは大きかった。とりわけ、出欠の連絡を取り仕切っていたK君とY君は、すっかり落ち込んでしまった。
「とにかく、お墓参りをしよう!」
昨日、その墓参りをした。
お墓は八王子市だった。埼玉県と東京都在住者の有志が集まった。私のほか、K君、Y君、Aちゃん、Nさん、Sちゃんの6人。
台風の後だったので、お墓には落葉か散っていた。それらを丹念に取り除き、墓石を綺麗に拭いた。お花を飾り、ワンカップの日本酒を供え、お線香を上げた。S君は大酒呑みだったのだ。
「S君、突然そっちへ逝っちゃって、ほんとにビックリしたよ。今日はおれ達とイッパイやろうや」
そんなことを私は言った。それぞれも思い思いに呟いた。その上で「献杯」。
ほかに、墓参りの女性2人がいた。私たちの光景をどのように感じたろうか。
30分~40分ほどで引き上げた。心に残っていた何かが、すーっと軽くなったのを感じた。
駅前の店で、あらためて飲み直した。
S君の奥さんには、後日、葉書で報告をすることにした。
この頃は、「近親者のみで執り行いました」という形が多い。当然のことだとは思う。しかし心の片隅では、割り切れないものも残ってしまう。
「会長、大汐会には必ず連絡するよう、奥さんには言い残しておいて下さいよ。冷たいことはしないで下さいね」
私はNさんに、そんな意味のことをクドクドと言われた。
自分の葬儀について、すでに考えておくべき年頃になっていた。