英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

中途半端に合意しなくてよかった  第2回米朝首脳会談に思う

2019年03月01日 11時10分23秒 | 国際政治と世界の動き
 ベトナムの首都ハノイで27,28日の両日に行われた米朝首脳会談は非核化と経済制裁の解除をめぐる溝が埋まらず、物別れに終わった。そのいきさつがどうであれ、日本人はしばらくの間、枕を高くして眠れる。
 トランプ米大統領は会談後の記者会見で、北朝鮮の金正恩委員長がプルトニュームなどの核爆弾の原料を製造できる寧辺核施設の廃棄と査察の見返りに、経済制裁の全面解除を求めたことは受け入れられないと語った。米国の情報機関は寧辺以外に北朝鮮の核施設が数カ所あることを突き止めている。
 これに対して、トランプ氏の会見から約8時間後の1日午前零時過ぎ、北朝鮮の李容浩外相はハノイ市内のホテルで記者会見を行い、米朝首脳再会談が合意なく終了したことに対する立場を表明、トランプ米大統領が、北朝鮮が制裁の全面解除を求めたと発言したことについて「要求したのは全面的な制裁解除ではなく、一部の解除だ」と反論した。
 李容浩外相の説明は国民生活に支障をきたすものとしているが、石油が含まれる。しかし石油は市民生活に必要なだけの物資ではない。軍事にも転用できる経済制裁の核心部分だ。そして北朝鮮が廃棄提案したのは寧辺核施設の一部だけである。国連外交筋の話では、北朝鮮が国連の対北朝鮮経済制裁の核心部分の廃棄を要求しているのであり、事実上の全面制裁解除に等しいと語っている。
 北朝鮮外相の発言が真実であろうがなかろうが、トランプ大統領が米下院公聴会(※注)を受けて判断したのであろうがなかろうが、北朝鮮の独裁者、金正恩氏が核兵器を手放さないことが再確認された。
 米情報機関は北朝鮮の独裁者が「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)」に応じないとの確証を得ている、と専門家は証言している。
 民主主義国家の人々、とりわけ北朝鮮の核の脅威にさらされている日本人には北朝鮮を信用できない。米国のクリントン政権と北朝鮮は1994年、北朝鮮国内での核開発の凍結などに合意し、それと引き替えに、米国は北朝鮮に軽水炉の提供や以後北朝鮮に毎年食料と50万トンの重油を供与した。しかし北朝鮮は密かに核開発を続けた。また日米中露韓朝の6カ国協議も北朝鮮の核開発への時間稼ぎだった。また拉致問題にしても、蓮池薫さんら拉致被害者5人を返しただけで、横田めぐみさんらは亡くなったなどとして交渉を事実上拒絶、進展はほとんどない。
 韓国の文在寅大統領は北朝鮮への経済支援こそが非核化の核心だと信じているようだが、それには根拠がなく、理想主義者が陥りやすい考えだ。またトランプ大統領は自らの政権維持のために、北朝鮮との首脳会談を実施した節がある。
 これに対して、金正恩委員長は冷徹な現実主義者だ。何よりも知略と策謀に長けている。これはパルチザン出身の祖父、金日成と、祖父を継いだ父、金日正の血を引いているからだろう。日本の戦国時代なら、有能な戦国大名だと後世の人々に語り継がれていただろう。
 金正恩の祖父と父は米国を交渉の場に引きずり込むために、核開発を進めた。核とミサイルを保有するに至った金正恩はこれを自らの世襲独裁体制維持と将来の国策の道具としようとしている。死んでも手放さないだろう。100歩譲っても、米国が永続的な世襲独裁体制を保証するまで、米国を友好国と確信するまで手放さないだろう。核こそ北朝鮮の生命線だと認識しているからだ。
 金委員長は今後、どう出てくるのか。彼にとって、人権問題を重要視していないトランプ大統領はまたとない交渉相手だと考えているにちがいない。商売人気質でディール(取り引き)を重視する米大統領を必要としているのも事実。トランプ大統領の任期中に、何らかの決着を着けたいと思っているだろう。
 トランプ大統領が毅然とした態度で交渉に臨み、米国と同盟国の利益の観点から交渉を続けることを切に望みたい。日本を射程圏内に置いている中距離ミサイルと核兵器を認めるような事態だけは避けてもらいたい。

(注)トランプ元大統領の元側近が27日の米下院の公聴会で、トランプ氏の多岐にわたる違法行為の可能性について具体的な証言をした。大統領は否定している。