英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

議論なき憲法改正を憂慮   参議院選での与党大勝に思う

2016年07月11日 11時15分43秒 | 日本の政治
 参院選は自公の与党が大勝し、非改選も含め、改憲に前向きな自民党(追加公認1人を含む)、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の3党と無所属、「加憲」を掲げる公明党の合計議席が、憲法改正発議に必要な3分の2(162)を確保した。
 安倍晋三首相は10日夜のTBSのニュース番組で、憲法改正について「この選挙で是非が問われたとは考えていない。今後、与野党関係なく憲法審査会でしっかり議論してほしい」と述べた。
 朝日新聞社が10日に全国で実施した参院選の出口調査で、今の憲法を変える必要があるかどうか尋ねたところ、「変える必要がある」は49%で、「変える必要はない」の44%よりやや多かった。一方、比例区で自民、公明、おおさか維新、日本のこころを大切にする党の「改憲4党」に投票をした人でも、「変える必要はない」が3割を超えていた。
 戦後、社会党(現在の社民党)が築いてきた憲法改正をめぐる厳しいハードルが崩れ去った。まさに戦後政治の分岐点を迎えた。時が変化したと思う。
 筆者は憲法を不磨の大典だとは思わないし、歴史が変化して国民の生命と財産が危機に瀕するとあれば、憲法を変えなければならないと確信する。もっと明確にいえば筆者は憲法9条の一部を改正し、中国の国防と領土拡大の脅威にたいして、抑止できる軍事力を準備し、自衛隊の位置を憲法に銘記すべきだと考える。しかし前提がある。それは国民の間に議論が沸き起こり、安倍首相がその議論を巻き起こす導火線となり、議論の輪に飛び込むことが不可欠だ。
 『首相は憲法改正について、選挙前は「自分の在任中には成し遂げたい」とまで語っていたのに、選挙が始まったとたん、積極的な発言を封印した。それでいて選挙が終われば、再び改憲へのアクセルをふかす――。首相は自らの悲願を、こんな不誠実な「後出し」で実現しようというのだろうか』。11日付朝日新聞は社説でこう述べている。
  筆者はこのブログでたびたび安倍首相を批判してきた。それは彼には勇気がない。リスクをとらない。批判を恐れる。リーダーシップがない。正直ではない。政治家の資質として不可欠なこれらの事柄が欠落しているからだ。
 安倍首相が今回、憲法改正への意欲を積極的に語らなかったのはなぜか。 「2010年に憲法改正案の発議をめざす」と公約しながら07年の参院選に惨敗。退陣したトラウマがあるからにほかならない。首相は、憲法改正を具体的に語れば語るほど、世論の反発が大きくなると思っているにちがいない。
 ここが偉大な政治家と平凡な政治家の違いである。一流の政治家と二流、三流の政治家の違いである。第2次世界大戦中、英国民を率いたウィンストン・チャーチルは1930年代、野党ばかりでなく自分が所属する保守党議員からも疎んじられ、煙たがられながらも一貫して独裁者アドルフ・ヒトラーが率いるナチス・ドイツの軍事的、政治的脅威を説き続けた。「戦争屋」とメディアから叩かれても、自らの信念に従い、英国軍、とりわけ空軍の戦力強化を国民に訴え続けた。
 国民は1938年晩秋までチャーチルの声に耳を傾けなかった。しかし、ヒトラー・ドイツが自ら進んで結んだミュンヘン協定を破棄してチェコスロバキア(現在はチェコとスロバキアに分離独立)のプラハに進駐したとき、自らの誤りに気づき、チャーチルを支持し始めたのである。
 これに対して安倍首相は「自らの本意」をアベノミクス経済政策で隠し、国民が関心をもつ経済政策や社会福祉政策、子育て支援に声を大にしてがなり立てている。
 また首相は、改憲案を最終的に承認するのは国民投票であることなどを指摘して「選挙で争点とすることは必ずしも必要ない」と説明した。
 朝日新聞は言う。「それは違う。改正の論点を選挙で問い、そのうえで選ばれた議員によって幅広い合意形成を図る熟議があり、最終的に国民投票で承認する。これがあるべきプロセスだ。国会が発議するまで国民の意見は聞かなくていいというのであれば、やはり憲法は誰のものであるのかという根本をはき違えている」
 要するに、一言で言えば、安倍首相と自民党は議会制民主主義の根幹を理解していない。「議論、議論、そして理解、理解」してこそ国民と政府が心を一つにすることができ、万一の困苦に立ち向かうことができるのだ。
 第2次世界大戦が始まって約10カ月後、ドイツのルフトワフェ(空軍)数千の爆撃機と戦闘機がロンドンを空襲、ロンドン市民を殺戮し、建物やビルを破壊した。チャーチル首相はこの「バトル・オブ・ブリテン(英国の戦い)」の最中、64回にわたりロンドン市街に足を運び、ロンドン市民を激励し、「苦労をかける」と詫びた。それに対して市民は異口同音に首相を逆に励ました。「首相、われわれは耐えます。共に戦いましょう。ヒトラーとドイツ軍に倍返しで打撃を与えましょう。子どもや孫のためにわれわれの制度(議会制民主主義制度)を死守しましょう。」。逆に国民から励まされたチャーチルの目はうるんでいたという。
 国民と首相の固いきずなは、チャーチルが1930年代に国民や与野党政治家の批判にひるむことのなく、自らの主張を訴え続けたからである。安倍首相と与党は国民からの反発を恐れ「改憲隠し」をし、姑息な手段で憲法を改正しようとしている。
 国民も国民だ。有権者も有権者だ。彼らには好奇心がない。今回参政権を認められた19歳の若者は「選挙に興味がない」と言って投票所に足を運ばなかった。
この参院選挙の結果で一気に進むほど、憲法改正は容易ではない。それでも、安倍首相は念願の憲法改正へ向かって進むだろう。改憲が現実味を帯びながら進められていくのは間違いない。
 政府、与野党議員、国民が真剣に憲法改正問題を議論しなければ、日本国民の団結が失われ、大きな禍根を残すだろう。世界から日本人は未成熟な民主主義国民だと言われるだろう。筆者は国民と政府、与野党が真剣に憲法改正についての議論を始めるまで、この問題、とりわけ9条改正に反対する。