英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

菅首相の希望的観測、楽観、独断専行がコロナ感染症の危機をもたらす

2021年08月04日 14時26分38秒 | 日本の政治
「事前に相談なかった」。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は8月4日の衆院厚生労働委員会の閉会中審査で、入院対象者を重症者らに絞り込む政府方針について、こう話した。
 昨年9月に首相に就任して以来の菅氏のやり方をものの見事に映し出している。専門家の意見に耳を傾けず、イエスマンの異見だけを取り入れ、閣僚の数人が異見をのべても無視する独断専行に走る。コロナウイルス感染者の広がりが増すたびに、専門家の見解を渋々受け入れる。
 またコロナ感染症のリスクの大きさを理解できない若者を弁舌によって説得できないできた。要するに政治家の基本中の基本である演説が下手なのだ。
 首相の能力を見ていると、広い目で物事を観察できないようだ。コロナ感染症より経済優先と決めたら、事態の変化を見ようとさえしない。極めつけが、東京五輪だ。五輪を開催すると言ったら、尾身氏が「現下の厳しいコロナパンデミックでは開催は常識的にあり得ない」とアドバイスしても、「東京からコロナに打ち勝った証を発信したい」と主張する。
 この主張がピント外れだと意識すると、菅義偉首相が7月17日、日本テレビ系「ウェークアップ」にスタジオ生出演し、無観客となった東京五輪の開催意義を聞かれてこう答えた。
 「オリンピックは、世界で約40億人の人がテレビなどを通じて見ると言われています。例え無観客であったとしても、アスリートの感動を日本の国民のみなさんはもちろんですけど、世界に届けることは大事だと思います」
 菅首相の希望的観測とは裏腹に、コロナ感染者は急増した。苦肉の策として、新型コロナウイルスの感染者が急増している地域での入院治療の対象者の制限に乗り出した。
 病床の逼迫(ひっぱく)が懸念されるためだ。首相は自宅療養中の中等症患者が重症化の兆しがあるときには、速やかに入院させる体制を「整備する」と話す。「した」という過去形なら、まだ菅政権の医療体制の根本的な変換を理解できる。しかしそうではない。「する」なのだ。これからなのだ。
 聞くところによると、コロナウイルスをめぐって、菅首相は自分に都合が良い、希望的観測に基づく助言は受け入れるが、それ以外は拒否するという。部下に、自分の見解に沿った分析を要求するという。
 20世紀の偉大な宰相で、イギリス首相だったウインストン・チャーチルは1940年5月10日に総理大臣に就任した。同じ日、ナチス・ドイツは2400台の最新鋭の戦車と2000機余りの戦闘・爆撃機でフランス、ベルギー、オランダを侵略し始めた。
 この未曾有の危機が到来しても、イギリス国民の大多数はこの危機を危機と感じることができず、ナイトクラブやパブで夕方から飲み、歌い、ごく普通の生活に浸っていた。
 この英国民の態度を危機意識に変えたのはチャーチルその人である。1940年6月4日と18日に議会下院の演説で歴史に残る演説をした。「イギリスは決して独裁者ヒトラーに降伏しない。海と山と通りで最後まで戦う」と。
 菅首相には、危機意識のない多くの若者の心を変えさせるほどの雄弁家ではない。またチャーチルのように専門家の意見に耳を傾ける人でもない。
 感染症対策だけ専門家に聞けば良いという、高をくくった菅首相の姿勢に疑問を持つのは私だけだろうか。コロナ感染症に絡む広範な問題に専門家と議論する度量がないのだろうか。
 チャーチルの部下だった高級官僚のノーマンブルック卿は「ウィンストン(チャーチル)は決定を下すまで異見を述べる人々(専門家)にも注意を払って聞き耳を立てました。納得すれば異見を政策の一部に取り入れました。しかしいったん決定を下すと、自分の決断を翻すことはほとんどなく、誰からの意見にも左右されることはありませんでした」と語っている。
 チャーチルは決定を下すまでは誰からの異見にも耳を傾け、一旦決定したら責任を負って政策を実行した。菅首相には演説が上手いわけでもなく、だからといって専門家の話に耳を傾けるわけでもない。専門家から自らの政策にお墨付きを求めるだけだ。コロナ感染症が始まって1年7カ月余。菅首相と安倍晋三前首相はそうしてきた。
 多くの若者の危機意識がない姿は安倍、菅両政権のコロナ感染症に対する姿勢を映し出しているとしか思えない。今、日本にはチャーチルのような責任を負い、鳥の目をした政治家が必要なことは明白である。そうしなければ、インドで発生したといわれるコロナウイルスの変異種「デルタ株」に勝つことはない。悲惨な状態が待ち受けている。
 
 
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