新・ほろ酔い気分

酔っているような気分のまま、
愚にもつかない身辺雑記や俳句で遊んでおります。
お目に留めて下されば嬉しいです。

住む世界のケジメ

2008年09月21日 06時10分52秒 | 身辺雑記

 都内の某ホテルでのこと。

「おい、△×!」 うしろのほうから声がした。△×とは私の苗字である。

 振り返った私に、車いすの老人が笑いかけていた。傍らには、屈強な若者が3人。

「………?」 私には見覚えのない4人だった。

「オレだ、Qだよ」 車いすの老人が言った。満面に笑みを浮かべている。

「オー、Qか!」 その笑顔を見て、私は思い出した。まさしくQだ。車いすに走り寄った。

「お前、爺さんになったなァ」 私の両手を握り返しながら、Qが言った。

「お前こそ!」 私も言い返した。2人は大笑いをした。その様子を、若者たちは距離を置いて眺めていた。

 車いすの老人は、まさしくQであった。高校時代の同級生。私がQを老人と見たように、Qも私を老人と見るわけだ。

「元気そうじゃないか」 私を頭からつま先まで眺め、Qが言った。

「うん、なんとか元気だよ。お前は……?」 車いすの老人に、元気かい?とも訊きにくい。

「こんな具合だが、まあまあだな」 Qは照れくさそうに言って、「いろいろあってね」と続けた。

「病気かい?」 

「ああ、もう歳だよ」

「そりゃァ、お互いにナ」

「ウン、そうだよなァ」 Qは感慨深げに言った。そして、若者たちを見やった。

「それじゃ行くぜ。元気でナ!」 Qは手を差し出した。暖かい手のひらが、強く握ってきた。

「もう行くかい。じゃァ、お前も元気でいろよ!」 私もQの手を強く握りながら揺すった。

 3人の若者が、軽く会釈をした。そして、車いすを押して去って行った。わずか数分の再会であった。一瞬私の胸に、風が吹き抜けるほどの穴が空いた。悲しさに似た感情が湧いた。

 Qと私は、高校時代の一時期、クラスメートだった。密な間柄と言えたかもしれない。しかし、親友ではなかった。

 彼はボクシング部で、私は柔道部。2人とも格闘競技部に属していた。

 彼は頭のいい高校生だったが、勉強は嫌いだった。学業などはどうでもいいと思っていた。

 戦後の荒んだ時代が、そんな彼を生んだのだろうか。

 カンニングの手伝いをしたことは多かった。ラブレターの代筆もした。

 間もなく卒業というのに、彼は事件を起こした。学校としては、見逃せない事件だった。温情をかけるわけにもいかず、彼は退学処分を食らった。18歳になる年の春だった。

 それ以来、私たちは会わなくなった。

 23~4歳のころ、偶然に再会した。都内の盛り場だった。

 そのころの彼は、ある組織の「若頭」的な立場になっていた。

 そこへ行けば、3度に1度は会うことができた。

 私も若かったから、恐いもの知らず。彼に会うのが楽しかった。刺激的だったし、ずいぶん無茶もした。今もなお、その頃の具体的な事柄は言えない。

「おい、お前はカタギだ。もうここには来るな。お前のためにならんぞ!」 

 ある日、彼が言った。カタギである私とのケジメだった。私に迷惑をかけたくない配慮だったのだ。

 そのとき以来、彼とは会っていなかった。

 彼の名が、新聞に報じられたこともあった。名誉な内容ではなかった。

 大変な出世(?)をした様子が、雑誌に掲載されたこともあった。多くの配下を引き連れ、盛り場を闊歩している写真を見たこともある。

 会わなくなってから、もう50年の歳月が過ぎ去っていた。

 先日は偶然な再会だった。しかし、呆気ないほどのヤリトリで別れた。私は懐かしさのあまり、もっと話したかったのだが、彼はそれを許さなかった。

 昔も今も、彼には厳しいケジメがあった。その反面、私は大甘な男だった。

 やはり、住む世界が違うようだ。

 今日は嫁さんの墓参り。もちろん、義父母や義姉のお墓もお参りする。

 明後日は実家のほうへ。両親の墓参りだ。弟妹と会えるので、それも楽しみだ。

 いよいよ秋も深まってきた。

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